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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第三章 学園編

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79.魔界の世界樹



-ノルン視点-



 特訓、か。

 無意味な事をするね。

 レンゲ=フォン=ユグドラシル、もう一人の世界樹の器。

 地上のユグドラシル、魔界のイグドラシル、それの元は人間と魔族の姉妹。

 地上の世界樹にはユグドラシルが。

 魔界の世界樹にはイグドラシルが。

 二人の命が世界樹に成った。

 私はイグドラシルの生まれ変わり。

 けれど、ユグドラシルは元が人間だった。

 だから、魂を継ぐ事が叶わなかった。

 そうこの体が教えてくれる。

 なら、今のレンゲ=フォン=ユグドラシルはどういった存在なのか。

 器は確かにユグドラシルと同じ。

 けれど、魂は違う。

 なのに……彼女からはユグドラシルと同じ波長を感じる。

 だから、奪うと決めた。

 今度こそ、彼女を離さない。

 もう記憶を取り戻さない大事な姉さん。

 なら、私と一つになれば、ずっと一緒。



 地上は12の国が、世界樹を囲い存在している。

 魔界は、リンスレットの治める魔王城を中心に、六芒星となる地にそれぞれ国がある。

 大罪の悪魔達が治める国だ。

 世界樹は、それら全ての国の空にある。

 だから、魔界は常に暗い。

 唯一、リンスレットが治める魔王城とその周辺のみ、明るい。

 何故かは知らない。

 リンスレットが何かしているのだろうけど、興味もないので聞かなかった。

 ただ、世界樹が関係している事は分かる。

 私は世界樹の化身である事を魔界の住人から秘匿されてきた。

 魔界の世界樹は神聖視されている。

 ある意味、王よりも信仰の対象だ。

 だから、その化身であると公表できず、私は捨て子として魔王城で生活する事になった。

 自我が芽生えたのは5歳くらいの時だろうか。

 あの頃は感情に乏しく、城に仕える侍女達に嫌がらせを受けていた事すら、気付いていなかった。

 でも、そんな時だったな……タカヒロが城に来たんだ。


「はっ!?俺にこの子の面倒を見ろって言うのか!?」


「そうだ。私に負けた上に、アスモデウスにも負けたんだ。それで許してやるのだから、破格の条件だろう?」


「そうそう、戦う前にちゃんとなんでもいう事聞くって言ったよねー?」


「くっそう!分かったよ!でも俺は子育てとかした事ないからな!」


 そう言って、私の方に来た。

 私の目線に合わせるように、屈んでくれる。


「あー……俺はタカヒロだ。なんの因果か分からんけど、お前の世話をする事になった、よろしくな」


 そう微笑んでくれたけど、私は無表情に見ていただけだったな。


「おい、この子表情が変わらんのだけど、俺もしかして嫌われてるのか?」


「いや、この子はずっとこうだ」


「マジかよ、普通もっとこう、これくらいの子ならやんちゃなはずだろ」


「知らん」


「リンスレット……はぁ、分かった。えぇと……君はなんて名前なんだ?」


「……ノルン」


「ノルンか、可愛い名前だな。今日から俺はお前の世話っていうか、まぁ一緒に居る事が多くなるから、まずはお互いの事を知ろうか!」


「……お互いの、事?」


「ああ」


「このロリコン」


「断じて違うからなアスモデウス!!」


「ククッ!!」


「笑うなリンスレット!!あぁもう、ノルン!普段居る場所に案内してくれないか?そこでゆっくり話そうな!」


「……分かった。こっち……」


 そう言って、タカヒロの手を握った。

 私が初めて、握った手は……温かかったな。

 それから、ずっとタカヒロから勉強を教わった。

 でも、時々居ない時があって、いつものように侍女が私に食事を持ってこなかったり、服をボロボロにされたりしていたら、急にタカヒロが来たんだよね。

 その顔は、私と今まで居た時の顔とは、全然違って……でも私は怖くなかった。

 その顔は、私の為に怒ってくれている顔だと、分かったから。


「お前ら、俺が居ない間にそういう事をしていたんだな。ノルンが何も言わないのを良い事に……覚悟は出来てるんだろうな?」


 タカヒロから黒い魔力があふれ出るのが見えた。


「ヒッ!?た、タカヒロ様!この子は異常なんです!こんな子をリンスレット様の御傍に置いておくなんて、いつか」


「黙れ」


「「「!?」」」


 侍女達が本気で震えているのが分かる。

 でも、どうしてタカヒロは怒ってくれるのだろう、私には分からなかった。

 私は別室に案内されて、それからしばらく経ってから、タカヒロが来た。


「すまなかったノルン。でも、辛かったなら、我慢しなくて良いんだぞ?何かあったなら、俺に言ってくれ」


 そう言って抱きしめられた。

 でも、私には分からなかった。

 侍女達に何をされても、何も感じなかった。

 笑う事も、怒る事も、悲しむ事もなかった。

 なのに、今のこの感情は、なんなんだろう。


「お前は感情がないわけじゃない。感情を殺してしまっているんだ。まだ5歳なんだぞ、もっとわがままを言って良いし、感情のままに行動したって良い」


 頭を撫でてくれるのが気持ち良かった。

 だから、初めて願望を口にした。


「なら……もう少し、撫でてくれてても良い……?」


「ああ、それくらいお安い御用だ」


 私はこの手がいつの間にか大好きになった。

 それから、ずっと一緒に生活していくうちに、私は感情を表に出せるようになった。

 過去の自分を振り返り、自分が他と異質である事、孤独である事を知って、何も望まなくなっていたと分かった。

 私は一人、泣いていたんだ。

 決して面には出さず、心の中で、ずっと。

 それに気付いていたリンスレットが、タカヒロを招き入れてくれた。

 私は、それに救われたんだと思う。

 それからあの侍女達とは一度も会う事は無かった。

 悔しいな、今の私なら一瞬で消してやるのに。

 とか言ったら、タカヒロに怒られるから言わないけど。

 13歳になった時に、そろそろ良いだろうと、リンスレットから私の生い立ちを聞いた。

 私が秘匿されてきた理由、それは魔界が地上を侵略する鍵となるからだった。

 魔界には現状維持の派閥と、光の当たる地上も魔界の物とするべきだという派閥があるのだと聞いた。

 魔界の世界樹が地上に浸食しないのは、地上に世界樹があるからだという。

 なら世界樹がなくなればどうなるか……魔界の世界樹の根が地上を侵食して大地が反転する。

 魔界の空は晴れ、地上の世界樹と魔界の世界樹は一つになると言われている。

 つまり、地上と魔界は一つになり、全てが魔界となる。

 その儀式が、『サリギアの儀』だ。

 地上全てを魔界にすべきと言う派閥が、これを望んでいる。

 ただ、その儀式を完全に行うには、世界樹の化身である私が、もう一人の世界樹の化身を取り込む必要がある。

 地上の世界樹の化身を消すだけでも、未完全ではあるが発動できる為、その命を狙う者が出ないとも限らない状況らしい。

 ただ、リンスレットはそれを望んでいないから、抑えられている。

 私も、別にそんな事はどうでも良かった。

 なのに、ある時を境に声がずっと聞こえるようになった。

 一つに、なりたいと。

 この声は、恐らく魔界の世界樹の声。

 頭に鳴り響くこの声を、耐え切れなくなり話した。

 リンスレットもタカヒロも、そしてアスモデウスも言葉を失っていた。

 

「お前は、どうしたい?」


 リンスレットに聞かれたから、この声を消したいと言った。

 だって、ずっと頭に聞こえて、頭痛がする。

 そんな事望んでないのに、一つになりたいと思えてくる。


「そうか……恐らく、お前がその声が聞こえるようになったのは、地上の世界樹の化身が動き出したからだろう」


 その言葉を聞いた瞬間、まるで私の意思じゃない、凄い感情が溢れた。

 喜び?不安?悲しみ?分からない。

 色んな感情が溢れてきて、私は座り込んだ。


「大丈夫かノルン!?」


 タカヒロが慌てて私に寄り添ってくれた。

 私の頭に感じる温かい手だけが、私の意思を繋いでくれた。


「アスモ、お前に頼みがある」


「ん、リンの頼みならなんでも聞くよ」


 その声を聴きながら、私は意識を失った。

 それから、ずっと頭痛に耐えながら、タカヒロから戦い方を教わった。

 いつしか、私の頭の中は、地上の世界樹と一つになりたいとしか考えられなくなっていった。

 それから学園に渡り、蓮華と……ううん、ユグドラシル姉さんと会った。

 私とそっくりでいて、太陽のような温かさを感じた。

 素敵だった。

 一目惚れのようで、酷く懐かしい想い。

 だから、奪うと決めた。

 今度こそ、彼女を離さない。

 もう記憶を取り戻さない大事な姉さん。

 なら、私と一つになれば、ずっと一緒。

 待っていて、ユグドラシル姉さん。

 イグドラシルが、貴女を取り戻しに行きますから。

 闘技大会まで、後1日……。


-ノルン視点・了-



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