707.アーネストside71
「アーネスト! リオさんは!?」
「大丈夫だ、今は気を失ってるだけだ蓮華」
おそらく『ワープ』を使って飛んできた蓮華が、眠っているリオを見て少し安堵する。
「そうだアーネスト。アデルとサスちゃんが、リオさんの対戦相手に見覚えがあるって言ったんだ」
「ああ。直接本人から、四聖天メシアの仲間だって言ってきたぜ」
「!!」
蓮華にアクエリアスの事は話せない。
だから、味方だとは言えない。
味方と言えるのかも分からない段階だけどさ。
「そっか、敵の一味って事か。どうするんだアーネスト?」
「どうするって?」
「泳がせるのか、それとも……」
「ははっ。何をトンチキな事言ってんだよ蓮華」
「なんだとぅ!?」
「リオの仇だぜ? ぶちのめすに決まってんだろ」
「!! ははっ。そうだったな、お前はそういう奴だったよ」
「ま、最悪の場合でもお前や兄貴もいっからな。俺は後顧の憂いなく好きにやらせてもらうぜ」
「了解。それじゃ私は観客席に戻るよ。お前に頑張れなんて言葉は不要だろうけど……負けるなよ? お前に勝って良いのは私だけなんだからな」
「言ってろ。俺はお前にも負けねぇよ」
「……」
「……」
「「ははっ!」」
見つめあい、笑いが零れる。
そうさ、こういう気楽な関係が俺は良い。
男だからとか、女だからとか、そういう面倒な事は俺達には関係がない。
蓮華だから、俺は負けたくねぇし、楽しいんだからな。
「それじゃ、カッコいい所見せてくれよな親友!」
「おう、期待しとけ!」
そう笑って言うと、蓮華もニコッと笑って姿を消した。
周りではその表情を見た奴らが呆けた顔をしている。
誇張抜きで奇麗だからなぁあいつ。
女神様だし仕方ないけど、あいつはもう少しそこら辺を自覚した方が良いな、うん。
本人の意図しないところで勝手に恋慕されちまうぞ。
それであいつは気軽に振るから性質が悪い。
今ではあいつの周りに居る女性陣が強烈な盾になってるだろうから、俺としても安心だが。
決して過保護ではない、断じて。
「師匠、リオさんを医務室へ運びましょう。案内するわ」
「ああ」
麗華に先導を任せて、医務室へと向かう。
そういや、こいつも蓮華とほぼ同時に来ていたような?
「麗華も蓮華と同時に来てたよな?」
「う、気付いてたのね師匠」
「そりゃな。なんで話に加わらなかったんだ?」
「無茶を言わないでよ。蓮華さん程の方に、気軽に話しかけられるわけないじゃない」
「俺は良いのかよ」
「師匠は前の師匠がイメージ強くて楽というか。最初から今の師匠だと、話しかけられなかったかもしれないわ」
そんなもんか。
まぁ、俺も美人と話すのは緊張するしな。
周りが美人しかいない事もあってか、大分慣れたが……日本に居た頃の俺が、今の麗華に話しかけられるかと言われたら……無理な気がする。
それくらい麗華だって美人だし、インフルエンサーでもあるんだから、天上人みたいなもんだろう。
「なんとなく理解したぜ。俺も麗華と話すのは緊張するしな」
「本当に!? なら少しはチャンスがあるのかしら!?」
「……」
なんでだろうか、こいつには女性を意識しにくいというか、蓮華みたいだからだろうか。
名前も似てるし(関係ない)
「すまん、やっぱお前は気楽な相手だわ」
「それは喜んで良いのかしら? いや暗に女として見れないと言われているような……」
ぶつぶつと言っている麗華を置いて、リオを医務室のベッドへと寝かせる。
「ぅぅ……」
少し苦しそうな表情のリオのおでこに手を置く。
すると、穏やかな寝息を立てるようになった。
「リオ、仇は俺が取ってやるからな」
「リオさん、死んでないけど」
「……」
なんて言えば良いんだよ。
病室で煩くするわけにもいかないので、選手控室へと戻る。
麗華に話しかけたそうにしている奴がチラホラと居るんだが、俺を見て諦めている気がする。
「麗華、良いのか?」
「え? 何が?」
「いや、お前に話しかけたそうな奴が結構居る気がするんだが」
「あー、良いのよ。どうせサイン頂戴とか、そういうのだから。師匠が居て助かってるわ」
「そういうもんか。ま、それなら盾にでもなんでもすりゃ良いけどよ」
「あら、師匠は怒らないの? 勝手に盾にするなって」
「別に実害が出てるわけじゃねぇし。というか蓮華の兄だぞ? 慣れてんだよ」
「あー……」
その言葉に凄い納得する麗華に笑う。
「あ、その表情頂きっ!」
「あ、おい」
スマホを起動して突然カメラを向ける麗華。
「お前、油断も隙もねぇな」
「ふふ、良いじゃない。師匠の笑顔、待ち受けにしちゃお」
「どんな公開処刑だよそれは」
「師匠の笑顔滅茶苦茶良いのよ。多分これSNSで晒したらとんでもない数のいいね貰えるわ。ああ、うずうずする……ダメ?」
「そこで許可すると思ったか?」
「ショボン(´・ω・`)」
「……」
目に見えて落ち込む麗華を無視して、会場へと目を向ける。
対戦は進んでいるようで、こちら側の人数も少しづつ減っている。
「あ、次は私の試合ね。行ってくるわ師匠」
「おう。リオの手前もあるからな、気をつけろよ」
「ふふ、大丈夫。相手は知ってるから。去年も当たったのよね」
「そうか」
そう言って舞台へと向かって行った麗華は、1分もしないうちに戻ってきた。
「今行ったよな?」
「師匠に教えてもらったオーラブレードで一撃だったんだもの」
「……」
実力差がありすぎたか。
これじゃ不満だろうな、分かるぜ。
「ふぅ、もう師匠達相手じゃないと楽しめる相手がいなさそうなのバグじゃない?」
「ははっ。気持ちは分かるけどな。けど、俺より上も居るからな?」
「え"。あ、ああ。ロキさんね」
「兄貴もだけど、俺の家族の中で一番弱いのが俺か蓮華だぞ?」
「え"」
麗華の開いた口が塞がらないといった態度に、俺はつい笑ってしまう。
冗談ではなく事実なんだよなぁこれ。
大分差は縮まったとは思うが、兄貴は勿論母さんにも勝てないだろうし、アリスやユグドラシルにだって勝てないだろう。
ほら、俺と蓮華が一番弱い。
くっそ、自分で言ってて悔しいけど。
「っと、ようやく俺の出番だな。相手はあのおっさんだよな」
「ええ。師匠なら勝つんだろうけど、気を付けて」
「おう、師匠の戦い方を見て学べるところは学んどけ。って言うほど、俺は麗華の師匠してねぇと思うけど」
「ふふ。勉強させてもらうわ」
さて、リオの仇もそうだが……四聖天メシアの仲間の実力、確かめさせてもらうぜ。