デート
ピギーは家で一眠りしてクラブに向かった。骸骨と化したその風貌に特注の最新ブランドを着こなした風体が相まって客の度肝を抜いたが皆がピギーの声を聞くと安心した。「よお、ピギー、ぶったまげちまったぜ。あんた、ガリガリつーかゴツゴツになっちまったな」「ああ、参っちまったぜ。て言ってんけどよ自分じゃねえみたいな感じがして意外と気に入ってんだけどな。今夜も楽しんでってくれよな」持ち前のカンフーアクションと腰振りもこの見た目で更に盛り上がった。骸骨となったピギー“ファットマン”プレスリー。この宣伝は評判を呼びピギーの行く場所行く場所は常に人集りになった。「よお、P.G.、俺のフ“ァットマン”って名なんだけどよ、いっその事“スカルボーン”にしちまった方がいいんじゃねえのか?」「ピギー、お前解ってないな。骸骨なのに“ファットマン”っていうギャップがいいんじゃねえのかよ」「ふーん、そんなもんなのかなー」そして、ミッドナイト フライデーの日がやって来た。ピギーが皿を回しフロアは熱狂の渦。場を盛り上げるだけ盛り上げてピギーもフロアで客と談笑した。アナも来ていた。ピギーは溢れる思いを伝えるのにデートに誘うのはもう時宜にかなっているんじゃないのかと想っていた。「やあ、アナ、元気にしてた?」「ハーイ、ピギー、1ヶ月ぶりね。あなたすっごい変わったわね」「えー、そっかなー」惚けるピギー。「今夜は俺オールじゃなくて2時で上がんだけど、その後君をデートに誘いたいなーって想ってんだけど。オッケーしてくれる?」「ええ、今日と明日は休みだからいいわよ」「マ、マジでー。終わったら迎えに行くからバーんとこで待っててくれる?」「ええ、解ったわ」ピギーはピョンピョンと兎のようにスキップしながらまた皿を回しに戻って行った。2時ちょっと過ぎ。「アナ、ゴメン、待たせたね。んじゃ、行こっか」駐車場に行きピギーの愛車シボレー カマロSSに乗り込む。キーを捻りエンジンが掛かるとオーディオからスライ&ザ ファミリー ストーンの『暴動』が流れてきた。「あたし、このアルバム大好きなの」「そーだよな。このファンキーでゴキゲンな感じ堪んないよね。スライはやっぱ天才だぜ」ピギーは車を走らせた。「何処に連れて行ってくれるの、ピギー?」アナが尋ねる。「ヒ ミ ツ」途中24時間営業のハンバーガーショップのドライブスルーでホットコーヒーを買ってまた少し車を走らせた。「アナ、君は何処に住んでんの?」「ブルックリンのセントラル アベニューよ。あなたは何処に住んでるの、ピギー」「それもヒ ミ ツ」「もう、あなたったら」そうこうしてるうちにアッパー ニューヨークの港に着いた。車から降りて二人で防波堤に行った。打ち寄せる波がテトラポットにぶつかり波しぶきを舞上げる。「冬の海ってのもなかなかおつなもんだろ」「ええ、そうね、素敵だわ」「空を見てごらん。空気が澄み切ってっから星も奇麗に見えるだろ」「うん」ピギーは自分の上着を脱いでアナの肩に掛けてあげる。小柄なアナは子供が大人の服を着ているみたいで何とも可愛らしい。「あんがと、ピギー」照れるピギーは夜空を指さしながら言った。「あれが冬のダイヤモンド。あれがおうし座のアルデバラ。ステーキにしたら美味いだろうな。あれがおおいぬ座のシリウスで、あれがこいぬ座のプロキオン。韓国では犬だって食うらしいぜ」「げー、それほんとなの?」ああ、マジだぜ。その横のあれがこぶた座。丸焼きにしたらよさそうだな。その右上を見てごらん。家畜小屋だか納屋だか貧相に見える建物みたいな星座があるだろ。あれが豚小屋座。あの星はグレイトフル デッドのロン“ピッグペン”マッカーナンが発見したらしいんだ。んでもって豚小屋座って名付けたそうなんだ。“ピッグペン”のヴォーカルとハープは最高だったぜ。早く逝っちまったのが残念だ」「ピギー、あなたって物知りなのね。それにロマンチストでとってもクール」「いやー、それほどでもないよ。そのずっと右を見てごらん。あの女性が四つん這いになって女豹のポーズを取ってるみたいに見えるのが雌豚座。あのヒップがビッチでイカしてるだろ」「それって、ジョークでしょ、ピギー」「えっ、解っちゃった」「もう、あなたってキュートでユーモアのある人なんだから」夜空に燦然と輝く星々が二人を照らす。海からの朔風が二人に吹き付ける。「戻ろっか」ピギーがアナの手を引いて車に戻る。車に乗り込むとアナが言った。「あ、コンタクトがシートに落ちちゃったかも」ピギーが車内のライトを点けて助手席に身を乗り出して探そうとする。すると、アナがピギーの頭蓋骨の両顎に両手を這わせてキスをした「ピギー、今のあなたも魅力的だけど前のあなたも熊さんみたいであたしは好きよ」ピギーは身体に電流が走ったようになり顎がガクガクと鳴った。「俺と付き合ってくれるかい?」アナはこくりと頷いて言った。「うん、いいよ」