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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第三章 学園編

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91.蓮華を救う、その為に

 アリスの先導でミレニアの屋敷に着いて、事情を説明する。

 ミレニアも異変には気付いていたようで、背負う蓮華を見て納得したようだ。


「アリス、お主でも、守れなんだか……」


 そう零すも、その表情は非難しているわけではなく、ただ悲しそうだった。

 そうして、世界樹の麓にある家に向かっている最中に見た世界樹は、紫色の煙のような物に覆われていた。


「あれは、毒だね……多分、生物があれに触れたら、毒が体中に周って、腐敗して死んじゃうよ……」


 そうアリスが教えてくれる。

 あんな毒だらけの中に、蓮華は居るのか……!

 悔しさで拳を握る力が強くなる。


「……ゆくぞ。今妾達にあそこへ入る術は無い」


 その言葉を悔しく思いながらも、先導するアリスに続く。

 そして、地下に着く。

 その先には、懐かしい顔ぶれが居た。

 でも、今は再開を祝える状況じゃなかった。

 母さんと兄貴が、背負っている蓮華を見て息を飲む。


「レンちゃんっ……!!」


 慌てて駆け寄り、蓮華を抱きしめる母さん。

 そしてその冷たさに気付いたのだろう、母さんが蓮華を抱きしめたまま、崩れ落ちた。


「そん、な……」


「……大体の予想はつきますが、まずは蓮華をベッドへ運びましょう。アーネスト、話を聞かせてもらえますね?」


「……はい」


 そうして蓮華を運んだ後、隣の部屋で兄貴達に、経緯を話した。


「成程……イグドラシル、長い時を経て、狂化したようですね、嘆かわしい」


「兄貴も、知ってるの?」


「ええ、古い知人ですよ。友人ではありませんがね。ええ、蓮華と比べれば月とスッポン、提灯に釣鐘、猫に小判とも言えますね」


 うん、兄貴、もしかして日本人とかじゃないよな?

 なんか最後の方はちょっと違うような気もしたけど、気にしない事にした。


「アーネスト、蓮華を救う手段はあります」


「本当に!?」


 思わず体が乗り出す。

 兄貴が俺に嘘を言うわけがない。

 それも、蓮華に関する事だ。

 だからこそ、だ。


「ええ。ただ、それはアーネスト、君にしかできない」


「ダメよロキ!そんな事をしたら、アーちゃんがっ……!」


 母さんが、反論する。


「ですがマーガリン師匠。それしか方法はありませんよ。世界樹の中には、私や貴女でも入る事はできないのですから」


「それは、そうだけどっ……!でも!!」


 それはつまり。


「俺なら、世界樹の中に入れる……?」


 そう、アスモデウスも言っていた。

 俺は、なんなのか、と。

 ただの兄なのか、と。

 違う。

 俺は、蓮華と同じだ。

 そう、俺も蓮華と同じなんだ。


「そうですアーネスト。蓮華と魂の繋がった貴方なら、世界樹の中に入れます」


 その言葉に、俺は希望が見えた。

 けれど、それを母さんがすぐに否定する。


「無理よ!アーちゃんには魔力が無いのよ!?世界樹の中は、マナで渦巻いているの!アーちゃんが中に入った瞬間、存在を消されてしまうわ!」


「それは……」


 兄貴も言葉を詰まらせる。

 つまりは、そういう事なのだろう。

 俺が中に入っても、存在が消される。

 でもそれは、どうしてなんだろうか。

 俺が魔力が無いから、消される?

 それは何故?


「母さん、なんで俺に魔力が無いと、世界樹の中に入れても消されてしまうんだ?」


「……アーちゃん、どうしてレンちゃんが魔術を使えないか、説明したよね?」


「うん。確か魔力が多すぎて、魔術を使える要素が全くない、だったっけ?」


「そうだよ。マナは魔力。世界に満ちているマナは、世界樹から出てるの。つまり、世界樹の中はマナで溢れてる。そこに、マナを持たない魔力の通り道が出来たら、どうなると思う?」


「もしかして、そこに一気に魔力が集まる?」


「正解。つまり、魔力が空の入れ物に、大量の……容量オーバーの魔力がいきなり注ぎ込まれたら、その入れ物はどうなると思う?」


「……壊れる、かな。その入れ物が瓶なら、粉々に」


「また正解。その入れ物がね、アーちゃん。その魔力が、世界樹。死ぬと分かっているのに、行かせられないよ……アーちゃん……」


 そう言って、母さんは泣いた。

 俺は、母さんの涙を見たのは二度目だ。

 でも、あの時とは違う。

 あの時は、喜んでくれた。

 でも、今回は逆だ。

 俺を失う事を悲しんで、でもそれは……蓮華を諦めるという事と同意で……それを悟っているから、泣いたんだ。

 俺は無言で、蓮華の傍に行く。

 皆もついてきてくれた。

 俺は声を掛けるのを、我慢できなかった。


「目を、覚ましてくれよ……蓮華っ……!」


 ベッドの上で、死んだように眠る蓮華に、言う。

 周りですすり泣く声が聞こえる。


「蓮華っ!俺と一緒にこの世界を生きるって、言ったじゃないかっ……!」


 涙が零れる。

 俺は、蓮華を守れなかった。

 この世界で、一緒に生きる事になった……親友を。

 悔しくて、悲しくて。

 口からは血が零れてきた。


「アーちゃん……」


 母さんが、辛そうに俺を見て、そして蓮華を見て、泣き崩れた。


「レンちゃんっ……ごめん、なさいっ……こうなる事を、一番恐れていたのにっ……!」


 蓮華は眠っている。

 まるで死んだように、冷たい体。

 でも、まだ死んだわけじゃない。

 だから、言う。


「大精霊達、俺に力を貸してくれ。蓮華を、助ける。その為の力を、俺に貸してくれ!」


 ここに居る大精霊達は、蓮華と契約をしている。

 だから、蓮華と精神的な繋がりがある。

 俺には魔力が無い。

 だからその魔力を、大精霊達に借りたい。


「良いでしょう、アーネスト。レンを救う為に、惜しむ力はありません」


 そう、ウンディーネが言ってくれる。


「愚問ね。レンゲを救える可能性があるのなら、なんだってするわ」


 セルシウスが続ける。

 他の大精霊達も、同じように言ってくれる。

 蓮華、お前はこれだけの大精霊達に慕われてるんだ。

 このまま、死なせはしないからな!


「アーくん、世界樹の中は、今は毒素で一杯だよ。それでも、行くの?」


 アリスが聞いてくる。

 それがどうしたっていうんだ。


「当然。世界樹の中に入れるのは、蓮華と魂で繋がってる、俺だけだ。なら、俺がやるしかないだろ?」


 例え俺以外が行けたとしても、俺は行くけどな。

 その言葉に、悲しそうにするアリス。


「ごめんなさい。私も、力になってあげたい。私を救ってくれた蓮華さんを、助けてあげたいよ……!でも、私でも……世界樹の中には入れない。だから……お願いアーくん、蓮華さんを……助けて!」


 泣きながら、そうお願いしてくる。

 ああ、当然だ。

 蓮華は俺にとっても、大切な親友なんだ。

 絶対に、助けてみせる。

 頭に手を置いて、撫でる。

 アリスは俺をじっと見ている。


「任せろ、アリス。俺が絶対に、蓮華を助ける」


 だから、そう言った。


「うん……!お願いね、アーくん……!」


 泣きながら笑顔で、そう言うアリスに微笑む。


「アーネスト、外は私に任せなさい。雑魚は一匹たりとも、世界樹に近づけさせはしません」


 兄貴が言ってくれる。


「妾とロキに外周は任せるがよい。お主は蓮華を、頼んだぞ」


 ミレニアもそう言ってくれる。

 心強い限りだ。


「アーちゃん……」


 母さんは、心が折れてしまっている。

 大好きな蓮華がこうなってしまったんだ、仕方がない。

 だから、言う。


「母さん、蓮華の心を取り戻しに行ってくるよ。それまで、蓮華の体を、守ってあげてほしい」


 それを聞いた母さんは、震える声で言う。


「アーちゃん、私、この上アーちゃんまで失ったら、もう立っていられないよぅ……」


 母さんが、大粒の涙を流している。

 悔しかった。

 蓮華の意識があったら、絶対にこんな母さんを放っておかない。

 それが今は……。

 優しい母さんは、蓮華を助けてほしい気持ちと、そうしようとして、俺まで失う事を恐れる気持ちとで、動けなくなってしまっているんだ。

 だけど、信じてほしい。


「母さん、俺を、皆を、信じてくれ。絶対に、俺達は無事で、蓮華も助けてみせる」


 そう心から諭すように言った。

 優しい母さんの心に、響くように。


「……うん、約束だよ、アーちゃん。レンちゃんを……お願いね」


 そう、言ってくれた。

 蓮華、待っていてくれ。

 必ず、俺が、俺達が……助けてみせる。


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