702.アーネストside67
お待たせ致しました。
山椒の出荷作業が終わりましたので、また更新を再開します。
少しの間配信系のお話のような書き方が続きます。
『久しぶりね、皆こんにちは。SNSで呟いた通り、今日はゲリラ配信になるわよ。急なのに、すでにかなりの人が見てくれているようで嬉しいわ』
【コメント】
:そりゃ麗華様の呟きは即通知来るようにしてますから!
:当然だよなぁ!
:麗華様ぁぁぁぁぁっ!
:大会終わるまで配信は無いと思ってたから、嬉しいですっ!
『事前に言っていた通り、私は明日の大会の為に自分の島を離れてるわ。今日は宿泊してるホテルから、重大な事を伝える為に配信をする事にしたの。良ければこれを見てくれている皆、自分のSNSを使って拡散をお願い。それと、今回の配信ではスパチャはオフにさせて貰ってるからそのつもりで』
【コメント】
:OK
:分かりました! 後SNSでリツイートしておいたよ!
:私もしておきました!
:俺も友達に見るように送っときましたw
『皆ありがとう。少しの間だけ雑談をして人が増えるのを待ちましょうか』
ホテルの一室で、パソコンの前で話す麗華。
俺達は少し離れた場所で、その様子を見ている。
モニターが上に設置されていて、麗華やコメントが映っている為、そこで確認も出来る。
兄貴は麗華の傍で立っている。呼ばれたらすぐに画面に映る為だ。
何の為かは分からないが、兄貴は結界は張っている。
麗華と兄貴、そして俺達の間には距離がある。
配信に映らない為なのは分かっているんだが、その間に結界を張ったんだよな。
っと、そんな事を考えていたら麗華が兄貴を紹介する流れになった。
『それじゃ、同時接続数もかなり増えてきたし、そろそろ本題に移るわね。今から紹介するのは、この世界の人ではありません。また、語彙力がなくて申し訳ないのだけど、凄い方だから。ではどうぞ、ロキさん』
『……』
兄貴は何も言わずに、麗華の横へと移動する。
兄貴が画面に映る、たったそれだけの事で。
コメント欄が凄まじい速度で流れ出す。
【コメント】
:キ"ャ"ァ"ァ"ァ"ッ!!!
:バチクソイケメンッ!!!
:ふつくしい……
:こんな人がこの世に存在すんの?
:男の俺が嫉妬も出来ないくらいにかっけぇんだけど
:え、でも待って、さっき麗華様この世界の人ではありませんって言わなかった?
:そう言われても納得できる美しさだけど
:ふざけんな!麗華様の配信に野郎が映ってんじゃねぇよ!死ね!
色々なコメントが流れる中で、いわゆるアンチコメントってやつが俺の目に留まる。
まぁアンチというか、ユニコーンとか言われる女の子の配信に男は要らんって奴だっけか、詳しくは知らんけど。
どこの世界でもこういう奴は居るんだな。
つっても、どうしようもないんだよな……と俺は思っていた。
『ふむ……IDNO.tenjyoutengeYUIGAのコメントをした者をここに呼びましょうか』
『え?』
兄貴がそう言うと同時に、俺達と麗華と兄貴がいる間に、部屋着なんだろう、パジャマのように見える服を着た男がドスンと尻餅を着いて座った。
『あ、え? 俺、麗華様の配信見てたはずなのに……え!? 麗華様が目の前に!?』
【コメント】
:ど、どゆこと?
:視聴者が、いきなり呼ばれたってコト?
:えええええええ!?
コメント欄が更に凄い速度で流れる。
また、きょろきょろと周りを見渡したその男は、こちらに気付く様子がない。
そうか、この為の結界か。
恐らく、マジックミラーのようなものだ。
こちらからは中が見えるが、兄貴側からはこちらが見えないんだろう。
いや兄貴は見えてるだろうけど。
『さて、何故私が君をここに呼んだか分かりますか?』
『い、いえ……』
『それはね、私はこの世界の人間ではないと、麗華が紹介したと思いますが……君達など、私にとって道端の石ころと同じなのです。ですから、こういう事も平気でできます』
『え……? あ、あぁぁぁぁっ!? 俺の、腕が、な、無くなって……!?』
『フ……では戻しましょう』
『あぁぁ……あ? あ、ある、俺の腕がある!?』
『一応言っておきますが、手品ではありませんよ。では、私の気持ちを君達にも分かるように説明しましょう。君達は蟻が道を横切っていても、わざわざ踏んで行こうとは思わないでしょう? 機嫌が悪かったり、子供や動くものに興味を示す小動物であれば、手を出すかもしれませんが』
まぁ、そうだよな。
俺も蟻が道を歩いているからって、わざわざ踏もうなんて思わねぇし、むしろ踏まねぇように歩幅を変えて避けるかな、俺なら。
『ですがここで、蟻が人間の言葉を理解して、わざわざ死ねと言ってきた時。君達ならどうしますか? 普段なら何とも思わない蟻に、イラっと来るのではありませんか? 踏み潰してやろうかと思いませんか? 私が今行ったのは、それと同じ事ですよ。匿名性が故に、言いたい事を言う輩は注意しなさい。私は全てのIDから、全ての個人情報を調べる事が出来ます。ちなみに、今私に死ねと言ったこの男の名は佐藤 正一42歳。大阪府大阪市中央区大手前に住んでいるようですね。家族構成は父母姉の四人家族。姉はすでに結婚しているようですが……』
『ど、どうして、そこまで分か……』
『今君がすべきは、そんなどうでも良い疑問を解決する事ですか?』
『っ!! す、すみませんでしたっ……!』
『……フ、まぁ良いでしょう。ですが、次はありませんよ』
そう言って兄貴が指をパチンとならすと、その男は消えた。
静まり返るコメント欄に、兄貴が言う。
『戻りましたね、佐藤……いえ……IDNO.tenjyoutengeYUIGA。コメント欄でもう一度謝りなさい。事実だと他の者に周知させる為にね』
【コメント】
:は、はい! 申し訳ありませんでしたっ……二度と、あんなコメントは書きません!
:!?
:マジかよ……
『そうしなさい。死ねなど、気軽に言う事ではない。一応言っておきますが、会話をするなと言っているわけではありませんよ。普段の会話は存分にしてもらって構わない。だが……私の気分を害する者には容赦しない、それだけです。では麗華、続きを』
『は、はいロキさん。えーと、もう一度言いますが、ロキさんはこの世界の人ではありません。なので価値観というか、そういうのが少し、いえ大分ずれているので、そこら辺を理解してコメントを書き込んでね、本当に』
【コメント】
:わ、分かりましたっ!
:こえぇぇ……でもこれって、安心して会話できるとも言えるよな
:分かる
:だな、アンチコメでうざい奴、絶対書き込めねーじゃんこれ
:麗華様の配信にも一定数いるもんな
:企業ならそんなコメすぐに消してくれるけど、個人勢は大変だよな
:でもこの配信なら安心だな
:住所特定余裕で本人召喚されちまうしな
:ロキ様がいる配信って、コメント欄が一番荒れない配信になるのでは?
:ロキ様に質問ですっ! さっきの男の腕を消し飛ばして、一応再生? というか戻しましたけど、罪に問われたらどうするのですか!?
『えっとロキさん、こういう質問が来てますけど……』
『ふむ、この私を罰する事が出来る者が、この世界に存在しますかね? どれだけの金を積もうと、権力があろうと、法の力もこの私を止める抑止力になりえませんが。君達を普段守ってくれている力は、この私には通用しない。試してみたいならば構いませんよ。その代わり、賭けるチップは命になりますがね』
兄貴は至極当然のように話す。
そしてその言葉を否定するようなコメントは一切出なかった。
皆、この一瞬で理解した。
理解させられたのだ。
世の中には、自分の知識の範疇を超えた力を持つ存在が居るという事を。
兄貴は、この一瞬で麗華の視聴者全員を支配した。
その後、麗華の『ワイドランド』の説明は、スッと視聴者達に受け入れられた。
そんな中でも最初はやらせではないかというコメントが出たが、そのコメントをした奴がすぐさま呼ばれ、そいつは言葉を失った。
SNSで暴露系と呼ばれる配信者であった為、一部で人気がありチャンネル登録している者が多かったようだ。
本人がこれは一切のやらせの無い、真実だと伝えた事もあるが、恐らくこの配信は切り取られて拡散されるだろう。
俺達の目的は達成されたと言っていい。
『それじゃ、今日のゲリラ配信はこれくらいで終わるわ。最後に、ロキさん何かあります?』
『そうですね……。明日の全国ランキング戦に、エキストラ枠で参加した私の弟が出場します。この世界で私を倒せる者は誰一人として居ないでしょうが、私を唯一倒せるとしたら、私の弟くらいでしょうか。楽しみに観戦すると良い』
『ロキさん……。そ、それじゃ、今日はこれまで! 明日の大会、皆も見てね! バイバイ!』
【コメント】
:今回情報過多すぎなんだが……
:政府が今回の件で速報出してる
:そりゃそうなるよな
:次も絶対見るよ!
:ロキ様次も出てぇぇ!
:お疲れ様でした!
:ロキ様の弟様っ……絶対見なくちゃ!
時間にして一時間ちょっとだろうか。
麗華の配信は終わった。
「ロキさん、やりすぎです……」
心底げんなりした様子でそう言う麗華に、兄貴は微笑んで言った。
「ですが、上手くいったでしょう?」
「……はい……」
それ以上何も言えなくなった麗華に俺達は笑う。
一応、チャンネル登録者が更に増えて、1億までもう少しまで爆増したそうで、喜んではいたけどな。
というかこれ、俺が大会で言う必要なくなった気がすんだけど。