8.魔剣
あれから一週間。
今日も今日とて、手加減の修行は続いてる。
今は模擬戦中だ。
ギィン!ギィィン!ギギギィィン!!
剣の鍔迫り合いの音が鳴り響く。
「こらアーちゃん!そんな鋭い一撃が、普通の人に防げるわけないでしょ!!」
「ごめんなさいぃぃ!!」
悲鳴を上げるアーネスト。
いやまぁ、仕方ないんだけど……だって、私の後ろにあった岩、私を素通りして砕けてるよ。
私は魔法壁を展開してるから無傷だけども。
「ねぇアーネスト、私もアーネストが手加減してくれてるのは実感してるよ?」
だって砕けてるだけで、粉々じゃないもんね。
私も腕が痺れる程じゃないし。
「れ、蓮華?」
キラキラした瞳で見てくる。
そこへとどめをさす私。
「でも、魔法で防御してなかったら、死んでるよねこれ」
「ぐはぁぁっ……」
剣を落とし膝をつくアーネスト。
容赦はしない。
手加減は最初にちょっとしたし。
「レンちゃんは大分マシになってきたんだけど……アーちゃんはまだまだ必要ね。レンちゃん、今日はもう自由にして良いよ」
「本当ですか?やった!」
「くっそー、良いなぁ蓮華」
笑顔で良いだろーと言ってやる。
悔しそうなアーネスト。
そんな二人を見て、笑顔を浮かべるマーリン師匠だった。
てくてくと歩く。
久しぶりの自由時間だ。
というのに家についてしまった。
元の世界の時も、仕事が終わったら家にすぐ帰っていたのを思い出し、苦笑してしまう。
「おや?蓮華、修行は終わったのですか?」
とロキさんがやってきた。
「はい、アーネストが今はマーリン師匠とつきっきりです」
正直に話す。
「成程」
と苦笑している。
美形は苦笑してる姿も絵になるなぁとか思いつつ見ていると、少し照れたような表情で言う。
「なら、少しこの辺りを散歩してきたらどうです?まだ夕食までは時間がありますからね」
そうだな、そうするかな。
お礼を言って離れる。
ロキさんって普段なにしてるんだろう?って少し疑問に思いながら。
歩いていると、巨大な樹木の麓まできていた。
言わずと知れた、世界樹だ。
私はこの世界樹から生まれたんだよなぁ……なんて考えていたら。
突然、風が舞ったかと思うと、そこに綺麗な女性が立っていた。
「だ、誰……!?」
思わず聞いてしまった。
すると、わずかに微笑んだように見えたその後に。
「私はウンディーネ、水の大精霊です」
と答えてくれた。
おお……と固まる。
あのウンディーネですよ。
ゲームでも漫画でも、必ずと言っても良いというほど出てくれる、あのウンディーネですよ!
いけない、取り乱してしまった。
「突然姿を現してしまって、ごめんなさい。私は一度、貴女とお話がしてみたかったの」
「お話、ですか?」
「えぇ。何か目的があるのかと言われたら、それはありません。本当です」
とてもにこやかに話してくれるその大精霊に、警戒を解いた。
「わかりました。私でよければ喜んで」
その答えに、大精霊ウンディーネは一瞬驚いた表情を見せたけれど。
「ありがとう」
そう、微笑んでくれた。
それから一時間程だろうか、とりとめもない話をした。
主に私の元居た世界についての話ばかりだったのだが、ウンディーネは興味深そうに聞いていた。
「ありがとうレン。レンのお話はとても楽しい。また、お話をさせてもらってもいい?」
話の中でレンと呼んでもいい?と聞かれたので、OKしたのだ。
「もちろん。もう友達でしょ?」
その言葉に、驚いた表情をするウンディーネ。
「ええ、そうですね。私とこんなに気さくに話してくれる方は、今まで居ませんでしたから」
「そうなの?私にとって初めての友人なんだけどね!」
「アーネストという方は、友人ではないのですか?」
純粋に疑問に思ったのだろう、そう聞いてきた。
だから答える。
「んー?親友だけど、あれは家族みたいなもんだから」
と。
うん、再認識したけど、これが合ってると思う。
「クス、そうですか」
と、微笑んで言ってくれた。
そしてウンディーネと別れ、また当てもなく歩いていたら。
洞窟とでもいうのだろうか、その入り口を見つけた。
どうするかと悩んだが、まぁ行ってみるかと深く考えずに入ってしまった。
しかし、入って数分と立たずに行き止まりに辿り着く。
洞窟じゃなくて、防空壕みたいなものだったのかな。
残念だと思いながら、出ようとしたら。
ゴッ!
「あいたぁっ!?」
何かに足をひっかけて、転んでしまった。
いや痛くはない。
痛くはないんだけど、何故か言ってしまうのだ。
「なんだこれ、剣?」
そこには、剣が埋まっていた。
いや普通、剣って刺さってるよね。
なんで横向きに埋まってるのさ。
そう思いながら取り出そうと剣を持つ。
すると。
“強大な魔力を感知した。貴女を主と認めよう。幾久しく、主様”
と頭の中に直接声が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
辺りを見回すも、誰もいない。
という事は、消去法で、この剣が声を発したとしか考えられないわけだが……。
「えぇと……今頭の中に声が聞こえたんだけど、貴女かな?」
剣に貴女と聞くのもあれなんだけど、聞こえたのは女性の声だったし。
“そうです、主様。我が名はソウルイーター、魂喰いの剣です。”
という答えが返ってきた。
私が頭を抱えたのは言うまでもなかった。
気を取り直して、と。
「そんなの要らないから、戻すよ?」
私の第一声がそれである。
これには慌てたのか、早口で言ってくる。
“まままま待って、捨てないで!千年ぶりの私を持つ資格を持った人なの!なんでもするから見捨てないで!主様ぁ!”
はぁ……私が元のまま男だったら、嬉しかったかもしれないけど、今の自分は女なのだ。
いや男にも興味はないんだけど、なんかもう女性にもそんなに興味がなかったりする。
だから、なんでもと言われても、悲しいかな、別になんとも思わない。
「私、人間を無差別に殺すとか嫌だよ。罪のないとか言うつもりはないけどさ」
そう、生きてるだけで罪はあるんだ。
罪のない人間なんていやしないってのが自分の考えだ。
それでも、悪い事を平然とする奴には怒りを覚えるし、優しい人には好感が持てる。
結局、自分次第だと考えている。
で、自分は人殺しは嫌いなのだ。
“だ、大丈夫です。魂はなんでも構いません。た、たとえ、虫、でも、うぅ……”
本当は嫌なんだろう。
それでも私に捨てられまいと、必死に訴えてくる。
「……私の他に、もう一人凄いと思う奴が居るんだけど、そっちと契約してみるとかは?」
そう、アーネストに丸投げしようと考えた。
あいつならこういうの好きだろう。
なんせ以前の自分だ、分かる。
それに私に資格があるなら、多分アーネストにもあるんじゃないかと思ったのだ。
“我を持つ資格があるのは、一定以上の魔力を持つ者に限られるのです主様。その者は、主様並みの魔力をお持ちですか?”
そう言われては、アーネストは確実に無理だ。
なんせアーネストは魔力が無いのだから。
「……それで、私が貴女を持つ事のメリットは?」
その質問に、剣が喜んだ気がした。
私が持つ事に肯定の意思を向けた事に気が付いたのだろう。
“まず、我と契約した後の主様が倒した種族に、特攻効果が加わります。”
「特攻っていうと、ダメージが増えるって認識で良い?」
“はい、そうです。それも、同じ種族を倒せば倒すほど、その倍率は高くなっていきます。”
成程、それは助かるかもしれない。
“また、その種族から受けるダメージも同様に減少します。これは魂の作用であり、極めれば種族によっては無効化まで可能となります”
とんでもなかった。
「他にはある?いや、今のだけでも十分凄いと思うけどね」
“あるにはあるのですが、第一段階ではここまでしか話せません、申し訳ございません主様。”
何か制約みたいなものがあるのかもしれない。
なら仕方ない。
もう一つ聞いておかなければ。
「で、貴女を持つ事のデメリットは?それだけメリットがあるんだから、かなりのデメリットがあるんでしょ?」
でなければおかしい性能だ。
けれど……。
“いえ、特にはないかと。強いて言うなら、他の武器を使う気にならないのではないか、と。”
成程、特になしか。
成程……。
「嘘じゃないの?」
素で聞いてしまった。
“嘘じゃありません……契約の際にそんな事言えません……”
悲しそうに言った。
というか何故こんなに低姿勢なんだこの剣。
それを指摘したら。
“だって主様、今までのどんな主様より魔力が強くて、美しくて可愛らしくて素敵なんですもの!惚れたんです悪いか!”
なんか最後の方逆切れされてた気がするんだけど。
まぁそういう事なら良いか。
「じゃ、契約するよ。どうするの?血でも垂らせば良いの?」
と適当に言ったら。
“はいっ!”
と嬉しそうな返事が返ってきた。
本当に血を垂らすんかい……。
渋々、指先を傷つけて、血を数適垂らした。
すると、剣が輝きだした。
“あ、ぁぁ、ぁぁぁぁ!なん、なんて、なんて甘美な血……!主様、貴女様は一体っ……!?”
貴女は一体とか言われましても。
世界樹の化身ですけど、と答えたら。
“我が忠誠を貴女様へ。我が主が死す時、この身もまた亡びましょう……!”
とかなんとか、重すぎる忠誠を誓われた。
で、冷静になって考える。
私は刀が好きなんだけど、これどう見ても剣、剣なんだよなぁ……。
剣も好きなんだけど、私は日本刀が大好きなんだよなぁ……。
「ねぇソウルイーター。長いからソウルって言うね。変形っていうか、刀に形変えれたりしない?鞘付きで」
ダメ元で聞いてみた。
“できますよ?”
刀になった。
……言ってみるものだね。
さて、そろそろ戻るかな。
わずかの時間に、濃い時間を過ごした気がする。
そして戻ってすぐに
「「ソウルイーター!?」」
とマーリン師匠とロキさんに驚かれた。
そんな驚くような物なのかこれ。
と顔に出ていたのか、ロキさんが答える。
「蓮華、その剣は多くの者が望み、そして認められず散っていった魔剣です。それも最上級の。その剣を手に入れる為に戦争が起こった事も数度ではありません。みかねたマーガリン師匠が、この先の祠に封印していたのですが……」
驚く。
封印なんてされてたのか。
普通に入れたけど。
あぁー……とマーリン師匠が言う。
「そりゃ、レンちゃんに封印は効かないよね。私より魔力が高いんだもん」
成程。
そこで。
「戻した方が良ければ、戻すよ?」
と言った。
だって凄い武器だとは思うけど、別に要らないし……。
すると。
“主様ぁぁぁ!後生です!後生ですから捨てないでぇぇぇ!我はどんな事でも従いますからぁぁ!!”
という声が全員に聞こえた。
マーリン師匠とロキさんが驚いた顔をする。
私は頭にきぃぃんときたので、頭を押さえている。
アーネストに至っては、女の子の声!?とキョロキョロしている。
「マーガリン師匠、あのソウルイーターが……」
「……本当に、規格外な子よねぇレンちゃんは。私もあんな態度のソウルイーターは、初めて見たよ」
そんな事を聞きながら。
「頭の中で怒鳴るんじゃなーい!!」
と叫んだ私だった。
「まぁこれは一応私が持っておく事にするけど、マーリン師匠、何か問題あるかな?」
「うーん、レンちゃんなら良いんじゃないかなぁ。むしろ、レンちゃん以外扱い熟せないと思うよー」
マーリン師匠からそう言われ、ソウルイーターを所持する事に決めた。
アーネストが、良いなぁ、しゃべる武器良いなぁとか言ってるが、知らんよ。
「さて、今日はこれくらいにして、夕飯にしようか。明日からまた修行だからね二人とも」
その言葉にがっくりと肩を落としながら。
「「はぁい……」」
と言う私達だった。