あたしの熊さん
ウォーレンのラボラトリーを出て家に戻ったピギー。時刻は19時少し前だった。アナ、もう帰ってっかな。ピギーはアナに電話した。「もしもし、ピギー」「アナ、今度の日曜空いてる?」「うん、大丈夫よ。どうかしたの?」「いいや、別に。11時にブルックリンブリッジパークで会わない?」「そうね、外も少しずつ温かくなってきたしピクニックもいいわよね。あたし、サンドイッチ作って行くね」「マジ、俺、すっげー楽しみにしてる。じゃ、日曜に」「うん、じゃーね、ピギー」ピギーは身体が戻った事は伝えなかった。アナをびっくりさせようと想って。日曜。動物達も冬の眠りから目を覚まそうと寝床でもぞもぞしながら春の草花も所々ちらほらと芽生えて人々が活力に漲る兆しを感じさせる穏やかな日だった。ブルックリンブリッジパークの入り口の所でアナを待っているピギー。100mほど先にバスケットを抱えたアナが歩いて来ているのが目に入った。そわそわしながらアナが近寄ってくるのを待つ。10m前にアナが来た。「やあ、アナ」ピギーの方を見向きもせずに素知らぬふりで公園の中に入って行こうとするアナ。ピギーが言う。「おい、アナってば」公園に入って10mくらいしてアナが振り向く。「あら、いたの。いつものピギーじゃなかったからあたし気付かなかったわ」「おい、冗談だろ。俺の図体こんなにでかいのにー」「うふ、冗談よ。いつもあなたに揶揄われてばかりだからたまにはあたしもやり返さなくっちゃね」「おい、冗談きついぜー。俺、嫌われちまったのかと思ったぜ」手をつないで1時間くらい公園を散策するピギーとアナ。ベンチに腰掛けてランチにする二人。アナがウエットティッシュを出してピギーに手渡す。「あんがと、アナ」卵とハムのサンドイッチ、ツナサンド、ベーコンエッグのサンドイッチ。アナが腕によりをかけたサンドイッチがバスケットの中に所狭しと並んでいる。「どうぞ、ピギー、召し上がれ」公園の砂場でおままごとをしている少年と少女のようなピギーとアナ。ピギーが卵とハムのサンドイッチを掴んで一口で口に放り込む。「すっげー美味い」顔が自然と綻ぶピギー。「沢山作ってきたから一杯食べてね。食べ残したら死刑よ」魔法瓶からコーヒーを注いでピギーに渡しながら悪戯っぽく言うアナ。「それって厳し過ぎじゃねえの。せめて懲役刑じゃ駄目?」「駄目、絶対死刑」「解ったよ。死ぬ気で食べます」「うん、それで宜しい」笑い合うピギーとアナ。お腹が一杯になったピギー。「美味しかったよ、アナ、あんがと」アナが微笑みながら言う。「どう致しまして」バスケットを片して二人でコーヒーを飲みながら春の陽気に身を委ねる。ピギーの腕に頭を凭れるアナ。「すっげーいい天気だなー」「うん」「そう言えば、俺が元に戻ったの何も聞いてこないけど…」「えー、だってあなたはあなたじゃない。見た目が変わっただけよ。冬眠してた熊さんが眠りから目が覚めたって感じね。お帰り、あたしの熊さん。」「こんな俺でも好きでいてくれるの?」「ええ、もちろんよ」「俺と結婚してくれるかい、アナ」「うーん、どーしよっかなー」焦らすアナ。「イエスって言ってくれよ。言ってくれなかったら俺エンパイア ステート ビルディングから飛び降りて死んじゃうよ」「うふ、ちょっと焦らしただけよ。もちろんイエスよ。あたしを幸せにしてください」アナの目から一筋の伝うものをピギーは観た。アナの手の甲に手を添えてピギーが言う。「馬鹿な俺だけどこれからもよろしくお願いします」5月。ブルックリンのとあるチャペル。ピギーとアナの親族、友人が揃って賑やかに式が執り行われた。純白のタキシードで身を固めて鯱張るピギー。バイオレットのウェディングドレスで華やかに着飾ったアナ。その中にウォーレンの姿もあった。「やあ、ピギー、おめでとう。アナ、とても素敵だよ。実はアナに僕の親友を紹介しようと思ってね」ウォーレンの車のウィンドウから顔を覗かせるアインシュタイン。「よお、アインシュタインじゃねえか。元気にしてたか」ピギーがアインシュタインの頭を撫でる。「まあ、可愛いワンちゃん」アナもアインシュタインの頭を撫でる。尻尾を振って喜ぶアインシュタイン。「ピギー、アナ、末永くお幸せに」その日はピギーとアナにとって皆から祝福され忘れられない5月の麗らかな午後となった。