95.家族の元へ
「それじゃ、そろそろ出ましょ。私『ポータル』使えるから、アンタ達も一緒に連れて行ってあげるわ。って、まぁ蓮華なら使えるか」
その言葉に視線を逸らす。
「アンタまさか……」
「はい、使えません……」
正直に言った。
「なんでよ!?『ポータル』なんて無属性の比較的簡単な転移魔法でしょ!?設置してる場所に行くだけの!『ゲート』や『ワープ』とかと違って、明確なイメージもいらないのよ!?」
「はい、すみません……」
小さくなる私だったんだけど……。
「ぶはっ!ははははっ!」
アーネストに滅茶苦茶笑われたので、正拳突きをお見舞いしてやった。
「ごふっ……!?お、おま、み、ぞおち、は、酷くねぇ……?」
なんて言ってくるけど、最初に大笑いしたのお前だからな!
「はぁ、まったく……。私のライバルがそれじゃ困るから、学園で教えてあげるわ。帰ったら決着もつけなくちゃだし」
「「決着?」」
私とアーネストが揃って言う。
「私と蓮華との準決勝よ。あれ、途中からイグドラシルに体の制御奪われちゃって、戦えたの最初の魔法の撃ち合いだけだったのよ」
「あー……」
やっぱり、『メタモル』解いた後からはイグドラシルに成ってたのか。
「あんなの認めないわ。私は私の力で、蓮華に勝つわよ」
なんて言ってくるので、笑ってしまった。
「あは、あはははっ」
「なによ、何が可笑しいのよ」
「いやだって、ノルンって負けず嫌いなんだなって思って」
「五月蠅いわね、私の教育担当者のせいよ!」
なんて赤くなって言ってくるノルンが可愛かった。
「もしかして、あの一緒に居た男か?アリスと互角にやりあってた……」
ああ、居たね。
あのアリス姉さんと互角に戦うとか、ヤバすぎる。
「そうよ。私は彼からずっと学んできたの。やられたら倍返しって教わってきたわ」
半沢○樹かよ!って思ったのは、多分アーネストもだろうな。
分かった、そいつ絶対転生者だ。
アーネストの方を向いたら、頷いた。
「そういえばずっと聞きたかったんだけど、なんでノルンは私を狙ってたの?」
「私自身、蓮華の事を気になってたってのはあるんだけど……イグドラシルの一つになりたいって意思が、私の意思を侵食しててね。ずっと頭痛が止まなかったの。おぼろげながら、蓮華の魂を奪いたいとか、奪えばこの頭痛から解放されるとか、もう思考がぐちゃぐちゃで、特に学園に来てからそれが顕著になってしまったの」
それで、言動が時々変だったのか。
「ごめんなさい、蓮華。私はもっと正々堂々と蓮華と戦いたかった。だけど、出会いがあんな形になってしまった。だから、謝るわ」
「ん、良いよ。イグドラシルにも言ったけど、もう許してる。だから、これからはよろしくね?」
そう笑顔で言ったんだけど。
「勘違いしないで。私は蓮華と仲良しこよしをするつもりはないわ。ただ、礼儀を通しただけよ」
横を向くけど、その頬が赤くなっているのが隠せていない。
だから思わず言ってしまった。
「「ツンデレだ」」
「なんですって!?」
思わず出た言葉がアーネストと被る。
私達は笑ってしまった。
「はは。そいやさ、蓮華とノルンの見た目がほとんど変わらねぇよな。学園卒業したら服装も違うようになるけど、学園だと制服も一緒だし、色でしか判断つかねぇ」
「私からしたら、別に自分を見ないからなんとも思わないけどなぁ」
「私も。けど、そうね……なら、私はツインテールかポニーテールにでもしようかしら」
「おま、ツンデレキャラの王道を自分から行く、だと!?」
「アンタは何を言ってるのよ……!?」
「ぶふぅっ!」
二人の会話に吹き出してしまった。
いやだって、面白すぎるんだもの。
「もう、アンタ達と話してると、調子が狂うわ。ほら、さっさと出ましょ!元からそのつもりだったのに、なんでこんなに話が逸れるのよ!?」
「それは蓮華のせいだな」
「お前も乗っかったじゃないかアーネスト……」
「はぁ、もう良いから!こっち来なさい二人とも!」
そう言われて、ノルンに抱きつく。
「そこまで引っ付かなくて良いわよ!傍に来るだけで良いのよ!」
赤くなっているノルンが可愛い。
あれ、私はこんな性格だったろうか。
イグドラシルと融合しかけて、性癖が変わってしまったとか?
私のせいにするなーって聞こえてきた気がするので、この話題はやめよう。
「あ、そうだノルン。一番下に転送できないか?」
「『ポータル』じゃなくて『ワープ』なら可能だけど、なんでよ?」
「世界樹に入った時にさ、魔物が居たんだよ。それをセルシウスが残って食い止めてくれてたんだ。きっと、下で待ってると……」
アーネストが言い終わる前に、声が聞こえた。
「レンゲ!アーネスト!」
「「セルシウス!!」」
セルシウスが傍に寄ってきて、私に抱きついてきた。
「レンゲ……良かった!本当に、心配させて……!」
「うん、ごめんね。ありがとうセルシウス。だけど、他の大精霊の皆は……」
そう、私をイグドラシルと分離させ、アストラル体を生成してくれた。
その際に、私の魔力を全て、私に返してくれた。
そして、私の中からその存在は消えてしまったんだ……。
「ああ、それなら大丈夫。世界樹が元に戻ったでしょう?だから、今は蓮華の作ってくれたあの家で、休んでるはずよ」
「「本当に!?」」
アーネストと言葉が被った。
「ええ。大精霊の私が言うんだから、分かるでしょ?」
そっか、良かった……本当に良かった。
そう思っていたら、セルシウスがノルンを睨む。
「お前……」
「ま、待ったセルシウス!今のノルンは!」
「良いのよ蓮華。例え私の意思でなくても、私がした行いは変わらない」
そう言って、セルシウスに近づくノルン。
「お、おいセルシウス、ノルンはさ……!」
アーネストもなんとか穏便に済まそうと、声を掛けようとする。
すると、セルシウスは笑う。
「ふふっ、レンゲとアーネストが庇うのに、私が怒る筋合いはないわね。でも、心配をかけたのは本当なんだから、私達大精霊はともかく、貴方達の家族にはしっかり怒られる事、覚悟しておきなさいね?」
そうウインクをして言ってくれるセルシウスに、大人の女性の魅力を感じた私だった。
ノルンも、頷いてた。
「それじゃ、もう下には戻らなくて良いわね?」
「おう、セルシウスとも合流できたしな」
「それじゃ、外に出るわよ。『ポータル』」
瞬間、景色が変わる。
「ここは……」
いつもの、世界樹近くの泉だ。
「あんまり経ってないはずなのに、懐かしい感じがするなぁ」
「はは、確かにな」
「レンゲ、アーネスト。私は先に、リンスレットに会いに戻るわ。また、後で」
そう言って、魔法を使いノルンは転移していった。
「あいつ、思ってたより悪い奴じゃないってか、面白い奴だよな蓮華」
「うん。私は仲良くできると思う。それに……」
「「ツンデレだし」」
お互いに顔を見合わせて笑い出す。
そんな私達を見て、セルシウスは苦笑している。
「レンゲ、貴女はまず体に戻りなさい。そのままだと、そちらが世界に定着してしまうわよ。まぁ、あまり変わりはないでしょうけど」
「了解。アーネスト、場所教えて」
「おお、そうだったな。今は地下のベッドに寝かせてる。多分母さんとアリスが居るはずだぜ」
「そっか、心配掛けちゃったからなぁ……」
「おう、母さん泣かせたんだ。しばらく離れられないぜ多分」
「うへぇ……」
会話をしながら、歩く。
母さんにも、兄さんにも、アリス姉さんにも心配を掛けてしまった。
それに、闘技大会もあんな事になってしまって、申し訳ないと思う。
「あれ、誰もいねぇな……」
本当だ、地下室はもぬけの殻になっていた。
でも、私の体を見つける。
「なんか死体みたいだ……」
私のその言葉に、アーネストが言う。
「お前な。お前が言うなよ、本当に」
その言葉に苦笑する。
そして、体に触れると、アストラル体が吸収されていくのを感じる。
目を開ける。
うぅ、なんか体が重い。
これがアストラル体から変わるって事なのか。
さっきまで、空に浮いてる感じで、凄く軽かったのに、今は重みを感じる。
「蓮華、俺が分かるか?」
なんてアーネストが聞いてくるので。
「分からん」
って言ってやった。
「お前、その顔は絶対覚えてるよな?そうだよな?」
なんて少し心配そうに聞いてくる。
おっと、ちょっと意地悪しすぎたかもしれない。
「ごめんごめん。覚えてるよアーネスト。私の一番大切な、自慢の親友だ。忘れるわけないだろ」
そう言ったら、アーネストが抱きついてきた。
「このやろうっ!心配させやがって……!本当に、良かった……!」
そう言って、アーネストが泣いた。
本当に心配かけてしまったみたいだ。
背中をポンポンと叩いてやる。
「ありがとな」
そう言って離れて、ベッドから立ち上がる。
「さて、それじゃ母さん達を……」
探しに行こう、そう言おうとしたら。
「レンちゃーーーーーーん!!!!」
と言いながら、母さんが抱きついてきた。
「おぐぅっ!?」
「レンちゃん!レンちゃん!レンちゃぁぁぁん!!」
「ぐぇぇぇっ……く、苦しい、苦しいからかぁさんっ!!」
呻き声が出てしまうくらいにはきつく抱きしめられているので、抗議するも、効果がない。
ちょ、ま、本当に気絶しちゃう、気絶しちゃうから!
バンバンと割と本気で背中を叩く。
「あ、ごめんねレンちゃん!でも、でもぉ!!」
そう言って、一旦離れたと思ったら、また抱きついてくる母さん。
「もぅマーガリンは。……お帰りなさい、蓮華さん」
そう微笑んで言ってくるアリス姉さん。
「うん、ただいまアリス姉さん」
母さんに抱きしめられながら、アリス姉さんにそう返す。
アリス姉さんは微笑みながら、涙を拭っている。
周りを見渡したら、兄さんにミレニアも居た。
「無事で安心しましたよ蓮華。それに、アーネスト。よくやりました。私の自慢の弟弟子ですよ」
その言葉に、嬉しそうにするアーネスト。
「まったく、ひやひやさせおって。気が気でなかったわ。まぁ、無事でなによりじゃ」
そうミレニアも笑顔で言ってくれる。
私は、帰ってくる事ができたんだ。
それを実感して、嬉しくなった。




