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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第三章 学園編

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88.ユグドラシルとイグドラシル

 時は世界樹が出来る前にまで遡る。

 "ラース"それがこの世界の総称。

 地上、その空に存在する天上界、地上の地下に存在する冥界。

 そして、天上界の更に上に存在する神々の住まう世界、神界。

 神界では、地上についての話が行われていた。


「このままでは、地上は滅亡に向かって秒読みといった所ですね」


 そう言うのは、神界で"ラース"創造に関わる一神、ロキである。


「そうですね……地上がまさか、ここまで生物の生きる環境に適していないとは予想外でした」


 応えるのは同じく、"ラース"創造に関わる一神、女神ユグドラシル。


「と言ってもねぇ。私が魔法使えたから、てっきり皆使える物だと思ってたのよー?」


「マーガリン基準で人を増やしたら、神々の世界浸食されちゃうでしょー!?」


 言い合うのは原初の人間、のちに仙人の最初の1人と呼ばれるマーガリンと、精霊王アリスティアである。


「姉さん、イザナギ様とイザナミ様はなんと仰られていたんです?」


 問いかけるは魔王イグドラシル。

 魔族の頂点に立つ存在だ。


「イグドラシル……。創造神様達は、見捨てても良いとされました。もう一度、創りなおせば良い、と……」


 悲しげに言うユグドラシルに、イグドラシルもまた、悲しそうに表情を歪める。

 ただ、この時の想いは異なる。

 ユグドラシルは世界に生まれた者達を慈しみ、悲しんだ。

 対してイグドラシルは、敬愛するユグドラシルが悲しんだから、悲しんだのだ。

 女神と魔王という種族の違いはあれど、この二人は姉妹として創造された。

 創造神イザナギが男性の神であり、創造神イザナミが女性の神。

 男女一対の神なのだ。

 ユグドラシルとイグドラシルは、創造神のプロトタイプとして創られた神であった。

 だが、何故か姉妹になってしまったのだ。

 創造神であるイザナギは悩んだが、仲の良い姉妹を見て創りなおすのをやめ、そのまま存在する事を許した。

 対して同じ創造神であるイザナミは、この二神の事を大層気に入り、ずっと自分の宮殿へ呼び続ける程だった。

 他の神々に示しがつかないからと、イザナギに何度も窘められている程だ。


「ですが、私はそれを良しとは思いません。確かに、地上を創ったのは私達です。生物を創ったのも然り。それを、もはや滅亡の道しかないからと、斬り捨てる事はできません」


 そう強い意志を込めた瞳で周りを見渡し、言うユグドラシル。


「でもユーちゃん……今地上は魔法の使える者と使えない者とで争っていて、使えない者はそのうち全滅しちゃうと思うよ?大地も死んでるし、水も汚染されてる。作物は育たないし、動物も増えない。正直詰んでると思うけどなぁ……」


「そうですね……このままでは、そうなるでしょう。でも、原因を一つ一つ考えれば、何かが有れば、救えると思いませんか?」


「「「何か?」」」


 この場に居る全員の視線を受けて、ユグドラシルが答える。


「この神々の世界に有って、その下にある世界にはない物。マナです」


「いやいや、それは無理だよユーちゃん!精霊王の私だって、地上じゃ存在できないよ?」


「ええ、分かっていますアリス。ならその地上で、絶えずマナを供給できる存在が居たら、どうですか?」


「それ、は……確かに、マナが有れば大地は甦るだろし、水も綺麗になる。生物が生きるのに適した世界になるけど……でも、そんな事できるの?」


「ええ。私という存在を、世界中へ届ける。地上を元に、全ての世界へ。そうですね……イメージとしては、木、でしょうか。世界に根を張る木……世界樹なんてどうでしょう?」


 と曇りない笑顔で言うユグドラシルに、反対の声が上がる。


「今まで黙って聞いておったが、妾は認めぬぞ。それはつまり、お主を生贄に救うという事であろうが!」


 そう大声で言うのは、ミレニア。

 吸血鬼の真祖である。


「違うよミレニア。私は死なない。皆と一緒に生きるよ?」


 その言葉に、反対の声が更に上がる。


「私もミレニアと同意見ですね。ユグドラシル、大切な親友である君を、有象無象の輩の命と同価値と見ろと?馬鹿馬鹿しいですね」


「ロキ……」


「先に言っておきますよユグドラシル。私は、君が世界を救ったのなら、その世界を壊す。君を取り戻す為にね。だが、君の守った世界を私自身が壊すのも心苦しい。だから、私も創造しましょう。"ソレ"が世界を喰らう。覚えておきなさい」


 もう話す事は無いと、ロキは去って行った。


「まったくロキは、言うだけ言って。ごめんねユグドラシル。後で私からも言っておくから」


「ありがとうマーリン」


 のちに、マーガリンとアリスティアは、ロキの放った厄災の獣"フェンリル"と戦う事になる。

 ユグドラシルの守った世界を守る為に。

 ユグドラシルの守った世界を壊し、ユグドラシルの魂を解放する為に。


「ユグドラシル姉さん、もしかして女神の力を全て、この世界に注ぎ続けるつもりなの……?」


「ええ、イグドラシル。私のマナの量なら、それができるから。私はね、この"ラース"が大好きなの。滅んでほしくない……だって、私達の大切な子供達でしょう?」


 そう笑顔で言うユグドラシル。


「なら、私も半分受け持つよ。女神としての力を全て使ってしまったら、ユグドラシル姉さん自体は、人間と変わらなくなっちゃう。だったら、それを守る存在だって必要でしょう?私は、姉さんを守りたいの」


 イグドラシルは、昔からユグドラシルの事に関してだけは、言っても聞かない子だった。

 だから、駄目と言っても、そうするだろうという事をユグドラシルは理解していた。

 なら、言っても聞かないのなら。

 せめて、受け止めてあげよう、お礼を言ってあげようと思った。


「……ありがとう、イグドラシル。私達は、二人で一人。ずっと、一緒だね」


 その言葉に、飛びきりの笑顔を向けて、イグドラシルは言う。


「うん!ユグドラシル姉さん、ずっとずっと、大好き!」


 抱きついてくるイグドラシルを、優しく抱きしめるユグドラシル。


「後は、任せるねリンスレット。私の座は、貴女に託すから」


「……分かったよイグドラシル。けど、私も辛いって事、忘れないでくれ」


「ごめんねリンスレット」


 その後、地上に大きな世界樹が誕生する。

 海の向こうにはもう一つの大陸が生まれ、その空にもまた、世界樹が誕生した。

 それから数千年、大地は恵みに溢れ、生物が生きやすい環境となった。

 マナが世界に溢れ、魔法が使えない者でも、魔術が使えるようになった。

 また、マナに触れる事によって魔法を使えるようになる者も増え、生活の基盤にマナを使う事も多くなり、マナは生きる上で無くてはならないものとなっていった。

 時が流れ、マーガリンがユグドラシルともう一度会えないか試行錯誤していた時。

 体だけは創れたのだが、魂がどうしても無理だった。

 だから、ユグドラシルの体に定着しそうな魂を呼ぶ事にした。

 そうして召喚されたのが蓮二。

 現代日本で生きていた、三十五歳のおっさんであった。

 ただ、そのままでは精神が定着しない。

 そこでマーガリンは、魂を二つに分けた。

 一つは、その体をそのままにこの世界で生きれるように。

 そしてもう一つの魂を、世界樹の体に入れたのだ。

 この世界に魂の半分が定着している事によって、もう半分も世界樹の体に定着するようにしたのだ。

 結果は上手くいった。

 その際に、色々と手を加えてはいるのだけれど。

 それから、この二人の物語が始まったのだ。




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