振られました。
「さくら、悪い。別れてくれないか。お前とは結婚できない。」
久しぶりのデート、夜景の見える高層ホテルのレストランで、別れを告げられた。来月結婚するはずの人に。
遠野さくら、24歳。157センチの普通体型。髪も目も真っ黒で、背中の真ん中位まで髪を伸ばしてる。
ごく普通の家庭の長女で、4つ下に弟がいる。
普通の高校を出て、普通の大学出て、普通に就職した。
「な、に、言ってんの?結婚式、来月だよ。先月招待状送っちゃったじゃん。今さら出来ないなんて言えないよ。」
いつもなら目を見て話せるのに、目が見られない。
顔が見られない。
怖い。
私を見る、涼介の顔が見られない。
「ごめん。」
「……。」
「お前は悪くないんだ。俺が悪い。」
大きなケンカする事もなく2年。仲良くしてると思ってた。
2つ年上の、同じ会社の先輩。
身長は普通、高校球児だったみたいでガッチリした体格で、女子社員に人気があった。あまり笑わないけれど、私を見る優しい目が好きだった。
「他に好きな人が出来たんでしょ。」
「……悪い。」
最近はいつも忙しいって連絡も取れない日もあり、休日も予定があるとかでなかなか会えなかった。
やっと会えたと思ったら別れ話なんて。
否定して欲しかった。泣くもんかと、奥歯を噛み締める。
「慰謝料はもちろん、式場のキャンセル料も家が全て」
「分かった。」
食いぎみに返事をすると、ホッと息をつく雰囲気で、つい顔を見てしまった。
明らかに安心した顔と目が合うと、しまったって目をそらされる。
悲しいのと、腹立つのと、恥ずかしいのが一気に湧いてきて、涙がこぼれそうになる。そのまま席を立ち、何も言わず帰ってきてしまった。
あーあ、本当に好きだったのになぁ……。
一人暮らし1DKの自分の部屋、熱目のシャワーを浴び、ビッグサイズの黒Tシャツ一枚で泣きながらビールを飲む。
胸が痛い。飲んでも飲んでも全然酔わない。
「あーあ、親になんて言えばいいんだろう。怒られるよね。めんどくさいな。」
もう死んじゃおっかな。
そしたらもうめんどくさいのも苦しいのも悲しいのも、何もかも無くなるよね。膝を抱えてうずくまる。
会社にも行かなくていいし、親にも文句言われなくていいし、友達にも笑われたり心配されたりしなくていいし。
「うぅ、」
貯金いくらあったっけ?
最後にハワイとか行っちゃおうかなぁ。
「死にたいの?」
子供の声がした。
「え」
いつの間にか、カーテンが片方開き、窓に浮かぶ人影。
ゆゆゆゆゆ幽霊?!ここ三階ですけど!!
パンツが見えるのも構わず、座った姿勢のまま壁まで後ずさる。首筋にヒンヤリとした冷たい空気が当たるような気がする。
「どどどなたですか?」
聞いたくせに、答えが返ってくるのが恐ろしい。
「幽霊じゃないよ。」
「ぎゃああああああああ!!」
返事した!逃げないと!あああスマホ!てか、下、何もはいてない!!
本当に怖い時って体震えるんだなとか鳥肌スゲーとか、なんか冷静に観察してる自分が居たりするんだけど、腰が抜けた。立てない、逃げられない!
「だから、幽霊じゃないってば。」
窓が開いて、金髪の巻き毛に水色の目の天使みたいな女の子が入ってきた。お目目ぱっちり、めっちゃ可愛い。
う、浮いてるじゃん。
羽は無いみたいだ。羽があったら天使なのに!!
「幽霊にしか見えないんですけど!」
「えっ怖い?可愛くしてきたつもりなんだけどなぁ。」
「可愛いけど。」
「じゃあ怖くないでしょ!」
うん。ちょっと落ち着いてきた。
血まみれとか、手がないとか、目玉が飛び出してるとかしてないし、長い髪の毛がバサバサとかじゃないし、綺麗な幽霊って感じ?
「なにそれ怖い。だから幽霊じゃないって。」
しかめっ面で言われた。天使がしかめっ面って。
ん?
「……私、口に出してないよね。」
「あ、心読めますから。」
「えっこわっ。」
「はぁ。何でも怖いんですね。まぁいいや。こっちの話を聞いてもらっても良いです?」
首をブンブン縦に振る。
「死んじゃうんなら、鬼のお嫁さんになりませんか?」
天使ちゃんに、物凄くいい笑顔で言われた。
鬼とか妖怪のお嫁さんになりたかったなぁ。
と、子供の頃思ってました。
読んでくれて嬉しいです。
ありがとうございます。
おかしな文章や、誤字など教えてもらえると助かります。