93.残された者達
世界樹の麓の近く。
地下に造られたその場所は、長期間生活をしても問題の無い場所になっている。
そこで、今は二人、いや三人だけが残っていた。
マーガリンにアリスティア、そして意識を戻さない蓮華だ。
「レンちゃん……」
ずっと蓮華の手を握り、蓮華に付き添っているマーガリン。
「マーガリン、私、行くよ」
「……アリス?」
「蓮華さんはきっと、こんな時……他の人達を助けようとすると思うんだ。ロキにミレニアが、世界樹には敵を近づけさせないと思う。だけど、他の国は違う。きっと、悪魔達の侵攻を防ぎきれない国だって出てくる」
その言葉を、黙って聞くマーガリン。
アリスティアは続ける。
「私達なら、各国へすぐに救援に行ける。ううん、私達にしかできないの」
「……」
「マーガリン、蓮華さんが心配なのは皆一緒。だけど、考えてみて?蓮華さんが目を覚ました時……自分のせいで、たくさんの人が傷ついたなんて知ったら、優しい蓮華さんがどう思うかなんて、分かるでしょ!?」
「っ!!」
途中までは静かに語っていたアリスティアだったが、語尾を強める。
蓮華の事を想い、感情が高ぶった為だ。
「私は……」
「マーガリン、今私達のする事は何?ここでこうして、蓮華さんが目を覚ますのを、ただじっと待っておく事?アーくんや皆が、蓮華さんの為に力を尽くそうとしてる。……人類の始祖が、元精霊王が、そんなで良いの!?」
「!!……そうね、アリス、ありがとう。レンちゃん、私も行くね。皆を助けに。レンちゃんを助けるのは、アーちゃんに任せる。だから、私達は、レンちゃんの大事な物を、守りに行くよ」
「マーガリン……!」
嬉しそうに微笑むアリスティア。
先程までの弱気だったマーガリンは、もう居ない。
「行くわよアリス。全ての王国へ。久しぶりに、暴れてやるわ」
「ふふ、そうこなくっちゃ!」
こうして、地上最高戦力の二人も戦線へ向かう。
ただ、蓮華の大切な物を守る。
その為に。
「あーねすとちゃん、すとっぷだよ~」
世界樹はもう目の前、という所で、ドライアドがそう言ってきた。
「どうしたんだ?」
「これね~、多分消してもまた吹き出してくるたいぷだから~、身を守る方向でいくしかないかな~」
「つまり?」
「あーねすとちゃんの中に、せるしうすちゃん以外は入る事になるね~」
「ええと、そんな事できるんだな。ああ、俺は構わねぇよ」
「うふふ~、それじゃ入るね~。せるしうすちゃん、よろしくね~」
「ええ、分かったわ。私にも加護をよろしくねドライアド」
「もちろん~。あーねすとちゃんとせるしうすちゃんだけなら、余裕だよ~」
そう言って、次々と俺の中に入ってくる大精霊達。
いやまぁ、入ってくると言っても、なんか変な感じはしないけど。
「セルシウスはアストラル体、なんだったか?」
「ええ。だから、私は貴方の中には入れない。貴方の中に皆居るけれど、基本出てこられないと思った方が良いわ」
「オーケー、了解だ。大精霊の皆のお蔭で中に入れるんだ。それだけでも助かってる。行こうぜセルシウス!」
「ええ」
二人世界樹の中へ進む。
紫色の霧で視界が悪い。
草木は枯れ、酷い事になっている。
「くそっ……」
思わず零れる。
蓮華、無事でいてくれ!
「ここね」
セルシウスが立ち止まる。
そこは、世界樹の木そのもの。
さて、ここからどうやって入るのか。
「なぁ、なんか入口があんのか?」
「いえ、そのまま進めばいいわ。入れるから」
「マジかよ……うし、男は度胸だ!行くぜ!」
そう言って駆ける。
木にぶつかると思ったが、何も無く中に入れて拍子抜けした。
「なんだこれ、木の中に螺旋階段とか、どうなってんだこれ……」
中に入った途端、上に続く階段がある。
どこまでも続くかのように見えるその階段。
一番上が霧がかかっていて見えない。
外と同じように、紫色の毒々しい雰囲気だ。
ガチャガチャガチャ……
鎧の擦れるような、変な音が聞こえる。
「魔物!?」
「マジかよ、世界樹の中にそんなもんが居るのか!?」
双剣を抜く。
「ダメよアーネスト。貴方はこんな所で時間を掛けては」
「でもよ、倒さないと進めそうにないぜ?」
「ええ、だから私と一緒に階段まで走りなさい。後は、任せるわ」
「お前……」
「レンゲをお願い。ここは私が抑えるわ。上には絶対に行かせない。だから……レンゲを……任せるからね」
本当はセルシウスも蓮華の元に行きたいはずだ。
だけど、その気持ちを抑えて、俺に託してくれたんだ。
ここで応えなきゃ、男じゃねぇよな。
「分かった。任せろ、セルシウス!」
「それじゃ、行くわよアーネスト!」
「おうっ!」
階段まで駆ける。
魔物を斬り伏せ、弾き飛ばしながら、ただ前へ!
階段に辿り着き、俺はそのまま駆け上がる。
セルシウスは立ち止まり、魔物の方へ向き直る。
「任せたからね、アーネスト!レンゲを絶対に、助けるのよ!」
「ああ!任せとけ!」
走る。
ただひたすらに、上へ。
「はぁっ!はぁっ!」
どれくらいの時間走っただろうか。
息がきれそうになる、凄まじく長い階段だ。
けれど、ようやく天井が見えてきた。
感じる、イグドラシルの力を。
間違いない、この先に、居る……!




