1話 異世界に行くならそれなりの覚悟を
俺の名前は龍云。2年前異世界転移してしまった関係で2年間留年しているかたちだ。
「なっ、龍云!火の魔法もっと見せてくれよ!」
こいつはクラスメイトの神谷だ。
キャラとしてはムードメーカーと言ったところか。
「火属性魔法も見たいけど、個人的には転移魔法が気になりますね」
眼鏡をかけていかにもオタク感満載のこいつが田中だ。
「ねっ!龍云くん!私、異世界転移したいな!」
今まで隠し通してきたオタク魂を俺の魔法を見たことで抑えきれなくなった元隠れオタク、日比野はキラキラした目で身を乗り出していった。
おいおい、女子の大半ドン引きしてんぞ。俺の知ったことじゃないが。
アニメ、漫画を読まない人は異世界転移などと言われてもピンと来ないだろう。この場で話についてこれてる日比野がオタク認定されたのも無理はない。
まあ、全員が全員ではないが。チラチラと話したそうにしている女子オタクも見受けられる。
「なに?いせかいてんい?なにそれ、スタバの新作?」
サバサバと話をぶった切ったギャル、新木は怪訝そうな顔をしている。
「一旦落ち着こうか」
ここまでのやり取りを黙って見ていた俺は声をあげた。
そんなに大きな声ではなかったが、周りは一気に静かになる。そんなに響いたのか?(恐らく異世界から帰ってきた子が喋りだしたから一語一句聞き逃さないようにしようとかそんなところか。)
「火属性魔法は別にいつでも見せてやる。ターゲットとか用意してもらえれば《ファイヤボール》撃てるよ。」
「よっしゃ、的作れって事だな。早速行くぞぉ!」
単純な神谷はそう言って教室を出ていった。いや、まだ授業あるんだが…
「ねぇ、異世界転移は?異世界転移はやってくれる?」
オタクだが顔はすごく可愛い日比野は上目づかいにそう言ってくる。もちろん、俺の答えは、
「嫌」
「えっ?!」
てっきりOKだと思ってきたのだろう。
日比野は豆鉄砲くらったみたいな顔をしている。まあ、あの流れだしな。それでも、俺は心変わりはしない。可愛い女子の上目づかいで折れるような心は持っていない。
「普通に現代を移動する転移魔法も使えるんですよね?それは見せていただけるんですか?」
転移魔法に興味津々の田中。
「ああ、少しなら」
「よっし!」
「なんでよ!!」
ここで抗議してきたのは日比野だ。まあ、1人だけお願いを断られたのだから当然の通りだろう。
「異世界転移魔法は知っている。でも、異世界に行って、君はどうする?」
「え……、あ、えっと…」
「やりたい事も決まってないのに異世界に行くのか?そんな生半可な気持ちで、異世界で生活できると本気で思ってるの?」
「そっ、それは……」
「俺は君に意地悪したい訳じゃない。クラスメイトを無駄死にさせるのは気が進まない。」
「……ごめんなさい…」
彼が見てきた異世界は楽しいばかりじゃなかったのかもしれない。何度も死線を乗り越えて今、今日ここに立っているのかもしれない。
なんて事を考えてそうな顔の日比野を見ながら、俺は少し罪悪感に見舞われていた。異世界生活は楽しかったし、特に苦労もしてない。中盤からは……
ではなぜ俺が異世界転移魔法を使うのを嫌がるのかそれは、
「そんなに、過酷だったの……?その、いせかい、での生活って」
おっと、ここで新たな人が声をあげた。物静かな感じの和服が似合いそうなおっとり美人、成瀬だ。
「……いや、そこまで…」
「「えっ?!」」
日比野と成瀬の声が重なる。確かに流れ的に異世界はめちゃ過酷感でてたもんな。
「なら!ならなんで、異世界転移魔法使ってくれないのよ!」
そう、ここに来て問い詰められてしまった。仕方ない正直に話そう。
「異世界転移魔法は……消費魔力がかなりいるし……神経使うし……何より、ポーズが…」
そう、異世界転移魔法はポーズがあるのだ。厨二巻満載のだ。それを人前でやりたくないのは人間の当然の心理だろう。
「そんな理由なの!!それならしてくれても良いじゃない!」
そんな理由だと?羞恥を自分から受けに行く人がいるわけないやろ。
エセ関西弁がでてしまった。心の中で。
「大きな理由だ」
「ねぇ!お~ね~が~い~!!異世界に連れてって?」
とうとう、日比野は俺の腕をつかみ、立派に育ちましたとばかりに強調してくる胸の谷間に押し付けながら、上目づかいで見てくる。
こいつ、あざといな。俺はこういう奴はマジで、本当に、
「……わかった」
「やった!龍云大好き!!」
……大好きだ。