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【第一部完】断罪されたりもしたけれど、私は元気です! ー深淵の魔王様とミルクティー色の髪の冒険者ー  作者: tea


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12/21

12.値をチェックしておきましょう

ようやく外に出られた!!

そう思った次の瞬間です。


立ち込める酷い匂いに私は思わず腕で鼻を覆いました。

たどり着いた先は外ではなく、広いホールのようになった空間で、その先に道はなく行き止まりでした。



部屋には沢山の松明の明かりが炊かれています。


床には一面、赤い塗料で……

いいえ、塗料ではないでしょうね、このむせ返るような鉄の匂い、おそらく人の血液でしょう。

前に山の中のヒャッハーさん達の秘密基地で見たものよりも大がかりかつ緻密な魔方陣がびっしりと書き込まれています。



コレ、絶対にやばいヤツです!

この世界で、魔方陣で何かを召喚するなんてことが本当に出来るのか私には分かりませんが、すぐさまこれを壊さないといけないと、生物としての生存本能がビービーと最大音量で警報を鳴らしてきます。



「あとは飛竜を供物に捧げれば完成だったんだ」

追いかけてきた赤毛のヒャッハーさんが部屋の入り口手前に立ち、間合いを詰めることなく、低い声で言いました。


「一体何を呼び出す気?」

振り返り震える声で問いかければ、赤毛のヒャッハーさんは

「魔王さ」

そう言って暗くニヤリと嗤いました。



魔王……そんな人もこの世界にいたのですね。

本来ならば

『魔王討伐とか子どもの時からの夢じゃん! 燃えるわぁぁぁ!!!』

とか何とか言いたいところですが……。


まだ召喚すらされていないのに、この肌がビリビリする感じ、絶対に向こうが圧倒的格上です!

決して挑んではいけない相手だと、チートで得たスキルのうちの何かが全力で叫んできます。


この召喚、完全な形で成功すれば、一つの国くらいあっさり滅ぶんじゃないでしょうか?

そんなことになる前に、この魔方陣はサッサと壊させてもらいましょう。


幸い、飛竜の用意は間に合わなかったみたいですし。

もしかしたらセスに渡したあの飛竜は、この召喚の供物として捕縛されていたのかもしれませんね。

だとしたら、ここに運ばれる前に奪還した私、本当にグッジョブです。



そんなふうに思った時でした。

私の足元の魔方陣に描かれた古代文字がボワンと禍々しい光を放ちました。

そしてそこを起点にどんどん怪しい光が魔方陣全体へと広がっていきます。


はっとして顔を上げると、ヒャッハーさんE、F、Gが、何やら呪文の詠唱みたいなことをしています。



「お前、童貞だな?」

赤毛のヒャッハーさんが気持ち悪い笑顔で聞いてきます。


今このシチュエーションで一番聞きたいことがソレですか?!

魔王召喚を前にして、何のセクハラかと思っていたら

「召喚の供物は、高い魔力持ちの処女か童貞と昔から相場が決まっている」

赤毛のヒャッハーさんがそう続けました。


成程。

壮絶悪い予感がします。


「長年かけてようやく書き上げた陣をこのまま消されるくらいなら、不完全なままでも召喚を強行してやる! 飛竜の代わりの贄はお前だ!!」


赤毛のヒャッハーさんがそう叫んだ次の瞬間でした。

禍々しい光が爆発し、地面が激しく揺れあたりを地響きが包みました。



揺れと地響きが収まってなお、小石がパラパラと振ってくる音が聞こえます。

恐らく先ほどの揺れで、大きくどこかが崩れたのでしょう。


ゆっくり目を開くと、すぐそばに、何か赤黒い塊が見えました。

それは、なにやら酷い臭気と狂気、そして呪いをべったり孕んだ、腐った血と肉の塊に見えました。



はい、ここでSAN値チェックです。


ウソです☆



不定の狂気に陥りそうなくらい鳥肌が止まらず、怖くて怖くて思わず現実逃避してみましたが、そんなことしている場合じゃないです。


距離を少しでも距離を取りたいところですが、恐怖からではなく、何かの力により縫い留められたかのように足が動かせません。



「仮初に蘇りし魔王よ、おれに従え!」

赤毛のヒャッハーさんが赤黒い塊に向かって叫びました。


『刺激しちゃダメ!!』

そう声をかける暇もありませんでした。

赤黒塊が、アメーバーのようににゅっと伸びて、スライムが獲物を捕食するかのようにバクリと赤毛さんを飲み込みました。



「うわぁぁぁ!」

「化け物!!」

「召喚は失敗だったのか?!!」

恐怖に声を上げた他のヒャッハーさん達も、次々に一飲みにされていきます。



赤黒い塊の中に、半透明に透けた部分があり思わずそこを見ると、飲み込まれたヒャッハーさん達の骨が解けていくのが見え、私は辛うじて悲鳴を飲み込みました。


ここで声を上げれば、私も一飲みコースでしょう。


なるべく赤黒いこの塊を刺激しないよう、息を押し殺しながら何か弱点はないかと観察していると、半透明な部分に再び、消化されて消えた筈の骨が見えました。

次いで、その周りに赤と青で血管が配されます。

みるみるウチに、半透明だった部分に皮膚が出来、気が付いた時には、そこに一人の男性が立っていました。



年は二十代半と言ったところでしょうか。


スラリとした体躯に、黒地に金ボタンが凛々しい軍服と金糸の刺繍が施された白い外套。

腰には金の柄の彼と同じく細りとした長剣が見えました


淡い金髪に、アクアマリンの瞳。

長いまつげがイケメン俳優顔負けの、男らしくも甘いマスクに妖艶かつ気だるげな影を落としています。


不機嫌そうに結ばれていた形の良い薄い唇から、物憂げな溜息が零れました。

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