10.便利屋さんはじめました
その後、セスに案内され、森を抜け、朝来たのとは異なる街道に出ました。
このまま北に道なりに行けば次の街に付くのだそうです。
「いいか、今度こそ絶対に街道を離れるんじゃないぞ!!」
「分かった、もう絶対に近道しないってぇ」
「ぜえぇったいだぞ!!!」
……オカンセスしつこいです。
最初のあのチャラさ、胡散臭さが今となっては恋しい気さえしてきます。
「そうだ、旅をするならついでに一つ頼まれてくれないか?」
不意にセスがオカンの表情を消し、少し真面目な顔で言いました。
セスに頼まれたのは、情報屋さんとしてのお仕事でした。
いろんな街や村を回った際に、気になったニュースがあったら書き留めておいて、大きな街に付いた時に手紙として送って欲しいのだそうです。
「どこに送ればいい?」
そう尋ねると、セスがセスの瞳と同じ淡い水色をした石が付いた首飾りをくれました。
街で一番大きな大衆食堂でこれを見せれば、宛名を書かずともセスの元に届くのだと言います。
「……セスって本当にいったい何者?」
流しのリュート弾きさんだという事にしようと思っていましたが……、やはりどうもそれだけではないようです。
「そう言うアルト自身はどうなんだ?」
出会った時のように、チャラそうにニヤッと笑って返されます。
私ですか?
私は、自称女神さまのおっちょこちょいでこちらの世界に転生してきた、今は国外追放にとなった元公爵令嬢ですが何か?
もちろんそんな事は言えないので
「ぐぬぬっ」
と歯噛みした後、黙っておきます。
まぁいいか☆
特にやることないですし、気が向く限り引き受けましょう。
「分かった」
そう返事をすると、セスはいつものようにニカッと人好きのする笑顔を見せて
「頼んだぜ」
と言って、また私の髪をぐしゃぐしゃと撫でました。
そして心配そうに何度もこちらを振り返りながら、セスは街道を左に去っていきました。
さて気を取り直して、今度こそ、今度こそ一人旅のスタートです!!
朝早くに街を出たのに、寄り道をしたせいですでに日は傾きかけています。
急がないと街に付く前に夜になってしまいますね。
地図を見ると、この街道は少し先に見える小さい山を大きく右に迂回する形で次の街まで続いているようです。
と、いうことはあの山を突っ切れば近道ということです!
さぁどんどん行きましょう☆
結局、次の街に付いたのはそれから三日後の事で、着いた先も何故か当初予定していた街よりもずっと地図の右側に逸れたところに位置する街でした。
解せぬぅ。
いろいろ納得がいきませんが、一旦それは置いておいて、とりあえずセスに手紙を出すことにします。
手紙にはまた山の中で世紀末ヒャッハーな人達に会ったこと、その人達の秘密基地みたいなところに行ったら変な魔方陣が描かれた気味悪い部屋があったことを書きました。
この街で一番大きな大衆食堂のカウンターで、店の女将さんにセスからもらった石を見せると、私が書いた手紙を受け取ってくれるのと同時に、何故か私宛の手紙を渡されました。
不思議に思って封を開けると、
『だから街道を離れるなって言っただろうが! この方向音痴の大馬鹿野郎!!』
と大変綺麗な字で、お叱りの言葉とセスのサインが書かれていました。
なぜバレたしΣ( ̄ロ ̄lll)
オカン恐るべしです。
気を取り直してせっかくだから、このままこの食堂でご飯を食べていくことにしました。
女将さんにおすすめを聞くと、鶏肉のトマト煮と、牛肉のシチューのようなものを勧められます。
散々迷った末、鶏肉を選びました。
ホロホロに煮込まれた鶏肉をあっという間に食べてしまって、追加で頼んだ焼きたてのパンに残ったトマトソースを搦めて食べている時でした。
「もしよかったら、頼まれごとをしてくれないかい?」
女将さんに声を掛けられました。
「街の北門を出て一時間くらい歩いた先の野原に生えるハーブを取ってきてくれないかい? 取ってきてくれたらお礼に、さっき迷っていたシチューをごちそうするよ」
おぉ!クエストですか?!
いいですね、こういうの待ってました!
今日から私は情報屋さん改め、便利屋さんとして、いろんな人の悩みや世界にはびこる紛争等を趣味で解決していきたいと思います!
二つ返事で請け負うと、おかみさんがハーブの見本をくれました。
この葉っぱを摘んでくればいいのですね!
ご飯も完食したことですし、さっそく出かけてみることにしました。
地図を見せ、女将さんに目的地である野原の場所を指してもらいます。
街の北門を出てとりあえず左の方に道なりに進めばいいようですね。
片道一時間ということは、今から行けば余裕で日暮れまでには帰って来られそうです。
特にこの街でやることもありませんし、観光ついでにクエストこなして見せましょう!
お礼のシチューは夕ご飯ですね。
鶏のトマト煮込みもとっても美味しかったので今から楽しみです。
頑張ってお腹を空かせてこなければ!




