77.魔王・リンスレットとの会遇
カレンとアニスは、理事長と話があるとかで、校舎へ向かって行った。
アーネストも生徒会の仕事があるという事で、明先輩と共に戻って行った。
明先輩はセルシウスと別れるのを名残惜しそうにしていたけど、アーネストにドナド……引っ張られていった。
私とアリス姉さん、セルシウスの3人になったので、部屋に帰る事にしたのだが……。
「蓮華さん、小規模だけど結界が張られてる。これ、別空間になるタイプの奴だよ」
アリス姉さんの言葉に、警戒を強める。
セルシウスは臨戦態勢を整えているのが見えた。
コッコッコッ
足音が響く。
その姿は、同期の学生のようだが……違う。
明らかに、違う。
その風貌、仕草、どれを取っても、只者ではないのが分かる。
アリス姉さんが、驚きながら言う。
「貴女、まさか……魔王・リンスレット!?」
「フ……流石アリスティア、『メタモル』を使っているのだが、ここまで近づけば分かるか」
そう言って、姿が変わる。
長い銀髪の整ったプロポーションに、キリッとした表情。
美人すぎて一瞬言葉を失ってしまった。
この人が、魔王。
魔界を総べる、王様か……。
凄い、圧倒的な魔力を抑え込んでいるのが分かる。
もしここで戦えば、私達に勝ち目はない。
体が震える、だけど……アリス姉さんとセルシウスは、守って見せる……!
「そう睨まないでくれ、蓮華。私は殺り合う為に会いにきたわけじゃない。この結界は、私が他の者に見られない為に張った物だ」
そう、敵意がないように両手をひらひらさせる彼女に、ソウルに掛けていた手を離す。
「ありがとう、蓮華。私はさ、お前を観察しにこの学園へ来た」
「「「!?」」」
「お前が世界樹の器として、相応しい人格なのかどうか……自分の目で見定める為にな」
その言葉に、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。
「合格だ。お前なら……世界樹が歪む事もあるまい。だから、私はお前達を見守る事に決めた。何があろうと、手は出さない」
それは、どういう意味なのだろう。
「蓮華、お前はノルンとすでに会っただろう。ノルンは、お前の器、いや……正確には、その器に入ったお前を狙っている」
衝撃だった。
ノルンに狙われているのは知っていた。
この器は邪魔だと、言っていた。
でも、正確には器ではなく、私自身を狙っていたのか。
そういえば、魂を貰い受けるって言っていた。
あれは、そういう意味なのだろうか。
「……世界樹は、地上にだけあるのではないのだ」
「え?」
「世界樹は、魔界の空にもある。そしてその世界樹は、地上の世界樹と表裏一体なのだ」
「魔界にも、世界樹が!?」
「魔界の空は常に闇で包まれている。星が見えず、正体不明の竜巻のような霧と煙でできている逆さまの大樹が、空から地面にある首都に突き刺すような形をして存在している。その正体こそ、世界樹の影、分身そのものであり、いずれは『サリギアの儀』により、地上の世界への侵略を果たす事になる」
「「「なっ!?」」」
「蓮華、お前がノルンに取り込まれた場合、儀式は完成し、地上は魔界に侵略される事になるだろう」
「どう、して……そんな事を!」
「……。だが、最初に戻るが、私はそんな事を進めるつもりはないのだ」
「え?」
「だから、手は出さない、私はな。だが、ノルンは別だ。あいつは世界樹の化身、私の配下というわけではない。あいつの行動の責任は、あいつが取る事になる。恐らく、闘技大会にはノルンも出るだろう。お前を仕留める為にな」
「どうして、それを私に?」
私の質問に、背中を向けた彼女は答えてくれた。
「ノルンを、救えるのはきっと、お前だけだから……」
そう言った彼女の表情は見えなかったが、声はとても悲しそうに聞こえた。
そして、結界が解けたかと思うと、彼女の姿は消えていた。
「……蓮華さん、この事、アーくんと明くんに話そう。それに、マーガリンやロキ、ミレニアにも協力を仰いだ方が良いよ」
その言葉に、彼女の最後の声を思い出す。
きっと、母さんや兄さん、ミレニアに助けて貰ったら、ノルンを本当の意味で救えない、そんな気がする。
だから……。
「ごめんアリス姉さん。ノルンとは、一対一で決着をつけたい。母さんや兄さん、ミレニアに心配かけたくないんだ。大丈夫、私は絶対負けないから」
私の本気を信じてくれたのか、アリス姉さんはため息をついてから、言ってくれた。
「はぁ、ホントにもう……分かったよ、蓮華さんを信じる。だけど絶対、負けちゃ駄目だよ?闘技大会まであと三日だし、それまで特訓だからね蓮華さん!」
「しょうがないわね、私も付き合ってあげるから、やれるだけの事をやりましょレンゲ」
二人の言葉に笑顔で返す。
ありがとう、私の我儘に付き合ってくれて。
-魔王・リンスレット視点-
少し、話しすぎたかもしれない。
もう一人の世界樹の器、レンゲ=フォン=ユグドラシル。
ノルンとは違い、黒い長髪にエメラルドグリーンの澄んだ瞳。
腰に下げていたのは魔剣・ソウルイーターだろう。
彼女の纏う雰囲気は、ノルンとは大きく違った。
ノルンが闇で人を安らかに包む存在だとすれば、蓮華は太陽の温かさで包む存在と思えた。
地上の世界樹に魔界の世界樹、その関係性がそのまま器にも現れているように感じる。
「リンスレット、良いのか『サリギアの儀』の事まで伝えて。極秘事項だろ?」
「タカヒロ、お前はノルンに協力をするつもりか?」
「こっちの質問はスルーかよ。ああ、そのつもりだ。その結果が、地上を侵略する事になろうと、俺はノルンの味方でありたい」
そう言うだろうと思っていた。
こいつはノルンの事を妹のように思っている。
あのアーネストとやらが、蓮華の事を想うように、こいつもまた、ずっと一緒に育ってきたノルンの事を想っているのだろう。
「軍の全権はルシファーに委ねている。私の立場は、国家についての方針を決める事、政治的な事や国民達の生活等、全体を見なければならない。分かっているだろう?」
私の言葉に、口を紡ぐタカヒロ。
お前の想いは分かるが、私は手を貸せない。
「リンスレット、俺が本気を出しても、止めないでくれよ」
「フ……分かっている。だが、例えお前でも、アリスティアは強い、気をつけろよ」
「ああ。後、アスモデウスは借りても良いのか?」
「好きにすれば良い。元よりあいつは大罪の仲間の中で、唯一領地を持っていないんだ。気にする事もないだろ」
「はは、それもそうか。リンスレット、もし俺とノルンが死ぬ事になっても、手を出すなよ?俺は一応、地上も好きだからな。火種に望んでなりたいわけじゃない」
その言葉に、心にずしりと重みを感じる。
だが、言わなくてはならない。
「分かっている。だが、だが……死ぬなよ、タカヒロ」
そう言い残し、私は戻る。
後ろでタカヒロが頭を下げているのを感じながら、ノルンの行く末を案じる。
私ならノルンを止められる。
だが、それをすれば、私は国家への反逆者となる。
魔界の世界樹を殺すのと同義だからだ。
だから、私は蓮華に期待するしかない。
ノルンを、どうか助けてほしい。
魔界の世界樹に縛られた、哀れなあの子を、どうか……。
-魔王・リンスレット視点・了-




