706.アーネストside70
『いやぁ、実に見応えのある試合でしたね! 連夜選手の《マキシマムブレイド》は避けれなかったら勝者は違ったかもしれませんね!』
『そうですね。難点として溜めが長い、基本縦切りで知っていれば避けやすいといった所だと思います』
『なるほどぉ。よく言う当たらなければどうという事はない! ですね!』
『そうですね』
【他人より3倍速い人が言うよね】
【マキ姉はホントさぁw】
【連夜さん強いけど、それ故に必殺技バレてるからなぁ】
【剣を前に構えて力溜め始めたら合図w】
【て、敵が動かなければ必殺できるから!】
『さてさて! 次の試合ですね! おっと、次の試合はエキストラ枠の方ですね! エキストラ枠と言えばアーネスト様、ではなく、アーネスト選手が一躍時の人となりましたが、そのエキストラ枠で堂々の第二位! 蘇芳 理央選手です!』
『蘇芳選手は我々と似たような名前ですね』
『確かに! マイシスター麗華ちゃんから聞いた情報によると、蘇芳選手も異世……』
「お姉ちゃんっ!!」
『うひっ!? れ、麗華ちゃん!?』
「それ以上喋ったら、後で分かってるよね?」
『ハイッ! で、ではでは、話を戻しますね! 対するは大阪島の第一位、野茂瀬二選手です! ここ最近では聞いた事のない名前ですので、初出場ですね! どちらも実力が未知数、これは楽しみなカードだっ!』
【マキ姉www】
【マキ姉はホント】
【麗華様に怒られてて吹いた】
【誰も選手達に言及してないの笑う】
リオと相対する野茂って奴、かなりの高身長だな。
優に二メートルは超えてる。
そしてボディビルダーのようなガッチリとした筋肉に、オーラを全身に纏わせている。
習い始めたばかりの剛史よりも練度が明らかに高いぞ。
「それでは、試合開始!」
「いくでござるっ!」
「《其疾如風》其の疾きこと風の如く!!」
「なっ!? 我より速いでござるかっ!」
「ぬぅっ!? 避けるかっ!」
「これで、反撃でござるっ!」
「《不動如山》動かざること山の如しぃ!!」
「なっ!? か、硬いでござるっ……!」
『す、すごいっ! 野茂選手はあの見た目で蘇芳選手よりも速く攻撃するなんて!』
『それを避けた蘇芳選手も見事ですね。そして蘇芳選手の攻撃を、あの肉体で弾きました。野茂選手の肉体を、何かが包んでいるように見ますが……あれを突破できなければ、蘇芳選手に勝ち目はないでしょう』
【相変わらず山田さんの実況はわかりやすい】
【ま、マキ姉は盛り上げ役だから(目をそらしながら)】
【にしても、あのごっつい筋肉であの速さは凄いな】
【100%中の100%ー! って言いながら突撃してきそう】
やるじゃねぇかあいつ!
リオよりも速く接近して攻撃し、避けられて反撃を避けれないと判断したらすぐに肉体をオーラで超硬化して弾きやがった!
リオは避けた体制のままで攻撃したから、威力は下がってるとはいえ……そもそもリオの刃を弾く程のオーラを扱うたぁな!
「やるでござるなっ! ならば我も手加減抜きでいくでござるよっ!」
「《動如雷霆》動くこと雷霆の如し……」
「!!」
「《其疾如風》其の疾きこと風の如く、《風林火山》!!」
「がっ……!!」
『おおっとぉぉっ! 目にも止まらない、いえ! 映らない速度で動いた野茂選手! 蘇芳選手をぶっ飛ばしたぁぁぁっ!」
『野茂選手が何らかのスキルを行使しているのは明らかですが、恐らく《其疾如風》と《動如雷霆》は速度を、《不動如山》は強度を、そして《風林火山》は攻撃力を爆発的に上昇するのではないでしょうか。事実、《其疾如風》のみだと動きが見えたのに対し、《動如雷霆》を組み合わせた時は私にも見えませんでした』
『山田さんのスキルを使っても、ですか……とんでもないです野茂選手!!』
嘘だろ、あのリオが避けられねぇ速度を出すとはな。
しかもあの正拳突き、とんでもねぇ練度のオーラが込められていた。
下手したらリオは立ち上がれねぇかもしれねぇな。
まさかこの神島にこんな強者が居るとは思わなかったぜ。
「ぐっ……やるで、ござるな。我はまだ、やれるでござるよ!」
「良い闘志だ。しかし、蛮勇と知るが良い。《其疾如風》其の疾きこと風の如く、《風林火山》!!」
「うぐぁっ……!!」
再度吹き飛ばされるリオ。
しかしまた立ち上がる。立ち上がっては、《風林火山》を食らって吹き飛ばされる。
それを何度繰り返しただろうか、気が付けば観客が静まり返っていた。
「……何故、そこまでして立ち上がる」
「愚問で、ござるなぁ……」
「名誉か? それとも有名になりたいからか?」
「ふ、ふふっ……そんなものに、興味は、ごほっ、ないで、ござるよ」
「ならば、何故だ? お前はもう、気力だけで立っている。そもそも、わしの《風林火山》を一度でも受ければ、並みの者では立つ事もかなわぬと自負しておる」
「我の……私の、目標は、ずっと、ずっと遠くに居るでござる。その方々に追いつく為には、立ち止まっている暇など、ないでござる! 私は、負けないでござるっ!」
『……』
【……】
司会も、コメント欄も、静かだった。
ただリオの気迫に言葉を失う。
恐らく、自惚れでなければ……リオの目標は俺や蓮華の事だろう。
リオは俺と戦うのを楽しみだと言っていた。
俺は軽く聞いていたが……リオは心からそう言ってくれていたんだろう。
「そうか。お主こそ真の武士よ。ならば、わしも今一度撃とう、最高の一撃を!」
「私は、負けないっ! 勝って、アーネスト殿と戦うんだっ! 蘇芳流・裏奥義!《雷葬一閃》」
「《其疾如風》其の疾きこと風の如く《動如雷霆》動くこと雷霆の如し……《風林火山》!!」
リオの雷のように速い一撃を、野茂の正拳突きが刃を弾き、リオのみぞおちへと届く。
「がはっ……!!」
耐えきれずにリオは舞台後方へと飛ばされる。
「あー、ねすと、殿……申し訳、ないでござる……約束、はたせ……」
そう言って気絶したリオの元へと俺は飛ぶ。
「し、勝者、野茂選手!」
審判が判定を下すのを後ろに聞き流しながら、俺はリオを抱きかかえた。
「お主がその者の目標だな」
「……」
「順当に行けば、わしの相手はお主だろう。だから今のうちに伝えておこう。わしの野茂瀬二という名は偽名でな。四聖天メシア殿の仲間と言えば伝わるか?」
「!?」
「フ……まぁ、今は戦いを楽しもうではないか。また後でだな」
そう言って、反対側へと去って行った。
配下ではなく、仲間、か。
厄介な事にならなきゃ良いが……それとは関係なく、リオの仇だからな。
首を洗ってまってやがれ。