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2 お嬢様、転生する②


「ん、む………………」


 ――ようやく。


 ようやくぼんやりとしていた景色が輪郭をともなってハッキリしてきた私は、恐る恐る……ひとまず一旦目をぎゅっと閉じて、そしてまたゆっくりと開いてみることにします。


 えーと……。


 なぜだか、何といいますか、さっきからとても嫌な予感がしていますので。


 もう、かつての、これまでの私の可憐さに彩られた人生史上、最高峰、ってくらいに。なんだか、違和感と不穏な感じが。


 ビンビンにしていますので。


「あら、あ……ら…………」


 目を開けてちゃんと周囲を見てみると。


 私の周りには十人……いや人? ともかく、けっこうな数の方々が所狭しと立っていて、その中心付近に私は……私は、抱きかかえられるように、まるで赤ん坊のように大きな二の腕に……いや、赤ん坊というか実際に私の体はものすごく小さくなっているように見えます。


 あるいはこの方々が規格外に大きいのか……そんなはずはないと思いますが。


 とにかく私は抱かれていて、そして変なのが、周りの方々の姿形。


 私はルックスで他人を判断する痴れ者ではありませんが、これはちょっと想定外というか、そもそも人ではないですこの方々!


 全員が全員、なんというか緑色で、小汚くて、卑屈な笑みを浮かべていて、ズルそうな獰猛な瞳をしていて、歯が鋭くて、肌もあまり綺麗とは言えなくて……、


 えっと、一般的な価値観でいえば醜い怪物、みたいな感じですわ。


 言い切りますけども!


 これは何ですの? 特殊メイクを施しての私へのドッキリサプライズですの?

 仮装パーティにご招待でもしてくれたんですの? 誰かが。


 それにしては少々、度が過ぎていらっしゃる様ですが。

 冗談の範囲を越えていますわよこれ。


「まあ、よかったよかった無事に生まれて……一時はどうなることかと……」


「宴じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「おっしゃこおおおおおおおお!!」


「やいのやいのやいのおおおおおおおおおおおお!! うおおおら!」


 いや、そんな感じではなさそうですわね、私にはそんな粋なことをしてくださるご学友なんておりませんですし。


 だったら、えーと、夢…………?


 というか、そもそも私は何があってこんなことになってるんですの? 最後の記憶……意識が落ちる前の最後の記憶は……ええと……。


「…………!!」


 なんか……あら、えっと……大きな車に轢かれたような気がしなくもないですわ。


 となると、ここは……死後の世界的な? そういうあれ……?


「おっらああああ、はいミルク! ギューギュードリの乳! ゴブリンエリートぱねえわ!」


「むごっは!」


 私に無理やり白濁液のようなものを飲ませようとする緑色の怪物っぽいオッサン。


 それが私を抱いていた方……緑色の恰幅のよい女性に殴られてちょっと遠くに吹っ飛んで壁にぶつかって項垂れます。


 いや、この野蛮で生命力のあふれる感じ……死んだ後の世界とはとても思えません!


 皆さんは地獄の鬼(あら、なんで私地獄に落ちてる前提で考えてしまってるのでしょう……)


 ……というよりまるでファンタジー世界における童話にでも出てきそうなあの、かの有名な小鬼……のような、とそこまで思って私はようやく()()を認めました。


「んなっ……………………!!」


 桶です。


 横目でふと見てみると。


 桶に張られたちょっと濁った水に、『それ』は映っていました。


 私が目を閉じればそれも閉じるし、口を開ければそれも開ける。


 鏡のようになった桶、それをのぞき込んでいるのは、当然私なわけで、鏡は真実を映してしまうものであるからして。


「誰ですのこれえええええええええええええええええええええ! いやっ………ええええええええええ……!?」


 鏡の中にいたのは醜い緑色の赤ん坊。

 いえ、赤ん坊というのは得てしてしわくちゃでむくれていて醜いものですが。


 そういう意味でいうなら、まあ、この緑色の赤子が成長したら普通くらいの外見にはなってくれそうなポテンシャルは感じますが。


 いえ問題はそんなことではなくこの赤ん坊が果たして誰かという話でして、これはもしかして、いや、もしかしてまさかまさかの“私”だったりするのでしょうか。


 いや、いや……。


 いったい本当にどういうことなのですのこと、これ!


 私、目が覚めたら、変な生物になっていた、なんて……そんなの、フランツ・カフカの『変身』じゃあるまいし……。


 ……いや、そんな硬派な感じでもなく、これはもっとアレな……その、日本で、私の故郷でやたら流行っていたウェブ小説の1ジャンル的なあれではないのですの、これ。


「転、生……………………!?」




 ++++++++++++++++++++++




 ――えーと、こほん。


 ……そういうわけでして。


 私のゴブリンとしての、ゴブリンエリートとしての、唐突で先の見えない冒険譚はこうして始まったのでした。


 私これでも、極端に格式高い家で育って教養も知性も容姿もそれなりに磨いてきて、表向きは波乱なく生きてきたのですが。


 まあ、しかしながら色々と耐えられなくてちょっと問題児みたいなこともして、衝撃の真実を知らされ家を追い出されたみたいな状態になっていたりもしたのですが。


 えらく落差のあることですわ、人生というものは。


 とはいえ、まあ面白くもない人生を生きて、なにやら訳の分からないまま死んだか何かでこんな世界に来てしまったわけでして。


 ふーむ……。


 さて、どうしたものか、素直に愚直に困りましたわね……。


 まあ、過ぎてしまったこと(私の過去なんか)はまた別の機会にでも詳しくお話するとして。


 今は目の前にキチンと向き合う必要がありそうですわ!



お嬢様「感想、評価など下さったら貴方は命の恩人ですわ!」

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