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0 お嬢様、追放される


「もういいんだ。お前はいらない子なんだよ、『――――』……」


 広い広い屋敷の、これまた無駄に広い豪華絢爛な装飾品や家具が並ぶこの一室にて。


 なんだか急に無表情で呼び出されたので来てみれば、私のお父さんの第一声がそれでした。


「はい?」


 ――この場所には私の家族が全員集合。


 お父さん、お母さん、そして弟が、こちらを呆れたように……見下し切ったように見つめてきています。


 あまりにも、冷たい視線でした。


「……そもそもね……、あなたはこの家の子じゃないの。わたしは昔、子供が出来にくくて……ずっと出来なくて、だから、その時ちょうどいい人がいたから……その人の子供……つまりあなたをね、この家に養子として迎え入れた。ただそれだけの、わたしたちはそういう関係だったのよ」


「そういうことだ。だから俺たちのちゃんとした息子が生まれた時点で、本来ならお前は用済みの人間なんだよ、『――――』……用済みという言葉は理解できるか? お前、最近ろくに学校も行っていないみたいだが……」


「えー、おねーちゃんほんとの家族じゃないのー? ガッコウちゃんといってないのー? こわいー。こわいこわいー」


 かぶせるように、両親の言葉に猫なで声で同調する私の弟の笑い声。


 ――親の前では丸くなって優しく純粋なフリをしているような人間でしたが、ここにきて、私の苦境が大変面白おかしくてたまらないようです。


 こいつのことが私は大嫌いでしたが、こいつも私のことをそれ以上に嫌っている。それがよく分からされる、そんな不快な笑い声があたりに響きます。


「……血の繋がった人間ならともかく……。そうでなかったとしても、お前が品行方正で優秀な人間なら、このまま、まだもうしばらく家に置いてやってもよかったのだが……」


「あげくの果てにはあんな問題を起こすでしょう? 人様には反抗的な態度を取るでしょう? この家に、そんなふうな汚れた血をずっと置いてはおけないのよ……わたしたちのような家柄には、一般人以上に『品格』というものが問われてしまうから……」


「けがれた血♪ けーがれた血♪」


 パンパン! とシンバルを鳴らす玩具のように手をたたく弟。


 幼いふりをして、この状況をただひたすらにエンターテインメントしているようでしたの。


「……………………ッ」


 私は――これでも。


 ずっと彼らのことを……、少なくとも、私のほうは本当の家族だと、心の一番奥底では思っていた……思いたい信じたいと思っていたのですが、それは、残念ながらどうやら私だけの勝手な独り相撲だったようです。


 ――彼らの態度を見れば、よく分かります。


 それは、赤の他人を見るよりもずっと冷たい、絶対零度以下の全てが凍り付くようなものでした。


 もうこの場所に、私の居場所は一切……欠片ほどもないようでした。


「はあ……わたしが育て方を間違えた……いえ、もともとの遺伝子が明らかに良くなかったのよね。あなたはね、お話にならないの。あなたがわたしの子だなんて、そんなことを思って勘違いしているだけで虫唾が走るくらいに……」


「時間の無駄だった。そして金の無駄だったな……。お前に遣ったすべてのコストをまた馬鹿どもをコントロールして取り戻さなくてはならん。説明は以上だ。今日中に荷物をまとめて出ていけ。そして二度とこの家には顔を出すな、一切近づくな」


「おねー……、ううん、おねーちゃんじゃなくて知らない人かー。おっかしいと思ってたんだよなー、なんで僕とこの人はこんなに違うんだろうって。あたまのよさもなにもかもー」


「学校も退学だ。あとは勝手に元の親のところに戻るなり、そこらで野垂れ死にするなり好きにしろ。法的にも俺たちとお前はもう完全に赤の他人にしてある。面倒な手続きだったよそれも。……だが、お前の顔をもう二度と見なくて済むということを考えたら苦にはならなかったがな」


「そういうことだからね。さようなら『―――』……哀れで情けない、薄汚れた子……」


「いや、いっ………………」


 ――私はあまりの扱いに。


 この、あまりにもな急展開に、ぱっと声を出すことが出来ません。


 家族――いえ、彼ら彼女らが一方的にしたり顔でコンコンと話している間、ただうつむき気味に、プルプルと地面を見つめて震えていることしかできませんでした。


 私はこの家の子じゃない。


 本当のご両親がいる。


 ずっと、この家の方々は私を邪魔ものだと思いながら、仕方なく育ててやっていた――。


 そして、一刻も早くこの場から消えてほしいと思われている。


 ……それらが時間差で、たった今言われた数々の心をえぐる言葉が、私の脳に不可逆的な屈辱と大きなダメージを与えていきます。


 それで、平然としようとしても、ポーカーフェイスを取り繕おうとすればするほど、私の顔は混沌とした感情に歪みそうになっていくのが自分でも分かります。


 だめです、この場にこれ以上いたら泣いてしまいますわ。


「…………? 何をしている。早く出ていけ」


「…………は、い…………そうさせて頂きますわ…………」


「ぷぷぷっ」


 弟の嘲笑。


 とぼけたような父親の表情。


 もう既に興味を失ったとばかりに自分の爪を眺めている母親の仕草。


 それらすべてに言い返すことも出来ず、私はこの部屋を迅速に立ち去ります。


 なにか今、一言でも言葉を発したら――もうそれだけで、大切なものが決壊してしまいそうでしたので。


 これが、私の、この家での最後の意地のつもりでした。




 ++++++++++++++++++++++




「………………うふふ、はあ…………」


 ――そうして。


 ほとんど持ってない私物をまとめて、この大きな屋敷を出たのはそれから一時間後のこと。


 外は真冬の突き抜けるような夜、風は冷たく容赦なく吹きすさんできて、私の体温を遠慮なくどんどんと奪っていくようでした。


「ああ~……これから、どうしましょう……」


 まったく行き先のない、当てのない道を、私は歩きながらも途方に暮れます。


 そしてようやく――ようやく、屋敷からもだいぶ距離があいてきて、己の感情をひねり出せるくらいにはなってきたので、まずは一言、一番言いたいことを夜空に向かって全力で叫びだすこととします!


「ちくしょう…………チックオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアデスワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


「――――!」


 ドン、と。


 ――ものすごい衝撃が、私の横っ腹を襲ったのはまさに次の瞬間でした。




お嬢様「みなさま初めましてですわ!」


お嬢様「よろしければ下記の評価ポイントを【☆☆☆☆☆】から【★★★★★】にして頂けると、今作のあらゆるステータスが向上して更新速度も上がりまくって……」


お嬢様「もう、めちゃくちゃ喜びまくりますので、どうかお力添え頂ければ幸いですの!! これからもよろしくお願いしますわね!!」

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