70.授業初日・午後、上級生の授業風景
昼食を終えて外に出た。
そこには、腕を組んで仁王立ちした、副会長こと、アリシアさんが居た。
「会長、どこへ行かれるつもりですか?」
凄い迫力に一歩下がる私。
アーネストが前に出た。
「アリシア、今日の午後の予定は分かってる。だから俺はここに居るんだぜ?」
アリシアさんが額に手を当てている。
「はぁ、本日の私達生徒会メンバーの仕事は、新入生が上級生の皆の邪魔をしないか、もしくは上級生から無理強いされていないかを見回る、ですよね?」
「ああ。だから、蓮華と周るつもりなんだよ」
ドヤァと言わんばかりのアーネストなんだけど、それは理由になっているんだろうか。
「会長、まさか妹さんを生徒会に?」
「あー、まぁそれは蓮華が望むなら拒まないけどな。無理強いするつもりはねぇよ」
そのアーネストの言葉にホッとする私。
生徒会って忙しそうなイメージしかないから、入りたくないのが本音だ。
「なら、先程の理由は筋が通らないのでは?」
「ちげぇよ。俺が蓮華と周るのは、蓮華が一番問題を起こす確率が高いからだよ」
なんですと?
「おいアーネスト、それは聞き捨てならないんだけど」
「事実だろ。お前のその厄介ごとに巻き込まれやすい体質は異常なんだよ」
「あ、それなんとなく分かるよアーくん」
「うぐっ」
アリス姉さんにまで言われて言葉に詰まる。
そこに、思わぬところからフォローが入った。
私への、じゃないけど。
「あの、俺達アーネスト先輩が案内してくれるってさっき聞いてて。アーネスト先輩は俺達も案内しようとしてくれてたんすよ!」
「そ、そうなんです!蓮華さんだけじゃなくて、私達の事も気遣っててくれて!」
「はい。ですので、生徒会の業務を遂行していると私も思います。」
三人の、アーネストへの助け舟だ。
これには流石に何も言えなくなったのか、アリシアさんがアーネストを見て言う。
「まったく、相も変わらず、たらしこむのがお早いですね会長。分かりました、それでは他は私達でカバーしますが、処理が追いつかない時は頼みますよ?」
「ああ、そん時は任せとけよアリシア」
そう笑って言うアーネストに、アリシアさんは微笑んでから、行ってしまった。
アーネストが三人に振り向いて言う。
「さんきゅな!助かったぜ」
そう言われて、微笑む三人。
うん、良い感じだね。
でもさっきアリシアさんが言った、たらしこむってなんだろう?
あ、もしかして言い寄られてたってやつだろうか。
まぁ、それはどうでも良いか。
「アーネスト、午後は他の上級生の授業を見学したり、参加したりできるんだよな?」
「おう、そうだぜ。なんか行きたいリクエストとかあれば、そっち優先して案内するぜ?」
うーん、私はこれといってないから、他の三人に聞いてみるか。
「ミアさんは、何か行きたいとこある?」
「ふぇ!?い、いえ!その、蓮華さんが行きたい所が良いです!」
「俺も蓮華さんが行きたいところで良いですよ」
「はい、私もです」
と、聞いても私のって返ってきてしまった。
困ったな、私は特に何もないんだよなぁ。
と思っていたら、意外な所から意見が上がった。
「それじゃ蓮華さん、剣術見に行かない?どの程度か知っておいて損は無いでしょ?」
と、ウインクしてくるアリス姉さんがとても可愛らしかった。
「うん、確かに。皆もそれで良い?」
「「「はい!」」」
凄いな、息ぴったりだよ。
「はは!分かった。えーと、剣術は確かあっちだな」
そうして移動を開始する。
この学園は凄まじく広い土地の中にいくつもの校舎がある。
それぞれ学ぶ事が校舎事に別れていて、中には薬草学や錬金術とかも学べるそうだ。
他にも、魔術師科や魔法科、魔法戦士科といった、戦闘に直接関わる所も多い。
最初にどれを集中的に取るのかを決めておかないと、授業に置いて行かれると聞いている。
一応日ごとの授業内容が魔術ボールと呼ばれる媒体で保存されていて、それを使って最初から勉強する事も可能なんだそうだけど。
でも、それらが使えるのは座学だけだ。
実戦での訓練はそうはいかない。
この学園は結界に守られている為、外で雨が降っていても、この学園内に降り注ぐ事は無い。
だから、雨を気にせず外で訓練ができる。
ただ、一部ジャングルみたいな場所があり、そこでは例外的に雨が降るようにされているらしい。
モンスターハンターを目指す者が、なるべく本当の実戦に近い状態で戦う為なんだそうな。
ちなみに全部アーネストから聞いた話だ。
「着いたぜ、ここだ」
アーネストの言葉を聞いて、考え事をしていた頭を切り替える。
広い、元の世界の学校の運動場より広い気がする。
そこで、上級生達が素振りしている。
皆真剣に掛け声と同時に剣を振っている。
皆と反対側に一人、立って声を掛けている人がいる。
あの人が先生だろうか。
「よし、そのまま続けておくように!」
「「「「はいっ!!」」」」
そう言ったかと思うと、こちらに来る。
元の世界で言う、ジャージ姿なんだけど、これがまた似合っている。
「やぁ生徒会長。そちらが噂の妹様かい?」
なんてにこやかに言ってくるんだけど、噂って……。
「ああ、そうだよ。っていうか、なんでアンタが指導してんだ」
「先生に頼まれてしまってね。いやー、俺はアーネストを探していただけだったんだがね」
「あー……蓮華、紹介するよ。こいつは草薙明。前生徒会長で、転生者だ」
なん、だと。
「はじめまして、レンゲさん。アーネストが紹介してくれたけど、改めまして。草薙明、明と呼び捨ててくれると嬉しいな」
「初めまして。レンゲ=フォン=ユグドラシルです、明先輩」
私に続いて、四人も挨拶をする。
周りを見渡して、彼は続けた。
「レンゲさんもアーネストと同じで、身分に拘らない方なんだね。うん、嬉しいな」
そう、微笑んでくれた。
しかし、名前が日本人みたいだなぁ。
「今日は上級生の授業を見学が主な趣旨だけど、参加もできるんだよ。どうだいレンゲさん、俺と一手し合ってくれないかい?」
その言葉に、今まで素振りを続けていた上級生の皆が、素振りを止めてこちらを驚いた顔で見てくる。
「おい明」
「アーネスト、お前の実力は知ってるし認めてる。だからこそ、お前がそこまで入れ込むレンゲさんと、戦ってみたいんだよ。ダメかな?」
その言葉に、アーネストは溜息をついて答える。
「はぁ、お前この学園のナンバーズの一位って自覚あんのか?」
「ああ、もちろんさ。誰にでもってわけじゃない。アーネスト、君が入れ込んでいる者だから、だよ」
ナンバーズってなんだろう?生徒会とは、また違うのだろうか。
違ったとして、それにアーネストが入っているのかは分からないけど、№1って事は一番強いって事だよね。
気合の入った目で明先輩を見つめる。
「どうやら、受けてくれるようだね」
嬉しそうに明先輩が答える。
アーネストがやれやれといった具合に言ってくる。
「蓮華、大精霊はなしで頼む」
そう言われて、思い出した。
そういえば、どうして今まで大精霊の力を借りなかったのか。
ノルンとの戦いの時だって、大精霊の皆の力を借りていれば、また違ったはずだ。
急な事で頭が回っていなかったなぁ、気を付けよう。
「了解、私の魔力とソウルだけで行くよアーネスト」
「ああ。でも油断するなよ蓮華。あいつは、明は……俺と引き分ける程の剣の腕前だぞ」
その言葉に驚く。
アーネストがどれだけ成長したかは分からないけど、絶対に私と居た時より強くなっているはずだ。
そのアーネストと互角、油断できないな。
「アーネストに何か吹き込まれたかな?顔つきが変わったねレンゲさん。良いよ、その覇気……素晴らしい」
そう言って構える明先輩。
奇しくも、私と同じ刀だ。
「おいお前ら、蓮華と明から離れろ!間違いなく戦場になるぞ!」
アーネストが皆に声を掛ける。
明先輩の体を魔力が包むのが見える。
金色の光を纏うその姿は、まるで戦闘民族のアレみたいだけれど……凄まじい練度の魔力である事が分かる。
これは、一瞬でも気を抜いたらソウルを弾かれて負ける。
皆の避難を待つ間、お互いに睨みあう。
その時間が長くも、短くも感じたが、聞こえる声でその時間も終わりを迎える。
「良いぞ蓮華、明!」
アーネストの声を聞いた瞬間、弾かれたように前へ飛ぶ私と明先輩。
この戦いが、予想外の事態になる事を、この時の私は予想すらしてなかった。




