11.猫は液体です
そんな風に思い、張り切って北門を出て早三時間―
とっくに沢山のハーブが自生する野原に着いていていいはずなのに、何故か私は今、深い深い洞窟の奥にいます。
ふっしぎー☆
街道が小さな洞窟を左に迂回するように続いていたから、ここを突っ切れば三十分くらいで野原に付くかなと思ったんですが……。
はて?
私、ちゃんと洞窟の傍ですれ違った地元のお爺ちゃんに聞いたんですよ。
「この洞窟通り抜けられますか?」
って。
おじいちゃんは何故かびっくりした顔をしていましたが、
「確かに昔は、反対側まで抜けられた様に聞いているが……いや、じゃが……」
と、親切に教えてくれました。
だから安心して近道することにしたのですが、この洞窟中の一体どこで道を間違えたのでしょう??
『そもそも洞窟に入る時点で間違ってるだろうが!』
というセスのツッコミが聞こえてきそうな気がしますが、もちろん華麗にスルーしておきます。
そう言えば昔、有名なプロレスラーさんが、
『危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道になる。迷わず行けよ!』
って言ってたような気がします。
そうです!
迷ったのではないかと変に右往左往するから本当に迷うのです!!
気持ちを切り替えるため、1、2、3と数えたらウジウジ振り返ることなくダーッと行きましょう!!!
そんなことを思いながら左に左に洞窟を進んでいくと、先が明るくなっており、人の話し声が聞こえてきました。
やりました!
ついに洞窟を抜けたようです。
きっとこの先が野原なのでしょう。
女将さんは『一時間くらい』って表現していましたが、駅から五分は実は十五分って聞いたことがありますし、街から一時間はこの世界ではきっと三、四時間くらいの事を指すものと思われます。
スキップしながら
「こんにちはー」
って挨拶しながら明かりの中に飛び込むと、そこは外ではなく小さな部屋のようになった空間で、中にいた世紀末ヒャッハーさん達がギョッとしてこちらを一斉に向きました。
あれ(・∀・)??
混乱していると、その中の一人の方が
「またお前か!! 畜生! 今度こそ上手く巻いたと思ったのにまた付けられたのか?!!」
って心底悔しそうに地団駄を踏んでいます。
モブ……じゃなかった、人の顔を覚えるのは苦手なので、あっちこっちに似たような人がいるもだなぁーと思っていましたが……。
ぶっ飛ばしたヒャッハーさんの内、何人かは同じ方だったようですね。
知りませんでした。
何度も吹っ飛ばしてしまった方、すみません。
あ、でも皆さんピンピンされてますね。
風魔法、いつも行く末までは見届けられない故少し不安に思っていましたが、案外着地はソフトランディングな模様。
いい事を教えてもらいました。
これで今後も気兼ねなく、風魔法をバンバンぶっ放せそうです。
そんな事を考えたところで、ハッとしました。
洞窟で風魔法なんて使ったら確実に落盤故、これまでの様にぶっ飛ばしてサヨナラする事が出来ません。
洞窟で火は煙に巻かれて死ぬ危険があるので厳禁でしょうし、水は私も一緒に溺れます。
剣を振り回すには狭いですし……。
あれ?
私もしかしてピンチです??( ゜Д゜)
私の考えが伝わったのか、私に以前も吹っ飛ばされたらしい赤毛のヒャッハーさんが、ニヤリといかにも悪役といった顔をして嗤い、周りのヒャッハーさん達に指示を出しました。
「囲め、逃がすなよ」
赤毛のヒャッハーさんの指示を受け、他のヒャッハーさん達がじりじりと間合いを図りながら詰め寄ってきます。
ヒャッハーさんAは短剣片手に切りかかって来たので、チートでサッと躱しました。
次いで、ヒャッハーBさんがが殴りかかって来たのでこれもオートで余裕で躱します。
ヒャッハーさんCは、私の動きを止めようと素手で掴み掛かって来たので先ほどの二人以上に気を付けて避けました。
飛竜に噛まれてなんともなかったことから考えて、おそらく殴られようと切りかかられようと大したダメージは受けない気はします。
(勿論、殴られるのも切られるのも嫌なので、全力で避けますが)
一方、蔦に絡まったみたいに、命の危険が直接及ばない拘束の仕方をされるとチートが働かず身動きが取れなくなる可能性があるので、捕まることは全力で回避することにしました。
そんなことを考えながらとりあえず相手の攻撃を避け続けていると、赤毛のヒャッハーさんが他のヒャッハーさん達に、何やら小声で指示を出しました。
次の瞬間、子分さんその一、その二を始め、他の人たちも武器を仕舞い掴み掛かってきます。
どうやら、私が相手を傷つけるのが怖くて反撃出来ない事、そして極端に掴まれるとを避けていることに気づかれてしまったようです。
力では圧倒的に私の方がチートで上なはずなのにぃ!
必死になって躱すことしか出来ず悔しいです。
狭い部屋なので、避けようにも派手に逃げ回るようなスペースもありません。
「猫は液体、猫は液体」
そう呟きながら、抱っこようとした猫カフェの猫が、いつもヌルンと手を滑りぬけていった様を思い出し真似しながら、ヒャッハーさん達の手をすり抜けます。
「何だコイツの動きは?!」
ヒャッハーさんDが、残念かつ気持ちが悪い子を見るような顔で見てきて若干心が傷つきましたが、頑張って全力で無視します。
そんな攻防を繰り返す事、約五分。
いい加減疲れてきましたo((;>口<;))o
体力的には特に問題ないのですが、集中力が落ちてきたのが分かります。
最初は完璧に避けきっていたのに、何度か腕に触れられるまでに避ける精度が落ちてきてヒヤリとさせられることが増えてきてしまいました。
何か打開策はないかと周囲を探った時、赤毛のヒャッハーさんの後ろに、入って来たのとは別の道が続いており、その先が明るいことに気づきました。
今度こそ外に出られるのかもしれません!
赤毛さんにまた考えを読まれる前に、私は子分さん達と赤毛さんの不意を突いて走りだしました。
焦った赤毛のヒャッハーさんが伸ばした手を、まさに間一髪のところで避け、私は明るい方に向かって一心不乱に駆け抜けます。
「くそっ!そっちに行かせるわけには……」
背後で、悔しそうな赤毛さんの声が聞こえました。




