マリンの事情と翻訳ピアス
奴隷商店から出たらもう夜だった。
「服を買うのは悪いけどまた今度にしよう。ここで外套でもあれば渡してあげるんだけど…ごめんね。」
「いえいえ、私にそうして気を使わなくても良いですよ。」
「女性に気を使うのは親の教育でね。気を使わせてくれないか?」
クスクス笑ってくれた。上品で綺麗だった。
「マリンは笑顔が似合うね。」
「あ、ありがとうございます。」
照れながらそう言った。
「あっそういえば、俺は記憶喪失で、常識がわからないから迷惑かかると思う。だから常識を教えて。」
マリンの顔が曇った。
「だからなんですね…。もしかして、私の事情知らないんですか?」
「えっ…。どういう事?親が騙されて、借金の代わりなんじゃないの?」
「騙すって事は詐欺なんですけど、詐欺をしたらジョブが詐欺士になって、執行猶予が付きます。執行猶予を消すには【免罪書】が必要なんですが、【免罪書】は貴族じゃないと発行できません。なので私を欲したのは貴族なんです。」
「えっ…えーっと、もしかしてボルドー様?」
「違います。この街の貴族ではありません。本当に知らなかったんですね。」
マリンが泣きはしなかったが我慢していた。
「大丈夫だよ。なんとかなるさ。なんとかするさ。詳しい事聞いても良い?ここじゃなんだから、宿屋に行こう。」
「今なら返品できますよ。」
覚悟の決まった顔で言った。でも、無理してるのはなんとなくわかった。
「そんな事しないよ。あと、自分の事を品物みたいに言わないで、なんかこっちが悲しくなる。」
「申し訳ありません。以後気をつけます。」
「なんか固いな…。それにそこは笑顔でありがとうって、言ってくれた方が俺は嬉しいかな。」
ポカーンとしていた。かわいい。そして、
「ありがとうございます。ご主人様は変わってますね。フフフっ…。」
笑って言ってくれた。
「そうかな、記憶喪失のせいかもね。」
笑っていろんな話をしていただが、話の途中で、
「あっ…。いえ、なんでもありません。」
「なに?気になるから教えて。」
「えっと、ご主人様は記憶喪失なのに、親の事は覚えてるんですね?」
あっ…。ヤバい。墓穴掘った。まっいいか。マリンになら少しくらい、言っても良いかな。
「俺の件も宿屋で話すね。そこで知った事は、絶対に秘密でお願い。」
「ご主人様の秘密は、死んでも守ります。」
気合いをいれた顔、声で言っていた。
「ありがとう。これからよろしくね。」
やっぱり真理姉と被るところあるが、全然違うな。と思いながら宿屋に向かった。
それで、宿屋に着いた。
「女将さん、もう一部屋空いてる?」
「空いてないよ。」
マジか…。どうしようか。宿を変えるかな…。返金してくれるかな。と考えてると、
「私は大丈夫ですよ。馬小屋で寝ますから。空いてますか?」
「嫌ダメだ。絶対にダメ。マリンが寝るくらいなら、俺が馬小屋に寝るから。」
「それはダメです。こっちが絶対にダメです。」
そんな感じで堂々巡りをしていると、
「痴話喧嘩なら部屋でやってくれ。」
女将さんに言われてしまった。なんか、女将さんの性格、変わった?急に無愛想になった。まぁ、こっちの方が良いから、別に良いか。
痴話喧嘩って、そんな関係じゃないんだけどな。
今、恥ずかしくて、マリンの方を向けない。マリンの方を見ずに、
「とりあえず部屋で話そう。…そうだ。女将さん、ごはん食べれる?」
「ああ、食べれるよ。夜は酒場だからね、遅い時間でも食べれるよ。」
「マリンは腹減ってるよね。ご飯から食べる?それとも話からする。」
「ご主人様におまかせします。」
なんとなくそう言うと思った…。
「そうだな。女将さん、食堂は今と後はどっちが混む?」
「今の方が混むよ。しばらく待てば客は少なくなるよ。」
「ありがとうございます。そしたら、少なくなったら教えて下さい。」
「そっちの方が、こちらも助かるよ。」
その後一礼してから、部屋に向かった。
部屋に入り、話を始めた。
「それで話だけどできる?俺からしようか?」
「大丈夫です。それでは━━━事です。」
マリンは涙を我慢しながら話した。俺はビックリしながら話を聞いた。
ざっくり話すと、マリンが住んでた街の貴族がマリンと結婚させろと言われて、マリンの両親が断った。
その時はなにもせずに帰った。
その後、忘れた頃に、マリンの父の友人が、事業に協力してほしいと来た。それが嘘っぱちだった。それで借金ができてしまった。
その後、貴族が来てマリンと結婚させれば金を工面する。と言われたがマリンがそいつと結婚するくらいなら奴隷になって、それでお金で、借金を払うと言って奴隷になった。
その貴族に、買われないように伽禁止にした。
貴族は、伽も目的だった。
その街にうんざりしていたので、この街まで父親と来て売ったらしい。
なぜ貴族の差し金かわかったのかというと、貴族とこの街の奴隷商人が知り合いで、買い手がつかないようにしたそうだ。
それで奴隷は、1年間売れなかったら、契約を変えれるようになるらしい。
その時に、今の倍の値段で買う約束をしていた。
それを貴族が、わざわざこの街までやって来て、自分の差し金だと言ったらしい。
実際、奴隷商店に客が来ても、裕福そうな人やレベルが高い人の時は、マリンは出れなかったようだ。
出れた時もあったのだが、明らかに自分を買えない人の時に出れた。それで自分の店の凄さを見せびらかしていた。
そのなかには、奇跡的に買える人がいた。そうなると、ルソーが伽禁止や貴族の事を話して、それらを聞くと、購入を諦めた。
半年間そんな感じで過ごし、心が折れそうだった時に俺が来たらしい。
「そうか、大変だったな。大丈夫、マリンを返したりしないから…」
頭を撫でながら言った。そしたらマリンがビックリしたので、
「悪い。こうしてもらったら俺は落ち着いたから…。」
慌てて撫でるのを止めた。恥ずかしくてマリンの顔からそっぽを向いた。
「あっ…嬉しかったのに…」
マリンがなにか呟いたが聞こえなかった。
それで俺の話をした。小学校の頃の事とラティア様と神スキルの事は、言わなかったが、それ以外の事は話した。ラティア様と神スキルの事はぼかして話した。
マリンはとても驚いていた。転生の話やハイエルフの事は特に驚いていた。寿命が3年しかないところでは、迷宮へのやる気を出していた。
俺の話の後、迷宮の事を聞いていたときに、女将さんから呼ばれたので食堂に向かった。食堂にはちらほらお客がいるくらいだった。
「女将さん、俺はおすすめで。マリンは好きなの選んでいいよ。「えっ…わた」遠慮しないでね。私は奴隷だからとかはいらないから。」
マリンがなにか言おうとしたので、遠慮するなと言ったら
「私もおすすめで…。」
畏まって、小さな声で言った。
「女将さん!おすすめ2つで!!」
「ハイよ!今日のおすすめはビーフストロガノフだよ。って言っても残り物なんだけど良いかい?安くしとくよ。」
まぁ、捨てるくらいならって事かな。正直な女将さんに笑いながら、
「ハイ。良いですよ。その代わり安くしてくださいよ。」
「わかったよ。しばらく待っててな。」
料理を待っている間、ご主人様呼びを、どうにかしたかったが、これが常識だと譲らなかった。本当かな…。
常識の話がでたので、ちょうど良いと思い常識の事を聞いて、いろいろ常識を教えてもらっていた。
常識の話のなかに、【翻訳ピアス】の話を聞いた。
「ご主人様が耳と舌に付けているのは、【翻訳ピアス】ですよね?それは一度付けたら二度と外せないんですけど、装備のアクセサリー枠2つをそれで潰す冒険者はいません。一般の方でも、あまり付ける人はあまりいません。付ける人はその…」
「な、何?」
嫌な予感がするが聞いておかないとな…
「お、おつむが少し弱い人なんです。」
恐る恐るマリンが言った。
「そ、そうなんだ…。でも【伝説クラス】だよ。」
強がって言ってみた。
「それは【不壊】が付いてるからで…それだけの理由です。ある意味伝説クラスですね。ご、ご主人様は違うということを私は知っているから大丈夫です。」
それで受付嬢が、パーティーを組むのが難しいと言ったのか。奴隷商店で、最初にきた奴隷達が、なぜ俺をバカにしてきたのかの理由を知った。
「でも良くわかったね。スキルで偽装したのに…。」
あれおかしいな?と思い聞いてみた。
「それは、形は知れわたっているので、偽装を使ってもバレバレです。逆に使った方がその…」
痛いって事か!乙…。
「そ、それじゃあ偽装解いた方が良い?」
「は、はい。その方が幾分マシですね…。」
そんな悲しい事実を知り、うちひしがれていると、女将さんが飯を持ってきた。
とても美味しいと、マリンが言っていたが、俺には味がしなかった。
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