75.臨時講師
大会まで残す所三日となった今日。
入学式以来の、全校生徒が集まる事になった。
この会場のどこかに、ノルンは居るのだろうか。
そんな事を考えていたら、壇上に理事長と良く見知った人達が居た。
理事長が彼女達の説明をしていたみたいだけど、考え事をしていて聞いていなかった。
二人が前に出る。
「私は王国、フォースが誇るインペリアルナイト、カレンと申しますわ」
「同じく、アニス」
一礼する二人は、ビシッとしていてとても格好良い。
インペリアルナイトの正装も良く似合っている。
「私共はこの学園の出ではありませんが、私達の同僚に成る可能性のある者達が居ると、伺っております。講師としてではありますが、僅かな期間を共に過ごせる事嬉しく思いますわ」
そうニッコリと微笑むカレンに、生徒達のざわめきが凄い。
凄いんだけど……カレン、思いっきり私を見てるよね、分かるよ。
アニスも視線はこっちだし。
講師として、公式の立場できたのなら、私から言う事は何もないんだけども……。
あ、そうだ。
セルシウスとも契約できたし、アニスに教えてあげないとね。
「れ、蓮華さん」
色々考えていたら、ミアちゃんが話しかけてきた。
「どしたの?」
「その、さっきカレン様にアニス様が、こっちを見ていらした気がして……私達を見るわけがないし、もしかして蓮華さん、お知り合いなんですか……?」
ぐっ、鋭い。
とはいえ、隠し通せる事でもないし、むしろ隠す必要も無いか。
「う、うん。まぁ一応……」
「す、凄いです!カレン様もアニス様も、私達よりも年下なのに、もう国を背負うインペリアルナイトなんですよ!?そんな凄い方達と、お知り合いだなんて……やっぱり蓮華さんは凄いです!」
なんてミアちゃんが目をキラキラさせてくるんだけど……単なる知り合い所か、お姉様って呼ばれてる事まで話したら、どうなる事やらと不安になる。
絶対、あの二人、アーネストと同じでこっち来るだろうしなぁ……。
というかミアちゃん、私も肉体年齢はカレンやアニスと同じなんだけど、忘れてませんか。
まぁ、中身を考えれば年上なので、なんとも言えないけども。
なんて考えていたのに。
「以上で私達からの話は終わりですわ。いえ、大事な事を伝え忘れておりました」
その言葉に、皆真剣に耳を傾けているのが分かる。
でも何故だろう、私はこの先の展開が読めた。
だから、そろりと出口に向かう。
皆カレンとアニスの方を見ているから、気付かれない。
そろーりそろーりと出口へ。
よし、もう少し、という所で。
「私とアニスは、レンゲ=フォン=ユグドラシル様をお慕いしておりますの。それはもう、お姉様と呼んでいる程ですわ。ですから、講師であっても、心は蓮華お姉様の物だという事を認識して頂きたいのですわ」
その言葉が終わった瞬間、皆の声が重なる。
「「「「お姉様!?」」」」
物凄いざわめきに両手で両耳を塞ぎながら、外へ走る。
「「蓮華お姉様!待ってください!!」」
カレンとアニスが壇上から跳躍し、一気に私の近くまで飛んできた。
なにしてんのぉ!?
「ちょっと蓮華さん!お姉様ってどういう事ぉ!?」
「おい蓮華!お前一体何やってたんだ!?」
アリス姉さんにアーネストまで追いかけてくる。
知らん、私は何もしてないわ!
説明がめんどくさいので、走って逃げる。
そしたら、何故かカレンやアニス達の後ろから、たくさんの生徒達まで追っかけてきているのが見える。
何故に!?
「「「蓮華お姉様!私達も蓮華お姉様とお呼びしたかったんですー!!」」」
うぇぇ!?あの子達、何度か一緒に授業受けた子達じゃないか!
っていうか、君達同期でしょうがっ!!
それも私より一応年上だよ!
それよりも……!
「なんで皆追いかけてくるのー!?」
という私の叫びは、皆の声に掻き消えている。
いやほんと、どうしてこうなったー!!
-アスモデウス視点-
走り去っていく皆を追いかける事なく、見送る。
いやー、人気者は辛いねー。
あの子、ひたすらに良い子なんだよね……ずっと監視してたから、本当に良く分かる。
辛そうにしてる子にはさりげなく回復してあげてるし、授業も周りの子に合わせてあげてる。
それでいて、笑みを絶やさない。
多分、本当の笑顔ではないのだろうけれど……それでも、あの笑顔を見せられたら、魅せられてしまうだろう。
ノルンと同じ器なはずなのに、ノルンとは違う温かさを持った彼女。
一体、何が違うのだろう。
「アリシア副会長、アーネスト生徒会長も追いかけて行ってしまわれましたが、行かなくて宜しいので?」
誰だと思ったら、変身しているタカヒロだった。
「ええ、いつもの事ですから、会長に任せておきます。会長も、妹さんが居る時は行動が把握し易いですから」
そう、彼は妹である彼女を第一に考え、行動する。
本当の妹ではないはずだが、あのマーガリンが世界樹の器の兄を創るとは思わなかった。
鑑定も効かず、魔力さえない。
彼は一体何者なのか……。
興味深いが、今はアスモデウスとしての力は使えない以上、どうしようもない。
私の核たるコアは、魔界に置いてきたのだから。
「私は残った生徒達を纏めます。貴方は彼女を見てきてもらえますか?」
彼女とは、言うまでもなくノルンの事だ。
最近は大人しくしているようだが、ノルンは私達に何も話さない為、何を考えているのか分からない。
リンはひょっとしたら気付いているかもしれないけれど、あくまでリンは見守る事を重視している。
例え命を落とすような事態になったとしても、リンがノルンを救う事はないだろう。
それはあくまで自分で起こした事の責任だからだ。
そして、リンは魔界を総べる魔王。
リンが手を出すという事は、魔界の総意と取られる。
下手をすれば、地上と魔界の戦争になるかもしれないのだから。
ま、私はそれも良いんだけど。
リンは優しいからなぁ……ルシファーもリンの思想には共感してるから、自分から動こうとはしないし。
「分かりました。アリシア副会長、それではまた後で」
そう言って一礼して去っていくタカヒロを見送る。
真の意味で、ノルンの味方はタカヒロだけだろう。
今度の闘技大会、多分ノルンは動く。
その際、タカヒロはどう動くつもりなのか、また聞いておかなければ。
最悪、私も動かないといけない事態になるかもしれないし。
さて、まずはこの落ち着きのない会場を鎮めますか。
-アスモデウス視点・了-




