708.アーネストside72
「来たかアーネスト」
「当然だろ。仲間の無念、俺が晴らしてやらねぇとな」
「仲間の、か。うむ……お主も良い武士よな。相手にとって不足なし!」
「両者、準備は良いようですね。それでは、試合開始!」
審判の掛け声と同時に、俺は『ダブル』を発動させる。
分身と共に左右からの挟撃だ。
「ぬるいわぁっ!」
「何っ……!」
野茂の強烈な拳が分身に当たり、『ダブル』が消える。
マジかよ、たった一撃でかっ!
「『地斬疾空牙』ッ!」
「ぬうんっ!」
衝撃破を飛ばす技である『地斬疾空牙』を拳でかき消しやがった。
おもしれぇっ!
俺は空中へと飛び上がる。
「いくぜぇっ! 『鳳凰天空牙』ァッ!」
「《其疾如風》其の疾きこと風の如く!!」
「俺より上にっ!?」
「《動如雷霆》動くこと雷霆の如し……《風林火山》!!」
「甘ぇよっ! その技は見せてもらったからなっ! 『カウンタースラッシュ』!!」
「ぬぅっ!?」
『鳳凰天空牙』による空中からの突撃を俺より高く飛ぶ事で避けた野茂は、その体制のまま拳を振るってきた。
そこへタイミングを合わせて『カウンタースラッシュ』を当て、更に空中へと弾き飛ばす。
「追撃だっ! 防げるかよっ!」
「面白いっ! わしの攻撃、防いで見せよっ! 『怒応乱打』ッ!」
「うおぉぉぉぉっ!!」
「ぬぅぉおおおぉぉぉっ!」
空中という態勢の整えられない場で、凄まじい勢いで拳を乱打してくる。
全て見えているから防ぎ、肉体へ届きそうな場所へ剣を振るも、防がれる。
攻防一体の技だな。
その身にまとう『オーラ』の力強さもかなりのもので、防御力がネセルの攻撃力を上回っている。
そのせいで肉体でありながら鋼よりも硬い為、皮膚に傷がつけられない。
中々に厄介な相手だ。
ま、『オーラ』での張り合いはここまでで良いか。
麗華への指導的な意味で、『オーラ』だけで初手は戦って見せた。
こっからは、俺の独自の力で相手させてもらうぜ。
「やるな野茂。なら、これは防げるか?」
「っ! この異質な力はっ……!?」
「合成魔法『アルティメット・オーバーロード』……『ファイナルドライブ』!!」
「ッ!? がはぁっ……!!」
身体強化魔法の究極系、『オーバーブースト』と『オーバーロード』の上を行く効果を持つ俺独自の魔法だ。
母さんから受け継いだ原初回廊の力をフルに使い、身体能力を爆発的に増大させる。
今この時点だけの力で言えば、ユグドラシルモードの蓮華ですら肉体的力では超えているだろう。
『あ……。じ、実況をつい忘れてしまいました、すみません。いや、でも、ええ……』
『……これは……語彙力が無くて申し訳なく思いますが……凄い、としか言い様がありません』
【なんだこれ、アニメでも見てるんか】
【すっげぇ空中戦が始まったと思ったら、野茂さんが舞台にめり込んだ】
【アーネスト様の力えぐすぎるて……】
【言葉ないなった】
【今までの戦いが子供の遊びレベルなんだが?】
空中から舞台へと降りると、野茂がよろよろと立ち上がる。
あの一撃を受けても立ち上がるとは、流石の耐久力だな。
「ぬぅ……なんという強さよ。このままでは勝てぬか……しかしこの場で"解放"するのも目的と合わぬな。うむ、見事。審判、わしの負けだ」
「え? あ、失礼しました! 野茂選手降参により、勝者アーネスト選手!」
「「「「「ワァァァァァァッ!」」」」」
解放? 普通に受け取るなら、何か制限の中で戦っていたって事だろうか?
「アーネスト殿、見事也。いずれまた会おうぞ。その時は、わしも真の名を伝えよう。では、さらばだ」
言うだけ言って去って行った。
気にはなるけど、今はこの大会を勝ち抜く事が先だしな。
そう思い、俺も舞台を後にした。
後ろから聞こえる歓声が、妙に他人事に思えた。