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第2話 したいこと

 



 空は雲ひとつない快晴。

 俺がこの世界に転生して早3年。

 俺は8歳になっていた。

 まぁ、8歳になっているからといって、何か特別なことがあるといったことはなく、俺はいつものように屋根の上で寝たり、その事でリリスに怒られたり、リリスと一緒に鍛錬をしたり……

 そんな、平穏な毎日を過ごしていた。

 しかし、今日は……いや、最近と言った方が正しいだろか。

 とりあえず、最近、その俺の平穏をぶち壊す存在がいる。


 それはーーーー


「ぐっ!?」

「アノス様!?」

「おい、クソガキ。お前まだこの家にいんのか? 昨日俺言ったよな? 速やかに出て行けと! あぁ?」

「はははは! そうそう! 兄上の言うことは聞くもんだろ? クソガキ!」


 俺の胸ぐらを掴みものすごい剣幕で睨んでいる、7つ上の兄で、変態クソ野郎のゲイル・ディソルバート。

 そして、そのゲイルの横で気持ち悪い笑みを浮かべながら馬鹿笑いしている、5つ上の兄で、ゲイルの腰巾着カール・ディゾンバート。

 この、俺にとっての兄二人である。


「おいおい、なんか言ったらどうなんだ? 兄を前に黙りは無いんじゃないか?」

「あははは! 兄上、コイツは兄上を恐れて声も出せないみたいですよ?」

「おー、そうかそうか! それはカリスマ性が溢れ出ている俺が悪かったな! すまんなクソガキ」

「アノス様を離してください!!」

「あぁ? メイドの分際で生意気だなお前!」

「ぐっ……やめ、ろ……リリ、ス」

「し、しかし!」

「い、いい……から……!命令、だ!」


 この2人は、とにかく俺が気に食わないらしい。

 俺を見る度、このように突っかかってくる。

 俺からしたら、堪ったものではない……

 しかも、他の使用人や、父上の目の届かないところでしかこのようなことをしてこない。

 その上、他の使用人や父上がいる所では、2人とも好青年を演じているため、俺たち以外にはとても気に入られている。

 それに、ゲイルは、ディソルバート家の次期当主だ。

 そのため、使用人……メイドであるリリスがゲイルに向かっていけば、タダでは済まないし、三男の……しかも、次期当主にはなれない俺には、そうなってしまえばどうすることも出来ない。

 だから、すごい剣幕で今にもゲイルに飛びかかろうとしているリリスを止める。


 それに、ゲイルは多分…………


「なんだ、かかってこないのか? かかってきてもいいんだぜ? ……まぁ、そうなったら次期当主に刃向かった罪として、俺がお前を好きにできるようにするだけだがな!」


 リリスを俺から引き離し、自分のモノにしたいのだろう。

 リリスはメイドの中でもとびきりの可愛さを持つ。

 そんなリリスをゲイルは、下卑た目でずっと見ていることを俺は知っている。

 だからこそ、俺は使いたくもない命令を使い、何とかリリスを止めることにいつも専念している。


「おいおい、いいのか? 早く俺を止めないと、このクソガキの首が折れちまうぜ?」

「ぐっ!?」

「ッ!?」


 ーーーーあぁ……今日はいつまでこれが続くんだろうか……


「おい! お前たち、何をしている!」

「チッ……」

「ぐぁっ!?」

「アノス様、大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ、大丈夫だよ」


 今日も長引きそうだな……といった諦めにも似た感情を抱いていると、急に声がかけられる。

 その声の主に気づいたゲイルは舌打ちをしながら、俺を掴んでいた手を、地面へと投げるようにして離す。

 やっと解放された俺は、心配そうに駆け寄ってくるリリスに大丈夫だと、一言だけ伝えながら頭を上げ、声の主の方へと視線を移す。


「これはこれは、父上。私たちはただ、アノスの鍛錬に付き合ってただけですよ。なぁ、カール」

「そうです。アノスがどうしてもと言うので」

「……そうか」

「はい。それで、父上は如何様にてここにこられたのですか?」

「儂はアノスに用があってな。アノスよ儂の書斎まで来い」

「わかりました。すぐ向かいます」


 声の主、それは俺の父上であり、ディソルバート家現当主のジーク・ディソルバートだった。

  父上は、俺に向け伝えることを伝えたあと、すぐに背を向け屋敷の方へと向かっていく。

 父上に流れるように嘘ついた、ゲイルとカールだったが、父上がいる前ではこれ以上するのは無理だと思ったのだろう、俺とリリスにはそれ以上手を出してくることはなく、ただ睨みつけてくるだけだった。

 俺はそんな2人を横目に、父上の後を追うように、屋敷へと向かった。










「アノスよ、お主がこのディソルバート家の次期当主にならぬか?」

「……………は?」


 あの後、すぐに父の書斎へと向かい、足を踏み入れた瞬間、そう父上に唐突に告げられた。

 全く予想だにしてなかった事のため、間抜けな顔をしてしまったのは、仕方ないだろう。

 しかし、本当に意味がわからない。


「アノス。このディソルバート家は代々、バルハルク大国に従え、国のため、民のために尽力してきた一族、だと言うのはお前も知っているな?」

「は、はい。それはもちろん」


 この世界には、人間界と魔界の大きな二つの大陸がある。

 バルハルク大国というのは、人間界にある3つの国……ガノス帝国、ユーラフィア法国に続く大国のうちの一つ。

 そして、ディソルバート家はそのバルハルク大国に従えている貴族のうちの一つであり、階級は伯爵である。


 貴族というのは、上から順に……王族、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、と分類されている。

 大公は国王の兄弟のみとなっており、貴族は例外はあるが、基本的に世襲制。

 つまり、貴族の当主というのは血の繋がった子へと受け継がれていくもの。

 だから、父上が急に俺に対して、当主にならないかと言ってくるのはおかしな話なのだ。


 なぜならーーーーー


「父上、俺は……」

「……わかっておる。お主に、ディソルバート家の血が流れておらんことは」


 そう、俺はディソルバート家の子供ではない。

 だから、当主を継ぐなんてことは出来ないのだ。

 まぁ、血が繋がっていたとしても、当主になる気なんかない。


「ではなぜ?」

「それは………お主は血が繋がってなくとも儂は実の息子のように思っておるし、お主ならこの家を任せられると思っておるからだ。それに……」


 俺を当主になんて出来ない。普通ならそのことを一番よく知っている人物が、なぜ急にそんなことを言い始めたのか。

 それが気になり、問い返したところ……父上は少し間をあけ、俺の頭、正確には髪をみながら、そう答えた。


 あぁ、なるほどね……


 その父上の行動を見た瞬間、全てに納得が言った。

 なぜ、ゲイルとカールが俺の事を嫌っているのか。

 なぜ、父上が急にこんなことを言い始めたのか。


 それは、俺の髪が黒色だから。

 混じり気のない。黒一色だからだ。


 俺が前世で過ごしていた日本では、黒髪なんて珍しくもなんともなく、それが普通だ。

 だが、この世界では違う。

 黒髪と言うだけで、この世界では特別なのだ。


 なぜなら黒髪の者は勇者の末裔か生まれ変わりだと……そう言われているからだ。

 別に、黒髪の者が俺以外にいないという訳では無い。

 多分この世界を……人間界をくまなく探せば何人かは見つかるだろう。

 問題なのは、俺が混じりっ急の無い黒一色というところだ。

 それは、勇者としての血が濃いいという証拠だからだ。


 まぁ、つまるところ、ゲイルとカールは俺が実のディソルバート家の人間ではないということと、黒髪ということから、父上に俺が気に入られていると思っているため、俺の事をあんなにも毛嫌いしているのだろう。

 そして、父上は俺を当主にすることで、ディソルバート家に箔をつけたいのだろう。


「すみません。父上。やはり俺に当主は難しいと思います。ゲイル兄上は優秀です。その兄上を差し置いて、三男の俺が……しかも血の繋がっていない俺が当主を継いでしまうと、ディソルバート家の評判にも関わってきますので」

「……そうか。そうだな……」

「お話は以上ですか?」

「あぁ」

「わかりました。ではこれで失礼します」


 父上の狙いが理解出来た瞬間、俺はもっともな言葉を並べ、そうそうに話を切り上げ、父の書斎から出て、自分の部屋へと向かった……







「勇者ねぇ……」

 父の書斎から自分の部屋へと戻り、俺は一冊の本をパラパラとめくっていた。

 その本は、勇者の伝承が書かれている本。


 勇者は大昔に、魔族に脅かされていたこの世界を護るため異界から舞い降りた黒髪の戦士であり、この世界を平和へと導くための存在。

 そして勇者は、この世界を平和にするため、世界を混乱に陥れている魔族の長である魔王を倒すため旅に出た。

 魔王を討伐することは叶わなかったが、勇者は見事魔王を封印することに成功した。

 しかし、封印はいつか解かれる。

 だからこそ勇者は後世へと託すことにした。

 自分の黒髪と力を受け継ぎ、いつか魔王を……魔族を討ち滅ぼすために………


 簡単にまとめると、こういったことが、つらつらと書いてある。


 人間たちにとってこの話はとてもいい話で、大好きな話だろう。

 そして、子供たちに魔族のことを悪だと分からせるためには、もってこいな本であり、それを見聞きした子供たちは……人間たちは見もしてない、見たことも無い魔族を悪だと思い込む……


 だが、俺はそうは思わない。

 この本は……伝承物などの本は嫌いだ。


「なんで見もしていないのに、悪だと決めつける……この本が、この本に書かれていることが正しいと思い込むんだ……絶対に正しいなんて……分からないのに」


 伝承なんてものは、同じ本でも図鑑などと違い、決まって脚色がされてあるものだ。

 つまり、真実とは必ず違ったものになる。

 それが大昔からのものであれば尚更だ。

 でも、誰も信じて疑わない。

 今……いや、もう大昔から魔族が人間界に攻めてきたという記録はないのにも関わらず……

 なぜなら、本にそう書いてあるから……

 皆がそう言っているから……

 だから……正しいんだと信じて疑わない。


「……胸糞悪い」


 俺はそうはならない。

 絶対になってやらない。

 俺は自分の目で見て、感じて……そうした事しか信じない。


「俺は自分の目でこの世界を確かめてやるよ」


 魔族が本当に悪なのか…それは今の俺には分からない。

 でも、だからこそ………



「自分の目で確かめるために……俺は旅がしたい!」





 この世界に転生して3年が経ち、俺はしたいことを見つけた……







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良かったら、短編のほうも読んでもらえると嬉しいです! それでも世界は回り…それでも僕は生きていく
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