74.大会について
セルシウスの事は、その日のうちに全生徒へ知れ渡ったらしく、翌日から更に注目度が上がった。
前生徒会長の明先輩とも会う事が多くなり、生徒会メンバーとも知り合い、仲良くなれたと思う。
ノルンによる襲撃を警戒しつつ、授業を受ける日々。
けれど、あれから一度も襲われるなんて事は無く、ただ日が過ぎていった。
実技の授業では、魔力の違いに驚かれてばかりだったけど、もはや以下同文、省略で良いやってくらい同じパターンだったよ。
皆魔法のレベルが凄く低い。
体内にある魔力より、使っている魔力が小さく感じるので、まだ扱いなれていないだけの気もするけど、要修練だね。
でも、明先輩がどれだけ規格外だったか分かる。
国民が憧れるロイヤルガードのシリウスや、インペリアルナイトのカレンやアニス、バニラおばあちゃんを見てきたからか、他の生徒達との差には驚いたけど。
ここの生徒達と比べたら、確かに雲泥の差で強かったんだなぁと思う。
明先輩といえば、すでに各国から勧誘がきていて、王国近衛親衛隊の推薦がたくさんきているらしい。
つまり、次期ロイヤルガード、インペリアルナイト候補なわけだ。
何故かアーネストにはきてないみたいだったから、不思議だったんだけど……アーネスト曰く、不自然だったからちょっと調べたら、母さんが関わってそうだったから、調べるのやめた、と。
ホント何やってるんだ母さんは。
そして、今日も今日とて午前の授業が終わり、いつものメンバーで昼食を取りながら、雑談を交わしてる。
今日は午前で授業は終わりで、自由な土の日なのだ。
「そいやミア、来週開催の大会、どれに出るか決めたのか?」
ユリィ君が聞いているのは、毎年恒例行事の大会の事で、闘技、錬金、演舞、魔法の四つの大会があり、生徒達はこのどれかに登録して、出場する事ができる。
もちろん強制ではないけど、出たら個人へのポイントが高くつくので、大体の人は出るのだとか。
闘技は文字通り、模擬戦だ。
錬金は、集められた素材で、どんな物を創るかを競う。
演舞はダンスみたいなものかな?
で、魔法は強さではなく、芸術的な要素が強いらしい。
魔法を使って、芸をするって言ったら聞こえが悪いだろうか。
例えば魔法で虹を創って見せるとか、そういうのでポイントを競うらしい。
それぞれ日が違い、全員がそれぞれを見る事ができるようになっている。
「うん、私は錬金術の大会に出ようかなって思ってるよ。私戦うのは苦手だけど、色々創るのは得意だし好きだから」
そうミアちゃんは微笑んでる。
ミアちゃんは本人が言うように、色々な物を創る事に優れてるんだよね。
ポーション類も色々創っていたよ、授業中に。
「ま、ミアらしいな。俺はやっぱ闘技大会に出る事にしたぜ。アーネスト先輩と初戦で当たらない事を願うっスよ。なんたって前回の優勝者だもんなぁ、マジ凄いっスよ!」
そう笑うユリィ君。
アーネストは闘技大会に出るのか。
って、前回の優勝者なんかい!
「はは、でも今回は前回とは比べもんにならねぇからなぁ。アリスが居るし、蓮華も居るしなぁ」
うん、うん?
「おいちょっと待てアーネスト。なんで私も闘技大会に出る事になってるんだ」
その言葉に、皆が信じられないという顔をして私を見る。
え、なんで?
「蓮華、お前、そろそろ生徒全員に、お前が強い事知らしめないと駄目だって、まだ分からないのか?」
とアーネストが若干しんどそうに言うんだけど、どういう事だってばよ。
「あのね蓮華さん、私やセルシウス、アーくんが、どれだけ……どれだけ多くの人から、蓮華さんを守ってきたか分かる?」
えー……本当にどういう事?
「凄いわレンゲ、その顔は本当に今まで気付いていなかったのね……」
セルシウスまで。
一体何がどうしたって言うんだ。
「あぁ、もしかして……」
なんか納得したような顔で言うイリスちゃんに顔を向ける。
「事例なのですけど、錬金術の授業の時に、ミアさんとペアを組んで、回復薬の調合をしておられましたよね?」
ああ、そんな事あったなぁ。
「その時にミアさんが失敗をした紫色のポーションを」
「イシスちゃん!あれは本当に偶然でぇ」
ミアちゃんが泣きそうである。
そう、ミアちゃんは、本当にたまーに、失敗して毒みたいなポーションを作る。
見かけが毒々しい物もあれば、透き通った綺麗なポーションが毒な事もあり、創ったポーションの効果をペアの者が確かめるという授業なので、ミアちゃんとペアを組んでくれる人が減っていったのだ。
なので、私が率先してペアを組むようにしていた。
「あれは見ただけで毒と分かりましたからね。けれど、それでも蓮華様は、躊躇わず飲まれました。確かに見た目が毒に見えても、治療薬の場合もあるでしょう。けれど、それでもやはり普通は躊躇います」
えぇっと、あれ確か普通に解毒薬だったんだよね。
鑑定ができるわけじゃないけど、なんか悪い物か良い物かの違いが分かるので、普通に飲んだだけなんだけど……。
「それなのに、蓮華様は普通に飲んでしまわれて、ミアさんには笑顔を向けられて、次は回復薬創ろっか、と仰られて……あの優しさと笑顔に射止められた殿方は多いのではないでしょうか。事実、あの授業の後、蓮華様の後を追おうとする者が物凄く多かった気が……」
「ええ、レンゲさんに告白するんだ!って詰めかけようとした野郎共の足を全員凍らせておいたあの時ね」
事も無げに言うセルシウス。
なんだそれ、私はあの後授業が別の部屋だから移動したんだけど、そんな事になってたのか。
「あー、それならあれもかな。俺も剣術の授業の実技の方で一緒になった事あったじゃないっスか」
うん、受ける意味無さそうだったから行く気なかったんだけど、明先輩から少し見てあげて欲しいと頼まれたんだよね」
「それで、やっぱ受け切れずに骨が折れたり、体力尽きて倒れる奴が多かったんスよね」
ああ、それにも驚いた。
これでやっていけるのかなって不安に思ったよ。
「それを蓮華さんがすぐに治療してくれて、笑顔で頑張りなよって言ってくれるわけっスよ。もう俺達の間で戦場の女神って言われてるんスよ?」
なんだその恥ずかしい二つ名は。
ホントやめてくださいお願いします……。
「それで、もう蓮華さんが次の場所に行こうとするのを追いかける輩が男女問わず多いから、私が地面を叩いて地割れ起こして防いだりね……」
なんか、アリス姉さんが遠い目をしてる。
そんな事してたの?
「あ、それならあの時」
「も、もういいよ!ごめんなさい、勘弁してください!!」
耐え切れず謝ったら、皆笑いだした。
「あはは!もう、蓮華さんはこれだから。ホントに気付いてないんだから、笑っちゃうよ」
「ホントそれな。蓮華は天然すぎんだよ。言っとくけど、お前は気付いてないだけで、色々やらかしてるからな?男は純情な奴も多いんだぞ、気軽なボディタッチは厳禁だ蓮華」
え、えぇ……呼ぶ時に肩を叩いたりしたくらいだよ?
「レンゲ、本を持ってこなかった人の隣の席について、見せていたりしたわね。あれも近づきすぎ。同性ならともかく、男性は意識してしまうわよ。それもレンゲほどの美人じゃ、ね」
……思い返してみれば、色々とやっちゃってるのかもしれない。
「それで、な。この学園では良い。いや良くは無いんだけど、不敬にゃならねぇ。でもな、俺とアリス、それに蓮華も、特別公爵家なんだ。街に出た時に、同じようにしてみろ、最悪そいつらがつかまっちまうぞ」
その言葉に衝撃を受ける。
「俺達が悪くても、身分の低い方が悪になっちまうんだ。だから、俺達は相応の立ち振る舞いをしなくちゃならねぇ。ま、どうせユグドラシル領からあんま出る事はねぇだろうけど、そういうとこも少し学んどけよ蓮華」
そう言うアーネストの目は優しい。
きっと、私を守る為に色々と勉強してくれたんだろう。
頭が下がる思いだ。
「……そうだね、ありがとうアーネスト。私はまだまだ知らない事だらけだから、色々とそうやって注意してくれたら嬉しいよ」
「おう、任せとけ。それに俺だけじゃねぇ、皆お前の力になりたいと思ってるよ」
うん、それは本当に分かる。
私はなんにもしていないのに、どうしてこんなに好意的に思ってくれるんだろう。
私は幸せ者だね。
「ありがとう、皆」
お礼を言う事しかできないから、せめて心からの笑顔で、そう伝えよう。
私が皆の力になれる事があるのなら、協力を惜しむ事もない。
と考えていたら、皆の態度がなんかおかしい。
「うぅ、蓮華さん、素の飾りのない笑顔って狡いと思うんだよぉ……」
何を言っているんだろうか、アリス姉さんは。
「俺は、俺はセルシウスさん一筋!だけど、なんて可愛らしい笑顔なんだっ!アーネスト、お前こんな可愛らしい妹を今まで隠していたのかぁ!!」
「隠してはねぇだろ!?」
なんかアーネストと明先輩が言ってるけど、放っておこう。
話を戻そう。
「セルシウスは私の護衛だから出ないとして、イシスちゃんは何か出るの?」
「いえ蓮華様、私はシスターを目指しておりますので、この学園の卒業資格だけが欲しいのです。ですので、ポイントを高めようとも思っておりませんので、見学だけにしようと思っております」
「そっか」
それから、また雑談を交わしてから、生徒会の話があるからと、ミアちゃん、イシスちゃん、ユリィ君とは別れた。
なんか、私も生徒会の一員に周りからは見られているみたいで(アーネストと明先輩のせいだと思う)特に疑問に思われる事もないのは救いだろうか。
そしていつものたまり場である男女で入れる部屋へ入る。
「さて、次はノルンに対しての事だ」
アーネストのその言葉に、温度が下がった気がする。
いや、実際に寒い!?
「ちょ、ちょっとセルシウス、感情が魔力になって漏れてる!漏れてるからね!?」
「あら、ごめんなさい」
そう言って抑えるセルシウス。
普段の魔力量なら、私の中で押さえておけるんだけど、感情が激しく揺さぶれた時の一時的な高まりは、波のように高くて零れてしまう。
全員が苦笑する。
「おそらく、いや絶対に、闘技大会にノルンは出るだろう。なんせ、蓮華と一対一で戦える絶好の機会だからな」
「だね。私もアーくんと同じく、出てくると思う。後ね、あれから色々と周辺を調べてみたけど、少なくとも二人、いや三人かな……仲間がいると思う」
「それは、アリシアさんも?」
「それは分からない。だけど、関係してる可能性が無いとも言えないかな」
アリス姉さんでも測りかねているわけか。
「皆、ノルンとは一対一で決着をつけれるなら、つけたいと思ってる。だから、手は出さないで欲しいんだ」
私の言葉に、全員が驚く。
「おまっ、蓮華!自分が狙われてるって分かってんのか!?」
「うん、分かってる。心配してくれてありがとうアーネスト。だけど、ノルンが私を狙うなら……まず、話してみたいんだ」
「はぁ……お前はそうと決めたら頑固だからな。分かった、けど危なそうなら、すぐ助けに行く。それは許せよ?」
そう仕方なく言ってくれるアーネストに、笑顔で伝える。
「ありがとうアーネスト。うん、その時は頼りにしてるよ」
と。
そしたらアリス姉さんが言ってきた。
「ねぇ私は蓮華さん!?私も頼りにしてくれる!?」
何を言っているんだろうか。
「ふふ、そんなの当たり前じゃないかアリス姉さん。頼りにしてるよ」
その言葉に、ぱぁっと笑顔になるアリス姉さんが本当に可愛い。
私もつられて微笑んでしまう。
「全く、貴女達姉妹は本当に可愛らしいわね。思わず守ってあげたくなるのに、強いんだから困るわ」
そうセルシウスが零すのに、苦笑するしかない。
「セルシウスさん!俺は弱いので守ってください!!」
「貴方、私に好かれたいのか呆れられたいのかどっちなのよ」
「もちろん好かれたいです!!」
明先輩のその言葉に、溜息をついているセルシウス。
頑張れ明先輩、道のりは断崖絶壁だぞっ!




