拐われました。
「嫌です。」
真顔で即答すると、天使ちゃんは不思議そうに首をかしげ、
「死にたいって言ってましたよね。なら、こっち側には未練は無いのでは?」
「だからといって、鬼のお嫁さんって、意味がわかんない!鬼って怖い物の代表みたいなやつじゃん!!」
天使ちゃんはフワフワと浮かびながら、腕組みをしてちょっと考えてる。
「あー、物語とかの鬼とはちょっと違うと思いますよ?本来なら自分で気に入った娘を、有無を言わさず拐ってくるんですけど、うちの若様はそういう男気みたいなの無いんで。」
「有無を言わさず拐ってくるってのがもうダメじゃん。それに、男気の使い方が間違ってる!」
そうですかねぇ。なんて呟きながらフワフワ漂う。
そもそも、この子は何なのだろうか?
いつの間にか正座をしながら見つめていた。
「私ですか?貂です。若様の身の回りのお世話をさせていただいてます。」
グニャリと天使が歪んだと思ったら、真っ白なテンが現れた。
「キャー!!可愛い!!えっ、私、テンって初めて見た!触っていい?」
「どうぞどうぞ。」
フワッと膝に降りて来てくれた。そっと撫でてみるとつやっつやのフワッフワ。すごい。高級な毛皮みたい。
「あー、実際、毛皮目的でほとんど狩られましたからね。黒貂は今でも高級毛皮ですよ。セーブルって聞いた事無いですか?」
「え」
手が止まる。
「あなたは、生きてるの?」
「はい。若様が私を見つけ、あちら側に連れてきてくれたんです。親は私を守るために死にました。」
「そう。……ごめんね。」
テンはビックリしたように振り返り、
「なぜ、あなたが謝るのですか?」
と、不思議そうに問う。
「人間が嫌いなんじゃないかと思って。」
また艶やかな首から背の毛並みを撫で始める。
「生きているから、こんなに美しいのにね。」
小さい頃から動物が好きで、色々飼ってきた。毛皮とかの話になると本当に落ち込んでしまう。すごく申し訳なくなる。人間の為の物ではないのに。
ちょっと泣きそうになりながらテンを撫でてると、テンはじーっと私を見つめていた。アルビノなのか、ウサギみたいに目が赤い。ルビーみたい。
「私はあなたが気に入りました。若様のお嫁さんになっていただきます。」
そう言うと、六畳の部屋いっぱいになるほど大きくなって、私を背に乗せ窓から飛び出した。
「ーーーーーーーっ!!」
怖い怖い怖い!ものすごいスピードで夜の街を飛ぶテン。風で目も開けられないし、声も出ない。艶々の背中から滑り落ちそうで、必死にしがみついていた。
突然フワッと落ちる感覚がして、全身が強ばる。
「止めて止めて、落ちるぅーーっ!!」
もうダメだ。と思ったらやっと止まった。
「なんて事すんのよ!怖かったじゃないのよ!」
テンを泣きながら怒鳴り付けて顔を上げると、平安時代のような建物が並ぶ所に来ていた。
目の前には、朱色の橋が架かってて、奥には古い時代の広い日本家屋。お堀で囲まれている。
「ここが若様のいらっしゃる屋敷です。」
テンはしゅるっと小さくなって、私の肩に飛び乗った。
テン、私も見たことありません。
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