87.VSノルン=メグスラシル=ディーシル
ついに、この時が来た。
準決勝第一試合からは、地下からの転送ではなく、同じ地上に控え室が用意され、そこから闘技場へ向かう。
水で覆われていた場所は、今は柔らかそうな芝生になっている。
「蓮華、俺とアリスはここで見てる。負けるなよ」
「ああ、当然。アーネストかアリス姉さんか、どっちが上がってくるか分からないけど、迎え撃つのは私でありたいからね」
そう笑って言う。
アーネストとアリス姉さんも笑ってくれた。
さぁ、行こう。
ワァァァァァァッ!!
まだ戦いは始まってもいないのに、凄い歓声だ。
「「蓮華お姉様ー!ファイトですー!」」
「「蓮華様!頑張ってくださいねー!」」
なんて応援が聞こえる。
嬉しいね、見ず知らずの人もたくさん居るはずなのに、応援してくれる。
そして、闘技場中央に辿り着く。
「蓮華お姉様、ご武運を」
そう、小声で私に言ってくれるカレンに、笑みで応える。
そして、こちらへ来るノルンに視線を向ける。
「ふふ、ようやくね蓮華。ようやく貴女と一対一で、邪魔が入らずに戦える」
「うん、なんでノルンが私を狙うのか、今日こそ教えて貰うよ」
「クス、ええ。もちろん教えてあげる」
互いに睨みあう。
「会場の皆様、お待たせ致しました。これより、ヴィクトリアス学園主催、闘技大会準決勝、第一試合を始めさせて頂きますわ!」
ワァァァァァァッ!!
「蓮華様の相手も可哀相だよな。予選を見ると確かに強かったけど、あの蓮華様が相手じゃな……」
「ええ。あの子も蓮華お姉様が相手じゃなければ、良い線行ったかもしれないのにね」
等々聞こえてくるが、その予想は大きく外れるだろうね。
ノルンは強い。
私は本気でやっても、勝率は五分だと思っている。
「クス……」
ノルンが笑う。
まるで、この先の事が分かっているかのように。
「それでは、本選よりルールが一部変わりますので、ご説明致しますわ。まずは従来通り、武器の使用、道具の使用、魔法・魔術の使用、全てOKです。ただし、場外による負け、これが無くなりますわ。勝負は本人による敗北宣言、もしくは気を失った場合や、戦闘不能と審判である私が認めた場合、敗北となりますわ」
成程、なんでもありのガチンコバトルってわけか。
このルールなら、おもいっきりやれるし、話もできそうだ。
「両選手、準備は良いですか?」
その言葉に頷く。
「ええ」
ノルンも言う。
「それでは……ヴィクトリアス学園主催、闘技大会準決勝第一試合、開始ですわ!」
その言葉と同時に、お互いに魔法を飛ばす。
「「『フレイム・トルネード』」」
ゴオォォォォッ!!
炎の嵐が絡み合い、消える。
すぐに次の魔法を発動する。
「「『アイシクル・ランサー』」」
キュカカカカカッ!!
数多の氷の刃がぶつかり合い、全て消滅する。
「「『ライトニング・レーザー』」」
ドォッ!バシュゥン!!
光線が互いを貫こうとするが、ぶつかり合い、消滅する。
「やるね、ノルン」
「貴女もね、蓮華」
ワァァァァァァッ!!
「す、すっげぇ!なんだよアレ!?」
「あの蓮華様の魔法と、互角なの!?」
「あんな凄い子、なんで今まで分からなかったんだ!?」
違う。
ノルンはまだ『メタモル』を解いていない。
『メタモル』は本来の力をかなり落として、変化する魔法だ。
つまり、今の状態で互角という事は、私が仮に全力でそうなら、私は負けている事に他ならない。
もちろん、全力なんて出してないけどね。
「ノルン、手加減は要らないよ?」
「クス、そうね。ごめんなさい、前の腑抜けた貴女なら、このままでも行けるかなって思ったの。でも、一皮むけたみたいね」
そう言うと同時に、姿が変わる。
ざわざわと色んな声が聞こえるけど、驚いてるのは分かる。
腰まで届く緑色の長髪に、ブラックダイヤモンドの瞳。
私そっくりなその姿に、皆驚いているのだろう。
「あぁ、ユグドラシル姉さん。ようやく、ようやく今世でも会えた。もう、離さないから」
「ノルン……?」
「ふふ、でも少し遊ぶくらい良いよね?その後は、ずっと一緒だからね姉さん」
どうしたんだろうか。
何か、ノルンがノルンでないような錯覚を受ける。
最初に、この体はノルンに対して、どうしようもない拒絶感を覚えた。
体に悪寒が走ったのを覚えている。
でも、何故だろう……今はそれが、悪寒ではなく、悲しさ?よく分からないけれど、どうしようもなく不安を感じる。
ヴゥン!
ノルンの姿が消える。
瞬間、私は地面に押さえつけられた。
「ぐっ!?」
「ふふ、どうしたの姉さん。この程度で追えないの?」
「こ、のぉ!!」
ソウルで払うと、後ろへ飛び避けられる。
その隙に立ち上がり、ノルンを見る。
「あは。そうこないとね」
不敵に笑うノルン。
何故か、その雰囲気が不気味に感じる。
ノルンであって、ノルンでないような……ちぐはぐさを感じる。
でも、私はノルンの事を知っているわけではないし、これがノルンだと言われれば否定もできない。
だけど、あの時会ったノルンと、どこか違うように感じる。
「ノルン、君はどうして私を狙うんだ?」
その言葉に、きょとんとした顔をするノルン。
え?どういう事?
そう思っていたら、急に笑い出した。
「あは!あはははは!……ふふ、流石姉さん、そういう愚鈍な所も変わらないね」
っていうか、さっきからなんで私を姉さんと呼ぶのか。
「質問に答えてほしいな。後、私は君の姉さんじゃない」
その言葉を聞いたノルンが、豹変する。
「違う、違うよ姉さん。貴女は私の姉さんなの。どうしてそんな事を言うの?姉さんだって、私の事好きでしょう?私は姉さんの事が大好きだもの、姉さんもそうだよね?」
「いや、私は君の姉さんじゃないよ。私は君の事なんて知らないし」
その言葉を発した後、物凄い悪寒がした。
会場の温度が、マイナスになったのではないかというくらい、寒くなった気がする。
「姉さん、いくら姉さんでも、そんな冗談は許せない、よ?ユグドラシル姉さん、どうしてそんな事言うの?イグドラシルの事、嫌いになっちゃったの……?」
「イグドラシル?君は、ノルンでしょ……?」
「!!……そういう事。そっか、そういう事か。ふふ、分かったよユグドラシル姉さん。うん、早くその器、壊してあげるね」
瞬間、凄まじい魔力がノルンを包む。
とてつもない魔力の渦に、体が後ろに飛ばされそうになるのを耐える。
これが、ノルンの力……!
「はぁぁぁぁっ!!」
私も魔力を解放する。
ノルンの魔力と混じり合い、後方に飛ばされる圧は無くなった。
「抵抗するんだ。うん、良いよユグドラシル姉さん。まずはその力、私が奪い尽くしてあげるから!!」
ノルンの姿が消える。
でも、今度は視えている。
「はぁぁぁっ!!」
「おぉぉぉっ!!」
ガギン!ガギン!ガギギギン!!
ソウルとノルンの剣が弾き合う。
何度も何度もソウルを繰り出す。
私が繰り出す剣筋をノルンが合わせ防ぐ。
ノルンが繰り出す剣筋を私が合わせ防ぐ。
時折左右に飛んで距離を取り魔法を放つが、ノルンは剣を振って掻き消す。
「しゃらくさいっ!お返しよ!『ダークボール・ショットガン』!!」
キュドドドドドッ!!
凄まじい数の闇の弾が降り注ぐ。
闇なら光で防いでやる!
「『ライトウォール』!!」
カカカカカン!!
光の障壁で全て防ぐ。
障壁に当たった闇の弾は、全て消えた。
「チッ……流石、やるわねユグドラシル姉さん」
また、中央で睨みあう私達。
観客達は、いつしか静まり返っていた。




