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第6話 悪手

 




「おい!」

「う~む…」

「ガキ!」

「どれにしようか…」

「おいコラ!返事しろやガキ!!」

「?」


 冒険者登録と説明が終わってから、早速依頼を受けるために俺はリリスと共に依頼が貼られている掲示板へと来ていた。

 そして、掲示板の前でどれにしようか、悩みながら自分に合った依頼を選んでいると、急に肩を掴まれる。

 そのため、俺は一旦依頼を選ぶのを止め、肩を掴んだ相手を確認するために振り返る。


「ガキ!俺様を無視した上に、邪魔をしてんじゃねーよ!!」

「おい、ガキンチョ!ここはお前みたいなやつが来るような場所じゃないぜ~?」

「そうそう、お前みたいな子供は今すぐ家に帰って、ママのお乳でも啜ってな!」

「……えっと……………」


 そこに立っていたのは、俺の事を睨んできている、ガタイのいい身体付きで背中に両刃の大斧を背負い、スキンヘッド頭に顔にいくつかの傷跡がある、いかにも戦士です!と言った感じの男。

 そしてその後ろに、ニヤニヤと人を馬鹿にしているような笑みを浮かべている、軽装で短剣と弓を装備している男と、杖にローブ姿のいかにも魔法使いだとわかる格好をした男の二人がいた。


「………………」

「おい!俺様の言っていることが分かんねーのか?邪魔だから早く俺の前から退けと言ってんだよ!!!」

「………コロス…」

「!?え、えっと…邪魔をしているつもりもなかったんだけど…邪魔になっていたなら謝るよ。ごめん」


 俺は、絡んできた三人を見て、如何にもと言った格好に顔つき、そして態度のそれに『あぁ…存在するのは知ってたけど、本当に起こるんだな…こんなテンプレが……』などと、呆れとラノベやアニメでしか見た事がなかったものを実際目にすることが出来たという感動の入り交じった表情で、その三人を…特に真ん中にいる戦士風の男を見てしまう。

 すると、俺がすぐに返事をしなかったことが、俺にまじまじと見られていることが気に食わなかったのか、戦士風の男はより一層俺の事を睨みながら、俺の肩を強く押した。

 押されても転けることはしなかったが、その瞬間…リリスがその男の事を親の仇を見るような目で睨み、腰に携えた短剣に手を伸ばしていく。

 それが見えた俺は、冷や汗を浮かべながら咄嗟にリリスの前に移動し、なるべく穏便に済ませるために頭を下げながら謝罪をする。


 だが、それは…その行動は一番の悪手だと、後になって気づいた…………


「アノス様!?」

「またアイツらだよ…」

「あの子供…初日にBランクパーティ"獄炎の牙(ヘルフレイムファング)"の奴らに目をつけられるなんてな…可哀想に」

「おい、あんまり見るな!標的がこっちに移ったらどうするんだよ!」


 俺が頭を下げたことにより、後ろからリリスの驚いた声が聞こえるが、俺はそれを気にすることなく頭を下げ続ける。

 頭を下げていることから、もちろん俺の前にいる三人の男たちの表情は見えない。

 しかし、その代わりに周りの状況は横目からだが確認することは出来た。

 周りの反応から、どうやら俺に絡んできている三人は"獄炎の牙"という名のBランクパーティであり、他の冒険者からはあまり好意的に思われていないようだ。

 その証拠に、他の冒険者達はこちらに目を合わせないようにしている人や、嫌悪した表情を浮かべている人しかいない。


 まぁ、三人がいつもこの感じであれば、こうなるのも必然か…


 などと、俺が三人のことを少し哀れに思っているとーーー


「…おいおい!ヘッド!!」

「あぁん!!?」

「こいつの後ろにいる女を見てくれよ!」

「おぉ!ヘッド!!この女とてつもない上玉っすよ!!」

「あ?……へぇ、確かに上玉だな……へへっ、おいガキ!お前の無礼は許してやるよ」

「そ、そうか…ありが」

「その代わり、お前の後ろにいる女を寄越せ!」

「とう……へ?いや………え?」


 急に男たちがリリスの事を話題にし、そして、戦士風の男が許してやるからリリスを寄越せと言い始めた。

 俺はその言い分が理解できず、顔を上げながら間抜けな声を出してしまう。


「え?じゃねーよ!!俺様は早くその女を寄越せと言ってんだよ!!!」

「……………………」

「聞いてんのか、ガキ!早くしねーと殺すぞ!!」

「アノス様を殺すだと?…アノス様の手前大人しくしていれば…先程からアノス様への無礼な態度……殺す!!」

「!?ま、待てリリス!!早まるんじゃない!!」

「止めないでください、アノス様!!」

「いや、止めるよ!止めるに決まってるだろ!ここを血の海にする気か!」

「し、しかし!!」

「いいから!………はぁ…そうだった…忘れてたよ……」


 俺が早く言う通りにしなかったのと、返事をしなかったということから、より一層腹が立ち、頭に血が登ったのだろう。

 戦士風の男が、俺に向け殺すと公言してきた。

 その瞬間、俺の後ろにいたリリスはトーンを下げた声で呟きながら、ものすごい殺気を放ち始めた。

 リリスとは結構長い付き合いになる俺でも初めてのリリスの殺気に驚きながら、俺はリリスの方へと慌てて振り向き、今にも男達に向け飛びかかりそうになっているリリスを止める。


 その時に、俺は自分がした行動が悪手であったことに気がついた。


 せっかく、三人の男達の視線が俺へと向けられていたのに、俺が自らその視線をリリスへと移させてしまった。

 自分自身で、余計に面倒になる方の選択肢を選んでしまった。


 今のこの状況が、ラノベやアニメのテンプレだと分かった時に気づくべきだった。

 こういうテンプレが起こった時、女性を…とびきりの美少女を連れていると、ほぼ決まってこのような状況になってしまうということを……









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