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鬼の里に来ました。

はじめに思ったのは、なんて綺麗な所。だった。

草も木も色が違う。緑が濃い。昔は緑を青と言ったのがなるほど、と思える色。橋の朱色も塗り直したばかりみたいに濃くきれいだ。

橋の中程まで歩いて下のお堀を覗いてみると、透き通る水に色鮮やかな水草や群れで泳ぐ小さな魚が見えた。

振り返って、アスファルトではない広い道や、低い屋根が並ぶ真っ直ぐの町並み、装飾が見事な瓦屋根。教科書の写真でしか見たこと無いのに懐かしい風景だと思ってしまう。

あれ?今って夜だよね。全てがフワッと光って見えるのは何でだろう。

ぼんやりと見回していると、テンは髪の毛に潜り込んで、首にすり寄ってくる。右手でテンの頭を撫でていると、頭のすぐ上、つむじの辺りから声が聞こえた。


「誰だ。どうやってここに来た。」


ハッとして振り返ると、茶と灰色の大きな犬がいた。

顔が長く、目が金色で小さい。違う、狼だ!


「あ、あの……。」


恐怖で言いよどむと、テンがさっと飛び降りて、さっきとは違う黒髪で、白い椿の柄の着物の女の子に化ける。


「狼、若様のお嫁様をお連れした。奥の間に案内いたせ。」

「貂か。今回はずいぶん時間がかかったな。何日持つのか。」

「お前が気にする事ではない。早くしろ。」


狼の目が金色から青白く光ると、狼の輪郭がグニャリと歪み、藍色の着物を着た背の高い若い男の人が現れた。髪は茶と灰色の短髪、精悍な顔つきの無愛想な感じ。右側の顎に傷があった。


「あの!私は!」


結婚する気は無いと説明したくても二人は聞く気がない様で、睨み合っている。


「まずはお召し替えを。」


ってテンに言われて気が付いた。

私、Tシャツしか着てない!靴も履いてない!!


「やだっ!連れてくる前に、着替えくらいさせてくれれば良かったのに!」

Tシャツの前と後ろを伸ばして、パンツが見えないように頑張った。歩きづらい!まぁ見えにい位の大きなTシャツなんだけど、履いてないってのがめっちゃ不安。

朱色の橋を渡り、門をくぐって大きな日本家屋に入っていく。


「あの、私、裸足だから足を拭きたいんだけど……」

「はい。狢達はいるか?何か拭くものを!」


テンが奥に向かって声を掛けると、赤い揃いの着物を着た女の子が二人、濡れた手拭いを持って駆けつけてくれた。

裸足でなんだか気が引けたけど、上がらせてもらう。早く着替えたい。

しばらく歩くと、狼が襖に桜が描かれた部屋の前で立ち止まる。


「ここを使ってもらう。着物も一式あるはずだ。」

テンが開けてくれて、行儀が悪いのはわかってるけど、部屋に飛び込んだ。

部屋にはピンク色の着物が掛けてあった。帯や腰ひも、足袋まで全部揃えてあるみたい。


「テン、私、着物の着付け出来ないよ?」

「大丈夫です。手伝いの者が何人もおりますので。」


テンがパンパンと手を叩くと、わらわらとさっきの赤い着物の女の子達が私とテンの前に正座でお辞儀をする。


「お嫁様、今日より我らはお嫁様のお手伝いをさせて頂きます、狢です。何なりとお命じ下さい。」

「まずはお着替えさせていただいきますね。」


そう言うと、さっさとTシャツを脱がされ、着付けが始まった。

女の子ばっかりなのに少し安心して、色々観察してみる。

この長襦袢いい匂いがする。お香みたいな。白檀とかだっけ?ああ、昔は香水とか無いから、着物にお香を焚くんだっけ。

あれ?着物の下にブラとかしないんじゃ?とか考えてるとテンが言いにくそうに口を開く。


「無いと不安になりませんか?以前いらっしゃった方が、下着がないと不安になると言っていたので……。」

「あ、うん。そうかも。てか、前にもお嫁様候補来てるの?私で何人目?」


テンはにこやかに微笑むだけで答えない。

はー、そう言う事。嫁候補が逃げちゃうのね。私も断るつもりだけどさ。


「なぜですか?!若様は素晴らしい殿方ですよ!絶対にさくらを気に入るし、大切にします。」

「ねぇ、テンはいつから私を見てた?振られて泣いてたのも見てたよね?」

「そ、それは……。」

「私は時間が欲しい。すぐに違う人の事なんて考えられないよ。テンの若様は待ってくれるのかな?」

「……。」


いつの間にか着付けは終わり、鏡台の前に座らされ、髪を結われる。成人式の時を思い出した。あの時からあまり変わってない気がするなぁ。


「お嫁様は瞳と御髪がとても美しいですね。青く輝く髪は初めて見ました。」

全てまとめて櫛や簪で飾ると、狢の女の子達が嬉しそうに誉めてくれた。


「ありがとう。青く輝くなんて初めて言われた。でも、子供の頃から髪は良く誉められたなぁ。」

「全て素晴らしくお綺麗ですよ。少しお化粧させていただきますね。」


白粉を叩いて、目尻と唇に紅を引かれる。まじまじと鏡の中の自分を見る。

あれっ私、ちょっと綺麗かも。黒髪と赤い口紅ってなんか凄くいい。


「ねぇ、そのお嫁様って止めてもらってもいいかな?さくらって呼んで欲しいな。」

お嫁さんにならないと思うし。


「「かしこまりました。さくら様。」」

「様もいらないんだけど、まぁいいか。それと、ここはどこなの?日本ではあるのよね?」

「はい。ここは鬼の里になります。」

「鬼の里?」














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