恋する豚
ニューヨーク近辺のDJ界でその巨漢を知らない者はいなかった。身の丈6フィート2インチ、骨に纏った肉と脂は360ポンド。巨漢の名はピギー“ファットマン”プレスリー。その風貌は香港のスーパースター、サモ ハン キンポーの若かりし頃のようであり、エルヴィス プレスリーを模倣した特徴的なもみ上げ、弛んだお腹がでっぷりと突き出し、プレイノ合間に見せるカンフーのアクションと、これまたプレスリーを模倣した腰振りのパフォーマンスが評判を呼びニューヨークのクラブやディスコでは人気のDJだった。そのDJプレイも極太ソーセージのような指から繰り広げられているとは思えないほどの匠なミックスとスクラッチであった。そんなピギーの愛称は腰振りデブゴンであった。しかし、その人気の裏腹にピギーは身体的なコンプレックスを抱えていた。俺がこんな豚みたいな図体じゃなくてスリムでジョージ クルーニーみたいにフェロモン全開なイケメンだったら思いを寄せてる彼女に堂々と告白出来るんだけどな…ピギーには心を寄せている一人の女性がいた。その女性はアナ ジョンストンと言ってピギーよりも5つ年上だった。クラブで月の最終金曜に一度だけオールナイトで行われるミッドナイト フライデー(注釈、フライデーのフライはFly(跳ぶ)に掛けて真夜中にぶっ飛ぼうぜ!といったイベントであった)に毎月来てくれる女性だった。ピギーはマリファナを決めながら何度かアナと談笑した事があった。「ピギー、あなたのプレイって最高よ!いつも、あたし興奮しちゃうわ!」「おい、マジかよ、そんな事言ってくれちゃって。ただでさえ葉っぱでハイになっちまってるのに更にハイになっちまって天にも昇る気分だぜ!」こんな感じのたわいない会話でもピギーにとっては重要で日に日にアナへの恋慕を深く募らせるばかりであった。