84.闘技大会予選Cブロック
-アーネスト視点-
口を開き、声こそ発しなかったが、蓮華の顔を見るに伝わったのだろう。
しっかりとした足取りで去っていくノルンの後ろ姿を見る。
あいつが何を考えているかは分からない。
だけど、蓮華に何かするつもりなら、誰が許そうとも、俺は許さねぇ。
蓮華は俺の一番の親友だ。
この世界を共に生きると誓った。
俺がこの世界に召喚されて、戸惑っている時に出会えたもう一人の俺。
あいつは、俺が俺である事を認めてくれた。
きっと、あいつだって不安だったはずだ。
なんせ、女の子になってるんだ。
なのに、不安を感じさせないように気遣ってくれた。
こんな俺でも、守ろうとしてくれたんだ。
だから、その気持ちに応えたい。
蓮華は俺を守ろうとするだろう。
だから、俺は蓮華を守る。
共に、生きていく為に。
「それではCブロック参加の方々、中央へお寄りください!」
声が聞こえる。
そうか、次は俺だな。
「アーネスト、てきとーに頑張れよ」
「アーくん、おもいっきりやっちゃえ!」
二人のセリフに笑ってしまう。
蓮華、俺のセリフの逆を言いやがって。
アリスまで便乗してやがる。
全く、息ぴったりだな、この美少女共め。
「ああ、見せてやれないのが残念だけど、行ってくるぜ!」
俺の言葉に、二人は笑顔で応えてくれる。
ったく、果報者だな俺は。
中央へ歩き始めると、視線が集まるのを感じる。
「アーネスト生徒会長……!」
「今回こそ、一太刀いれてみせますよ!」
ああ、前回も見た奴らが居るな。
そいつらを見据えて、一言。
「おう、思いっきりきな!全員叩き潰してやるからよ!」
そう笑って言ってやると、皆良い顔をする。
良いね、俺はこういうやる気に満ちた奴らは大好きだ。
どうせ俺は狙われる。
なら、前回と違って、中央に立っててやるか。
そう考えていたら、体が光に包まれ、闘技場に転送される。
ワァァァァァァッ!!
この空気、良いよな。
前の世界では、味わえなかった。
きっと、オリンピックや何かの大会に出てる人達は、この空気を味わいたくて努力してたんだろうな。
そして、勝つ為に。
自分こそが最強だと、皆に知らしめる為に。
俺は自分が最強だなんて思っちゃいない。
上には上がいる、兄貴の存在が、俺を戒めてくれた。
兄貴は強い。
母さんも強いが、多分……兄貴はもっと。
母さんの弟子だと聞いていたが、きっとあれは嘘だろう。
だけど、兄貴は俺や蓮華にとても優しい。
俺は兄貴の事が大好きだ。
いつか、兄貴のようになりたい、そう思って修練してきた。
俺は、もっと強くなりたい。
どんな存在からも、蓮華を……大切な仲間を守れるくらいに強く!
「アーネスト様、御機嫌よう。クス、蓮華お姉様と同じく、アーネスト様も”ソコ”なのですね」
「ああ、カレンか。って、蓮華と同じ?」
首を傾げる。
そういえば、蓮華は竜巻の魔法を使ったんだっけか?
成程、そういう事か。
あの魔法を例えば端で使ったなら、反対側は届かないかもしれない。
けど、中心地なら。
全体に届くだろうな。
「ええ、本当にご兄妹揃って、考える事は同じなのですね」
そう言って微笑むカレンに一瞬見惚れてしまう。
結構美人には見慣れたのに、このカレンという少女の微笑みは綺麗だと感じた。
作られた綺麗さではなく、蓮華のような自然な美とでも言うのだろうか。
「ま、でもここからは俺は違うぜ?蓮華のように楽な勝ち方は趣味じゃねぇ。俺は一対一を繰り返すからな、良く見ときな!」
そう笑って言ったら、驚いた顔を見せてくれた。
「まぁ……。流石は蓮華お姉様のお兄様ですわ。楽しみに、させて頂きますわ」
そう声を掛けてから、俺から離れる。
「さて、会場の皆様には3度目となる説明ですが、選手達の為にご説明致しますわね。会場の皆様方は、もう聞き流していただいて構いませんので、あしからずですわ」
その言葉に笑いが巻き起こる。
上手いな、と思った。
彼女は人の心理を掴む事ができるのだろう。
まったく、蓮華の知り合う奴らは皆何か特殊だ。
俺が言うなって蓮華に言われそうな気もするけどさ。
周りを見渡すと、初参加の新入生や、俺と同期の奴らがちらほらと居る。
全員、説明を聞きながらも俺を見据えている。
こりゃ、去年と違って一斉に俺に来るな。
良いぜ、相手をしてやる。
一体誰を敵に回したのか、教えてやろうじゃないか。
皆が思い思いの場所へ移動を始めた。
俺はここで良い。
この闘技場の中心で。
「それでは、試合開始!」
俺には魔力が無い。
だけど、それイコール、魔法が使えないわけじゃない。
いや、魔法は使えないんだけど。
でも、魔術が使える。
そして俺も、蓮華と同じように、全属性の魔術が使える。
だけど、俺はその中で、特に無属性の魔術を磨き続けた。
蓮華は大精霊の力を借りられる。
だから、俺は属性魔法にあまり興味を惹かれなかった。
だって、そんなものは蓮華に任せれば良い。
蓮華なら、きっと世界一の全属性の魔法を使えるようになる。
なら俺は、蓮華が使わない、無属性を極めようと思ったのだ。
無属性には、様々な効果を持つ魔術がたくさんある。
そして魔法の無属性と、魔術の無属性では、決定的な違いがある。
魔法の無属性には、限界がある。
いわゆる重ね掛けができない。
だけど、魔術は違う。
使用回数という使い方、それが魔術だ。
その仕様故に、効果を倍加させる事ができるのだ。
ただ、世界のマナを通す管に、連続ではなく、同時に負荷を掛ける事になる為、使い手は居ないと母さん、兄貴から聞いた。
そんな事をすれば、管が使い物にならなくなり、魔術が使えなくなるからだそうだ。
だけど、俺はその管が尋常じゃなく強いらしい。
というか、母さんがそうしてくれたんだそうな。
俺の魔術回路は、母さんと同じ。
なのに、魔法が使えない。
魔法の回路を、魔術回路に合成したから。
だから、俺の管は、魔法回路と魔術回路の二重回路。
その全ての管を、魔術特化にしてくれたんだ。
蓮華は世界樹のマナそのものが魔力へと変換される、存在自体が化け物の魔力回路。
ただ、魔術回路は魔法回路に統合されている。
俺とは逆だ。
でも、俺はそれが嬉しかった。
蓮華とは違う道で、共に強さの上を目指せるんだ。
「ぐはぁっ!!」
右手の剣で右薙ぎし、一人を場外へ飛ばす。
「どうした!俺は一歩も動いてねぇぞ!掛かってきな!」
挑発したら、囲うように6人程突撃してきた。
だけど、場所にバラつきがある。
俺に到達する速度が違うから、近くに来た順番に薙ぎ払う。
「ぐはぁっ!」
「そん、なっ!?」
「剣筋が、視えない、なんて……」
地面に転がる奴らを無視して、俺に更に突撃してきた奴らも斬り払う。
「「うあぁぁっ!!」」
空へ弾き飛ばされ、場外ギリギリに落ちる。
ドサッ!ドサッ!
審判であるカレンが近づき、意識を確認する。
「彼らは戦闘不能ですわね。場外へ」
係員が運んでいく。
俺はそれを一瞥してから、周りを見渡す。
全員、俺に攻められずに居る。
ったく……。
「どうした?俺に勝てねぇなんて分かってたろ?相手してやる、掛かってきな!」
そう悪役顔をイメージして笑ってやった。
「アーネスト先輩……よぉし!そうだ、俺も勝てない事なんてわかってた!行きます!!」
「俺もだ、そんな事誰よりも分かってた……!行くぜぇぇ!!」
「アーネスト先輩は魔法を使えない、なら、援護するわ皆!」
おお、手を組みやがった。
良いねぇ、そう来なくっちゃな!
「そこで笑うあたり、蓮華お姉様とそっくりですわ」
カレンがそう言うのが聞こえる。
はは、否定できねぇ。
そうだよな、蓮華だってきっと、この状況なら楽しくて笑うだろう。
「こいやぁ!!全員ぶっ飛ばしてやるぜっ!!」
ガン!ゴン!ゴゴン!ガガン!!
二刀で斬り続ける。
音はもはや叩き付けてる音だけどな!
「ぐはぁ!!」
「がぁっ!?」
「『ファイアーボルト』!!」
吹き飛ばした二人の後ろから、魔法が飛んでくる。
けど、避けるまでもねぇな!
「おらぁっ!!」
右手の剣から衝撃波を飛ばし、『ファイアーボルト』を掻き消す。
「う、うそっ!?」
と驚いている彼女に、左手の剣を振り衝撃波を飛ばす。
「きゃぁっ!!」
直撃した彼女は場外へ吹き飛んでいった。
次々と来る奴らを双剣で薙ぎ払っていく。
「それまで!!」
審判の声が聞こえる。
闘技場の上には、もう俺しか居なかった。
「予選Cブロック通過者、アーネスト=フォン=ユグドラシル!」
ワァァァァァァッ!!
「「会長ー!!素敵ー!!」」
「「流石です会長ー!!」」
声を掛けてくれている奴らに、手を振って応える。
「流石ですわね、アーネスト様。あれほどの戦いをされておきながら、息一つ乱しておられないなんて」
「はは、力をほとんど入れてねぇからな。ま、ウォーミングアップ程度にはなったさ」
「まったく、蓮華お姉様もそうですが、アーネスト様も規格外なお方ですわ。追いつくのが大変ですわね」
「おう、追いかけてこいよ」
そう言う俺に、はいと笑顔で応える彼女は、大物だと思った。
そして、光が包み、地下に戻る。
「おかえりアーネスト。遅かったじゃないか」
「お疲れ様アーくん!」
そう言ってくる蓮華とアリスに、笑って返す。
「蓮華と違って、一人一人倒してたんだよ」
「うへぇ、めんどくさそう……」
その言葉に笑ってしまう俺とアリスだった。
-アーネスト視点・了-




