フィンの怒り
聖堂の外で待っていると、騎士に囲まれた私を教会の方達がじろじろと見ていた。
いくら聖女と言われても急にはこの視線には耐えられないわ。
「あの騎士様、すぐそこに図書室があるのでそちらで待っていてもいいですか?お願いします。」
騎士様に頭を下げるとすぐ近くと言うこともあり図書室に行かせてくれた。
でも、騎士達は図書室の前で待ったが二人の騎士は側についてきていた。
じろじろ見られるよりはいいよね。心配してついて来て下さっているし。
騎士二人は、気を使ってか無言で静かに側にいてくれた。
本を見ながらゆっくり歩いていると奥の小部屋に司祭が二人いた。
聖堂にいなかったから、おそらく下位の司祭だろうと思った。
二人の司祭は私達に全く気付いていなかったようで私の話をしていた。
「あの下働きのエスカが聖女なんて何かの間違いじゃないのか?」
「しかもあんなに騎士を引き連れてな。」
「隣にいた騎士になんて寄り添って歩いて、色仕掛けでもしたんだろうよ。」
「あいつが聖女になったせいで金が減るな。」
などと聞くに耐えない話をしていた。
やっぱり教会にとっては私が聖女なんて間違いで、ずっと下働きの汚いエスカなんだわ。と思うといたたまれなくなり、いつものように逃げ出したかった。
だが、一緒にいた騎士様二人は違った。
厳しい顔になり、小部屋のドアを蹴破る勢いで入って行った。
「なんと言う無礼だ!」
騎士二人の剣幕に司祭達は驚き逃げ腰だった。
そして何故かたった今、私を侮辱したのに助けを求めてきた。
「エスカ!?何とかしてくれ!」
「俺達は何もしてないだろ!」
この二人はよく私に食事の文句を言っていた二人だった。
通りで聞き覚えのある声だと思った。
「エスカ様に近寄るな!」
騎士は剣を抜き、司祭達が私に近寄らないように制した。
「だ、大丈夫です!いつものことですから!お願いします!剣を下げて下さい!」
「そうだ、俺達はエスカを指導していた、同僚だ!」
その時、私を迎えにきたフィンや騎士団長達が飛び込んできた。
気付かなかったが図書室の外で待機していた騎士達もいつの間にか入っていた。
「エスカ!どうしたんだ!?」
「何事だ!?」
フィンの側に寄ろうとしたが、さっきの、色仕掛け、と言う言葉が突き刺さり躊躇してしまった。
「エスカ?どうしたんだ!?」
フィンは人目もふらず肩を抱き寄せた。
「お前達、何事だ!?」
騎士団長は二人の騎士に詰め寄った。
「この二人の司祭どもが、聖女エスカ様を侮辱しました。」
司祭達は、ひぃと床に頭を下げていた。
「なんだと!なんと無礼な真似を!」
騎士団長は怒り心頭だった。
「エスカ、司祭どもの侮辱を聞いたのか?」
フィンは心配そうに見つめた。
「…聞きました。でもいつものことですから大丈夫なんです。」
「エスカ、それはダメだ。」
フィンの言葉に我慢していた涙が出て来た。
「エスカ…」
泣いている私をフィンはマントで隠し抱きしめた。
その時、聖堂で挨拶をした上位の司祭達も、何事だ、とやってきた。
「司祭殿、少々教会の者達に教育が必要のようですね。聖女エスカ殿は教会のみならず国の象徴となられるお方、このような下位の司祭どもが侮辱していいお方ではない!」
騎士団長ははっきりと強い口調で司祭達を嗜めた。
「行くぞ!」
騎士団長達は、司祭達の返事を待たずその場を後にしようとした時、フィンが話し出した。
「団長、俺も言いたいことがあります。お待ち下さい。」
騎士団長は、フィンの話を察したのか、手を振り騎士達を整列させた。
「俺は王位継承者第三位フィン・ステラ・ウォルシュ、司祭の方々にはっきり申す。エスカは俺の婚約者だ。侮辱は二度と許さない!心して務めをなされよ!」
フィンは司祭達に怒鳴り付けると、行くぞ!と私を抱き抱えて騎士達の先頭に立ち、図書室を去った。




