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夜中の勢いシリーズ(短編)

スイーツタルト

作者: あしたば

 今作は大学のゼミで課題として書いた作品です。「老い」というテーマを私なりの解釈で描いた作品になります。

 それではごゆるりとお楽しみください。

「もう歳なのよ」

 なんて言いたくないの。

 駅近くにあるオシャレなカフェで二十数年ぶりに会った大学の同期とお茶をすることになった。カフェ全体にオーク材が使われているためか、雰囲気は明るめだが、木材の落ち着いた色合いと所々に置かれた小さめの植物が自然な感じを醸し出していて、若者だけでなく主婦にも好まれそうだった。実際、客層は私の娘くらいの若者も多かったが、忙しい家事の合間を縫って三時のお茶会に来てい

る主婦たちも少なくはなかった。入ってきたときに見た、ケースに並べられていたこの店自慢のスイーツタルトを美味しそうに頬張っている人たちがちらほら。女性のお茶会に甘いものは必須である。

 そんな主婦たちから目の前に座る同期に目を移す。白いカジュアルなトップスに黒いジャケットと黒のチノパンを身に纏う彼女はあまりにも凛々しく、美しく、私と同じ四十代にはとてもじゃないが見えなかった。とても彼女が眩しく見える。肩下まである茶髪を片側にまとめて流し、カップに入ったアールグレイに口をつける。仕事ができる女の代名詞のような彼女の一つ一つの動作に私は惹きつけられた。そんな彼女が言った先ほどの言葉が私の心を抉る。その言葉は私の口癖になってしまっていたネガティブなものだった。

「どうして、言いたくないの?」

「だって、言ってしまったらもう頑張れないって言ってるような気がしない?」

 ソーサーにカップを戻し、私を見据える彼女になるほど、と納得した。確かに私がその言葉を言うとき、何かの言い訳をしているような気がする。例えば階段を登るとき、私の人生の半分も生きていない娘たちが軽々と登っていくのを見て、つい言ってしまうのだ。歳だから急げないのよ、と。

「見た目にしたって、仕事にしたって、歳だからって理由で制限するのは自分を狭めてる気がするの」

「狭める……」

「そう。だってまだ努力でなんとかなることばかりじゃない? それを自分から諦めるなんてもったいないわ」

 彼女はグレーのパンプスを履いた足を組み直した。綺麗な足のラインが見える。ジーパンにスニーカーを履く私の足とは大違いだ。

「確かに歳だもの、無理もできないし老いも感じるけれど、それを言い訳にして頑張らないのは違うわ」

 彼女の言葉にはとても説得力があった。この話になる前に、ある程度彼女の近況を聞いた。私と同じように大学を卒業した後、結婚し、夫とは上手くいかず離婚したものの、キャリアウーマンとして働き、一児の母として子育ても頑張っている。私は専業主婦で働きにも出ておらず、彼女の苦労を測ることはできなかったが、だからこそ私よりも大変な状況下でここまで言い切れることが凄いと感じた。きっと、これまでの彼女の行動が今の言葉を裏付けている。私はずっと逃げていた。歳や老いのせいにして頑張ることを諦めていた。彼女が眩しく見えるのは、私よりも幸せそうだからじゃない。私と違って言い訳もせず、真っ直ぐ歩いているからだ。だから彼女の言葉は何もしてこなかった私の心を抉るし、また、心にすとんと入ってくるのだろう。

「言い訳してるとそれこそ老いを感じるわ。だから私は言いたくないの」

 カップに残ったアールグレイを全て飲み干し、笑った彼女はやはり美しかった。あの頃よりも皺が増えてもち肌ではなくなっていても、変わらず若いままだった。私がこんなにも老けてしまったのは歳のせいではない。きっと、全てを諦め、言い訳をしてきた心のせいなのだ。色んなことに真摯に向き合ってきた彼女が私と違って美しいのは当たり前だった。

 左手首につけた腕時計を見て彼女が行かないと、と言う。これからまた仕事に戻るらしい。またお茶しましょ、と手を振ってお店を出て行く彼女は伝票をしれっと持って行っていて、もはやイケメンだった。

「私もあんな風になりたいわぁ」

 言い訳が癖になっている私がどこまで変われるのかは分からないけれど、次に会うときは彼女と並んでも恥ずかしくない人間になりたいなと思った。

「頑張ろうかしら」

 そう呟いて、私は店員さんを呼んでスイーツタルトを注文した。

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