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【第一部完】断罪されたりもしたけれど、私は元気です! ー深淵の魔王様とミルクティー色の髪の冒険者ー  作者: tea


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17/21

17.誤解です

門まであと二、三歩という時でした。


ガシャン! ガシャン!! ガシャン!!!

突然、物凄い音を立てながら目の前に鉄の棒が降り注いできました。


恐怖でその場に凍り付き、恐る恐る振り向けば、背後にも同じように鉄の棒が何本も地面に深く突き刺さっています。


一歩間違えれば串刺しでした。

モズの速贄のようになった自分の姿の想像してしまい、改めて血の気が引きます。



バクバクと嫌な音を立てる胸を手で押さえ、改めて周囲を見回します。

鉄の棒は出鱈目に降り注いでいた訳ではないようで、私をグルっと囲むように刺さっています。


どうやら、私、檻に閉じ込められたような状態になっているようです。

何か変なトラップを踏んでしまったのでしょうか?


何はともあれ、死ななくてよかったぁ……。

魔方陣の上を注意せず走るなんて、考えてみれば下策でしたね。


次は気を付けたいと思います☆


とりあえず自力では全く出られそうにないので、ベリル様が起きたら助けてもらいましょう。

そう思った時でした。



「ここに居るのではなかったのか?」

不意に背後から、低く底冷えがするような冷たい声がしました。


振り向けば、いつの間にかベリル様がそこに立っていらっしゃいます。

これでもう安心と肩の力を抜こうとした時でした。


「この機会を狙っていたのか? だとしたら残念だったな」

初めて会った時のように、禍々しい気配を隠そうとして下さらない為か、肌が恐怖でビリビリします。


気持ちよく寝居ていたところを、私がトラップ踏んで起こしちゃったからご機嫌がよろしくないのでしょうか?

だったら心から反省するので、その恐ろしい気配を早く仕舞っていただきたいです。



しかし、ベリル様は一向にその怒気を隠そうともしないまま独り言を続けられます。

「逃げ出せるなどと考える頭の悪い小鳥には仕置きが必要だな。鎖でつなぐか? 逃げられぬよう足の腱を切るか? ……それともいっそ、もう喰ってしまおうか?」


「ベリル様……?」


『どうだ、怖かっただろう?』

またそう言うかのような、悪い笑顔でニヤッと笑ってくださることを期待して、思わず震えてしまった声で、名前を呼び、その瞳を見上げます。


しかし願いとは裏腹に、見上げる先には温かみの一切を失った凍いてつくアクアマリンの瞳があるだけで、その口元に浮かぶのはあからさまな怒りでした。


「こ、こわいです」

ベリル様は、いったい何をこんなに怒っていらっしゃるのでしょう?

何か言わなければと口を開くのですが、向けられた怒気に体が竦んでハクハクと息をするばかりになります。


「ベリル、様……」

ようやくの思いで、縋るように再びその名を呼べば、ベリル様がほんの少しだけ詰めていた息を吐くのが分かりました。


「全く、仕方の無いヤツだ」

そう言って、肌がビリビリする気配は消さないままに、ベリル様がフッと笑われます。

意味が分かりませんでしたが、とにかく許していただけたのかとホッとしかけた瞬間でした。


「鎖に繋ぐのと足の腱を切るのと、どちらがいいか特別に選ばせてやる」

ベリル様の低く愉し気な声に、ゾッと背筋が凍りました。


心臓が先ほど以上にバクバクと嫌な音を立てます。

一体、私は何を間違えてしまったのでしょうか?


「どうした? 特別に選ばせてやろうと言っているんだ」

ベリル様が、檻にもたれ掛かるようにして、私の瞳を捕食者の瞳で愉しげに覗き込みそんな事を仰います。


何か言わなければと思い口を開くのですが、恐怖に言葉が出ず、代わりに瞳から涙が零れました。


「どうした? 自分で選ばなくていいのか?」

ベリル様の優し気な猫撫で声が焦りに追い打ちをかけてきます。


「そうか、では私が選ぼう」

ベリル様がクスリと忍び笑いを漏らして、私の足に向けて手を伸ばした時でした。


「く、鎖……」

震える声で、なんとかそれだけ言えば、ベリル様がこちらに伸ばしていた手を足に触れるぎりぎりの所で止められました。


「良く聞こえなかった。なんと言った?」

嗤いながら、暗い暗い瞳を愉しげに細めながら聞き返されます。


「く……」

本当はどちらも嫌に決まっています。

思わず言い淀めば、ベリル様の表情から再び笑みが消えました。


「く?」

「……」

「……喰らうか?」


ベリル様の冷たい冷たい低い声に、思わず体がビクッ!!と跳ねました。


冷たく重い鉄の枷が首にはまる瞬間の、あの身が竦むような感触は、長い事忘れられそうにもありません。



一体私が何をしたと言うのでしょう。

逃げる?

確かに魔方陣から出ようとしましたが、それはベリル様を助ける為だったのに。


「あぁ、そんなに泣くな。お前達の涙は苦手だと言っただろう」

ベリル様が涙を止められない私を見て、蕩けそうに甘い顔をして、優しい声でおっしゃいました。


直接は肌に触れられないため、慰めるように首の枷を親指で優しく撫でられます。


私の瞳からはまたボロボロと涙が零れました。



「さあ、仕置きは終わりだ。一人にして寂しい思いをさせたか?」

ぱっと表情を変えたベリル様が、これまで通り怒気を消して、二ッと笑っておどけた声でそんな事を仰いました。


……今更そんな風に繕われたところで、薄ら寒いだけです。


この仕打ちを許すつもりはありませんが、でも、先ほどまでの剣呑な雰囲気に戻られても困るので黙ったまま視線を逸らします。


会話を拒否して精一杯の反抗を示しますが、ベリル様はそれに特別気分を害した様子もなくて、それがまた酷く私の癇に障りました。



私なりに、ベリル様には何か特別な想いの様な物を感じていたのに……。

ベリル様はガーネットの欠片が手元にあればそれで良かったのでしょうか?


それもまた悔しくて涙がポロポロ溢れてきますが、そんな姿もベリル様に見せるのは悔しくて、可能な限り彼に背を向けました。



こうなったら、意地でもここから逃げ出してやります!

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