83.闘技大会予選Bブロック
-ノルン視点-
闘技場に着く。
へぇ、結構広いんだ。
見渡せば、リンスレットにタカヒロを見つけた。
タカヒロはこっちに軽く手を振っていた。
そちらを一瞥してから、周りを見る。
雑魚ばかりしか居ない事に落胆するけど、これが終わればユグドラシル姉さんに……蓮華と一対一で戦える。
くっ……頭痛がいつもより酷い。
何故私は、家名で蓮華を呼ぶのだろう。
いえ、私は知っている。
姉さんだから。
私は知らない、会ったばかりだから。
私の意思が、混ざり合う感じがして、頭を振る。
これも、蓮華の魂を取り込めば、きっと治る。
まぁ、ついでに地上は魔界に浸食されてしまうけど、私の知った事じゃない。
地上に知り合いなんて居ないから。
「会場の皆様、お待たせ致しました。これより、闘技大会予選Bブロックを開始させて頂きますわ」
ワァァァァァァッ!!
いよいよか。
私は『メタモル』をまだ解く気は無い。
蓮華と会った時に、解くつもりだ。
ま、それでも余裕だろうけどね。
「会場の皆様には先程説明致しましたが、再度ご説明致しますわ。予選では、この闘技場に最後まで立っていた一名のみ、本選へ進む事ができますわ。武器の使用、道具の使用、魔法・魔術の使用、全てOKです。持てる全ての力を駆使し、勝利してください。それでは、選手の皆さんは、自分の好きな場所へ移動してください。私の合図で、試合開始となりますわ」
私の位置は闘技場の右端。
後ろには誰も居ないから、3方向を気にすればいい。
とりあえず、適当に様子を見るつもりだ。
実力を隠しながら、運よく勝ち残った体をとるつもりだけれど、まぁ無理かもね。
弱すぎる相手には、少し力を出すだけでも目立ってしまうのだから。
「それでは、試合開始!」
その声と同時に、乱戦となるのが見えた。
一対一をしている者に、横から突っ込んでいく者や、魔法を広範囲に放つ者。
魔道具を使用している者等、様々だ。
ただ、どれも私の相手になりそうな奴は居ない。
場外に落ちそうな奴を見つけては、誰にも見えない速度で鞘のままの剣を振り、落とす。
それを繰り返していた。
余裕過ぎて欠伸が出そう。
たまに私に攻撃を仕掛けてくる奴が居るけど、軽くいなしてやる。
「くそっ……!なら、これならどうだっ!」
そう言って魔法を唱えてくるけど、遅い。
詠唱から魔力放出までの時間が長すぎる。
近づいて足払いを掛ける。
「なっ!?」
魔法の詠唱を中断されて、転がる男に蹴りを入れて、場外へ落とした。
そんな事をしていたら、いつのまにか囲まれていた。
「アンタ、凄いな。見させてもらってたけど、ただもんじゃない」
「ええ、目立たないようにいてしても、気付く人は気付くわよ」
はぁ、ちょっと腕が立つ程度だと、そこまでしか気付けないのが面倒。
もっと注意深く見れる奴なら、力の差を知れるのにね。
コッコッ
無言で私を囲っているつもりの奴に近づく。
「!!」
咄嗟に武器を構えたけど、遅い。
鞘のまま、剣で薙ぎ払う。
「ぐぅぁっ!?」
吹き飛ばされて、場外に落ちていった。
「「「なっ!?」」」
「ふぅ、気付く人は気付くんでしょう。なら、勝てない事まで気付いてほしいわね」
そう言ったら、顔を赤くする。
あら、意外と可愛いじゃない。
思わず遊んであげたくなったけど、やっぱり面倒ね。
「『チェイン・バインド』」
手と足を拘束する。
「嘘っ……こんな強力な拘束魔法だなんて!!」
手と足を動かそうともがいているけど、無駄無駄。
私の魔力にある程度近ければともかく、天と地ほどの差があるのに、解けるわけないわ。
女の元へ近づく。
「ど、どうするつもり!?」
どうして欲しいのかしら?と思わず聞き返そうと思ったけれど、やめた。
脇腹を掴み、場外へ放り投げた。
「ちょ、なにすっ!きゃぁぁ!?」
転送されていった。
周りの奴らは呆気にとられて見ている。
なにしてるのこいつら。
見てる暇があるなら、攻撃仕掛けて来れば良いのに。
本当に雑魚しかいなくて嫌になる。
蓮華、早く貴女と戦いたい。
そうね、さっさと終わらせてしまおうかな。
剣を鞘から抜く。
私の気配が変わった事に気付いたのか、全員一歩後ずさる。
「審判、殺してしまったらごめんなさい」
一応伝えておく事にした。
すると、小声で教えてくれた。
「心配には及びませんわ。これは秘密なのですけれど、制服に防護魔法が掛かっておりますの。だから、死ぬ事はないですわ」
成程、道理で他の奴が武器で斬ってても、後ろに飛ばされてるだけなわけだ。
私が魔力を多く込めたら分からないけれど、ここでそんな事をするつもりはない。
さて……残りは早々に片づけるとしますか。
「なっ!?消え」
「後ろよ」
ガッ!!
「うぁぁっ!!」
ゴス!!
「きゃぁっ!!」
近くの奴の死角に入り込み、次々と場外へ落としていく。
誰も私の姿を追えていない。
にしても、剣で斬っているのに、叩き付けた感触になる。
これが防護魔法の効果か。
一応破れるかどうか試しておこうかしら?
ゴゴゴゴゴッ!!
「「「!?」」」
少し結界が揺らいだ気がする。
これ以上魔力を込めたら壊れそうね。
良いわ、周りも異常な魔力に気付いたみたいだし、抑えましょうか。
「い、今の感じは……」
「凄い魔力を、彼女から感じたけど……嘘でしょう、あんなの勝てるわけ……」
良い感じに怯えてくれたわね。
仕上げよ。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
魔力を放出する。
別に魔法を使ったわけじゃなく、体内の魔力を放出しただけ。
だというのに、残っている選手達が耐えきれずに場外へ吹き飛ばされていくのが見える。
なんて弱いの……。
こんなの、私が手を下すまでもないけれど……ルールだから仕方ないわね。
「『ファイアーストーム』」
瞬間、炎の嵐が闘技場を包み込む。
魔力を鎮静化させると、闘技場の上には私以外残っていなかった。
いや、避けたのか防いだのか、審判が居た。
彼女、できるわね。
気のせいじゃなければ、大精霊の加護を感じる。
「お見事ですわね。貴女の名前は?」
「……ノルン。ノルン=メグスラシル=ディーシルよ」
もう偽名は使わなくて良い。
姿は、蓮華と戦う時に、ね。
「予選Bブロック通過者、ノルン=メグスラシル=ディーシル!」
会場がざわめきだす。
五月蠅い……早く転送されないかしら。
そう思っていたら、光が包み込み、転送が始まる。
光が収まると、地下に戻ってきた。
そこには、私をじっと見つめている蓮華と生徒会長、それにアリスティアが居た。
ふふ、そんな目で見つめなくても、私は逃げないわ。
声には出さず、口だけ動かす。
「楽しみね」
と。
それから、私はこの場所を離れる事にする。
どうせ、私の試合は午後からだ。
蓮華以外の戦いに興味はない。
-ノルン視点・了-




