情けなくなりました。
鬼の里。
現代の人間達が生活してる場所とは違う空間、歪んだ次元にある。昔々に、陰陽師なんかに追われて、鬼達が作った領域らしい。
「妖怪と呼ばれる種族も、日本に昔からいる動物たちもいます。私ども貂の一族や、先ほど会った狼や狢の一族もいます。」
「ふぅん。で、私はここから出られるの?」
「出ようと思えば出られなくはありませんが……。帰りたいですか?」
「どっちでも良くなってきた、のが正直なところかな。実際、帰ったら帰ったで大変なんだよ。親に話して、怒られて、涼介の家と婚約解消して、慰謝料もらって、式場にキャンセル料払って、会社は辞めるって言っちゃったから新しい所探さないといけないんだけど、2年しか社会人の経験無いから正社員で就職出来るかわからないし……。」
話してたら情けなくなってきた。なんでこんな事になってるんだろう。何が悪かったんだろ。唇を噛んでうつむく。
「めんどくさそうに話してるけど、あんたその男の事、好きじゃなかったの?」
急に男の人の声がして、ハッと見上げる。
真っ黒のボサボサ頭で、後ろで髪を結んでる、黒い作務衣を着た男の人がいつの間にか横でしゃがみこんで、私の顔を覗きこんでいた。
「え……。」
テンが血相変えて私と黒い男の人の間に入り、
「控えなさい!なぜここにいる!」
と、怒鳴り付けた。
男の人はスッと立ち上がり、襖を開けて出ていこうとする。
「嫁が来たって聞いたから見に来たまで。なんか乗り気じゃなさそうだし、ババアじゃねぇか。」
「なっ」
失礼な!24はババアじゃない!って言いたかったけど、怖いから黙った。
「なんで結婚する直前に別れを告げられて、そいつの心変わりを怒らないの?嘆かないの?」
「なんで知って……。」
「さくら様、烏は、お庭番のような仕事をしております。各地にに一族がいるため、情報はすぐに伝わります。烏、無礼は許しません。控えなさい。」
テンが強めに言うと、烏は私を睨みつけ
「あんた、人を本当に好きになった事あんの?」
とだけ言って、出ていった。
人を本当に好きになった事が無い?
なんでそんな事言われないといけないの?人間の世界は好きだからだけで結婚したり離婚したり出来ないのよ!親兄弟は出てくるし、働かないと何も出来ないし、生きていけないんだから!考えてると涙が浮かんでくる。
「それで死にたいと思われたのですか?」
「そうよ!親とか仕事とかって大事な事なのよ!」
「愛する人を失う事よりも、ですか?」
「なっ、テンも私が涼介を愛してなかったって言いたいの?」
「……はい。付け入る隙があると思いました。」
テンにも言われて、困惑してきた。好きって一緒に居たいとか、何かしてあげたいだとか、一緒に何かしたいとか楽しいとか思う事ではないの?
涼介の事は本当に好きだった。結婚したら仕事を辞めて、彼のために家に入ろうとしたし、早く子供が欲しかった。そう思ってた。
ボロボロと涙が流れる。
「さくら様は、婚約者様が居なくなってしまう事よりも、ご自分のこれからの事を嘆いたのですよね?」
「……そう、だね。」
「裏切られたら、相手や愛人を殺してしまう人も居ますよ。憎くは無いのですか?」
ハッとした。
憎い?涼介が?
そんな事、思いもしなかった。好きな人がいるのかは問いただしたけど、相手の女の子の事も、全く頭に無かった。
私は自分の事しか考えてなかったの?
だから、涼介は私から離れたの?
「人間も、ある程度は人の感情を読み取れます。もしかしたら、さくら様に、愛人程の愛情を感じなかった可能性はあるかと。」
「もう止めて!!」
涙が止まらない。なんでそんな事言われないといけないの?私が悪いの?
「一人にして。」
「ですが……」
「いいから。今すぐテンの若様に会うわけではないんでしょう?こんな顔では会えないわ。今夜一晩は、ここにいるから放っておいて。」
テンは色々悩んでたみたいだけど、静かに襖を閉めた。
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