69.授業初日・午後のレストランにて
食卓に着く私達。
テーブルには全部同じ物が。
「……なんで、君達も同じの頼むかな」
昨日と同じ状態になった。
「そ、その、蓮華様、じゃなかった、蓮華さんと同じの食べたくなっちゃって……」
とミアさんが言って、他の二人も同意を示す。
まぁ、この話を続けても仕方ない。
私が一口食べると、皆も食べ始めた。
うん、美味しい。
「そういえば、三人は昔からの知り合いだったりするの?」
三人で声を掛けてきたので、気になってたんだよね。
「え、えぇと……私とユー君は昔からの幼馴染です」
「そそ、俺は子爵家でミアは男爵家なんだけど、親同士が仲良くてさ、子供の事から同じ学校に行ってたんですよ」
へぇ、幼馴染が女の子か、まるでギャルゲの主人公みたいじゃないか。
あれ、それじゃイシスさんは?
「私は、ミアさんが軽薄な男に見えるユリィさんに言い寄られている所を助けようとしたのですが……」
ああ、成程。
「えっと、子供の頃に?」
「あの演説の後に」
昨日かーい!!
「あはっ!あははっ!それじゃユリィ君は、ミアさんと話してたらイシスさんにナンパしてると勘違いされたんだ。うわ、凄い想像できる、ユリィ君チャラそうだもんね、あはははっ!」
お腹が痛い、なにそれ面白すぎるだろ。
しかも昨日とか何やってるんだ。
と笑っていたら、視線を集めていた。
げ、またやってしまったんだろうか?
「蓮華さん、そんな風に笑うんだ……すっごく可愛いです……!」
はぇ?ミアさん何て言ったの今。
「うぉ、やっべぇ。こんな近くでそんな純真な笑顔見せられたら、やっべぇって!心臓バクバクしてる音が聞こえんだけど……」
いや、ユリィ君も一体何言ってんの。
「蓮華様はまるで、本当の天使、いえ女神様のようですね……」
……。
「蓮華さん、そのトマトもらいっ!」
なんて言って、空気を読まずにアリス姉さんが取っていった。
人が固まっている間になんという事を。
ならば……。
「それじゃアリス姉さんの卵焼き一切れ貰うからね?」
と言ってアリス姉さんのお皿から卵焼きを一つ取って食べる。
「んー!甘くて美味しい」
思わず顔が綻んでしまう。
「にゃー!トマトとのレートが違うよ蓮華さーん!?」
慌てるアリス姉さんがおかしくて、笑ってしまった。
アリス姉さんも笑って、しょーがないなぁもうって言ってくれた。
そんな様子を見て、緊張も解けたのかな。
「ほんと、見た目と違って、蓮華さんって話しやすい方ですよね」
とミアさんが言ってきた。
見た目と違ってってなんだろう?
「それなミア。俺なんて、絶対話しかけられねぇって思ってたよ。周りの奴らも絶対同じだよ、ミアが凄いんだよ」
「そうですね、私もそれには同意します。私では、蓮華様に話しかけようと思えなかったでしょうから。私などが、話しかけて良い方ではないと、壁を作っていたでしょう」
え、えぇぇ……私、そんな近づきにくい顔してるの……?
とショックを受けていたら。
「あは!あははは!蓮華さん、その顔は絶対勘違いしてるね!?別に蓮華さんが怖いとか、とっつきにくそうとか、そういう意味じゃないよ!」
え?違うの?そう思って三人を見たら、コクコクと首を縦に振って肯定してくれた。
「えっと、なんていうか……蓮華さんは、神聖な方に見えるんです。私なんかが、話しかけても良いのかなって、思ってしまって」
ミアさんがそう言ってくれるけど……。
「いやいや、そんな存在じゃないよ私。家でも割とゴロゴロしてるよ?」
その言葉に吹き出すアリス姉さん。
「ぶふぅ!ちょ、蓮華さん、それを今言わないで!知ってる私からしたら、思い出して笑っちゃって食べれないでしょ!」
そんな事言われても。
「いや、アリス姉さんだって、私と同じようにゴロゴロしてたよね?」
「こ、こらぁ蓮華さん!乙女の秘密を気軽に言うものじゃないのー!」
「そうなの?」
「そうなのー!」
「「「あははははっ!!」」」
なんかいきなり笑われたので、アリス姉さんと揃って三人の方を向く。
「ははは!マジヤベーわ。蓮華さんにアリスティアさん、仲の良さがハンパねぇ」
「うんうん。それに、二人とも想像してたより、ずっとお話がし易くて……私、勇気を出して話しかけて良かった」
「ミアさん、感謝します。私だけだったなら、私はこの場に居れていませんでしたから」
なんて和気藹々と話す三人。
「ええと……それで、話を戻すよ?ユリィ君は勘違いされて、イシスさんに注意されたんだよね?」
「はい、十字架を頭から振り落としました」
うん、うん?今なんて言ったのこの人。
「え?十字架?」
「はい。人の背丈ほどの大きい十字架です。私はシスターになるつもりですので、常時携帯しております」
あれ、私の常識では、シスターってそんな職業じゃなかったような気が……。
いつから戦闘職になったんだろうか。
そう思って二人を見たら。
「あ、あの、多分イシスちゃんだけかと……」
「いや、どんなシスターだったらそんな凶器持ち歩くんだよ……」
うん、良かった。
ミアさんもユリィ君も私の見解と一緒だった。
「まぁ、流石にいきなり十字架で地面に叩き潰されるとか思ってなかったんだけどさ。その後ミアが説明してくれて、そのまま明日も一緒にって流れになったんだよな」
「うん、そうだね。イシスちゃんもまだ知り合いが居なかったみたいで、仲良くなれたの」
成程。
でもなんでナンパしてると思ったんだろう?
そう思っていたら、アリス姉さんが聞いてくれた。
「イシスちゃんは、どうしてユリィくんがミアちゃんをナンパしてると思ったの?」
「それは、ユリィさんがミアさんと言い争っていたので」
「いや、その……」
なんかユリィ君が言いずらそうにしている。
チラチラと私を見るのはなんでだろう。
「蓮華さん、ユー君が蓮華さん達の後を追おうって言ってきて、私が迷惑になるから止めとこうよって、喧嘩じゃないんですけど、言い争ってて……ユー君が私の手を取ろうとしたので、それをイシスちゃんが勘違いしちゃったみたいで……」
な、成程。
状況が面白いくらい明確にイメージできた。
「ってか、何気に蓮華さんも酷いですって。俺チャラそうに見えます?」
ぶはっ、ちゃんと聞かれてた。
「あはは、ごめんごめん」
「蓮華さんは悪くないですよー。ユー君がチャラそうなのは事実だと思うし……」
「はい、私もそう思います」
見事な援護攻撃に、沈むユリィ君。
「ぐっ……俺、そう見えてるのか……ただ、昔見てカッコイイと思った人の真似をしてるだけなのに……」
なんて言葉を拾った阿呆が一人。
「分かる、分かるぞーう!!」
と言って、私達の席に来る生徒会長こと、アーネスト。
「アーネスト、お前ホント突然だな」
「蓮華ある所俺ありだぜ!」
「何格好良く言ってんの。それの元の言葉、こんな場面で使う言葉じゃないからな?」
「はは、気にするなよ蓮華。物の例えじゃないか」
「はぁ、もう何も言わないけど、食券は取ってきたのか?」
「いや、まだだな」
「しょうがない奴だな……それじゃ皆、ちょっと席外すね。ほら、行くぞアーネスト」
「うぉっと!?引っ張るなよ蓮華!」
そう言ってアーネストを連れて食券機に行く私達。
いつもと変わらないアーネストに、つい笑ってしまう。
そんな私達を見送る視線に、私は気付いてなかった。
「蓮華さん、生徒会長とお話する時、なんていうか……」
「物凄く砕けた言葉遣いになられておりますね。それに、表情も……なんと言いますか、私達と話していた時とは違う、本当の笑顔と言うのでしょうか、そう感じました」
「ああ。凄いな、生徒会長。あの蓮華さんに、心から信じられてるんだな」
「ふふ、アーくんと蓮華さんは、本当に仲が良いからね」
そして、アーネストの食事を運んで元の場所へ。
私が選んだ食事はすでに赤くなっていて、選べなかった。
だから、アーネストがいつも選んでると言うメニューを見たんだげど、量が普通の2倍はあった。
「おかえりアーくん、蓮華さん。ってうわ!凄い量だねアーくん……」
「そうか?アリス、若いんだからこれくらい食わねぇと、昼から体力が持たねぇぜ!」
と会話する二人に、三人が委縮しているのを感じたので、フォローをいれる事にした。
「アーネスト、お前の事は新入生の皆知ってるけど、新入生の事はまだ知らないよな?」
「ん?ああ、そうだな。っと、わりぃ。蓮華とアリスに会えた嬉しさで怠っちまったな。もう知ってるだろうけど、蓮華とアリスの兄で、アーネスト=フォン=ユグドラシルだ。よろしくな」
そう笑顔で言うアーネスト。
おお、成長したなとか思っていたら、三人が自己紹介を始めた。
「あ、あの!私はミア、ミア=ウォルゲイナーと申します!よ、よろしくお願いいたします!」
「私はイシス=ロックバインです、よろしくお願い致します、アーネスト様」
「俺はユリィ。ユリィ=ジークヴァルトって言います。よろしくお願いします先輩」
「おう。蓮華やアリス共々、よろしくな」
「「「はいっ!」」」
三人共良い笑顔だった。
やっぱり普通は緊張するよね。
「っていうかアーネスト、それ本当に全部食べれるのか……?」
さっき2倍って言ったけど、本当に凄い量なのだ。
「なんだ、欲しいならやるぞ蓮華?ほれ」
と口の元に持ってくるアーネストに言う。
「い・ら・な・い・か・ら!それ食べたら、私は自分の残す事になってしまうだろ!」
「はは、蓮華はもっと食って良いと思うけどな!アリスだってしっかり食べてるだろ?」
「こらアーくん、そこは見て見ぬ振りするのが紳士でしょ!」
そういえば、割とアリス姉さんも食べてるんだよね。
私と同じのにプラスして、何品か食券取ってたし。
「ほらぁ、蓮華さんに食いしん坊って思われちゃったらアーくんのせいなんだからね!?」
「はは、いやごめんって。でも、蓮華がアリスのそんな所で嫌がるわけないじゃん?」
「それはそうなんだけど、イメージ変わっちゃうのを気にするのー!」
「え、アリス姉さんが結構食べるのは元から知ってるけど……」
「……うそぉ」
信じられないって顔してるけど、普段から一緒に生活してるのに、何故気付かないと思っていたのか。
そんな会話をしていたら、三人がまたポカーンと見ているのに気付く。
「どうしたの?」
聞いてみたら、氷から解けたように話してくれる。
「あ、その。蓮華さんって、私達と話す時は凄く丁寧にお話してくださるから、ちょっとギャップが凄くて……あ、悪い意味じゃないんです!」
「アリスティアさんも、アーネスト先輩もそうだけど、蓮華さんと話す時は凄く楽しそうでさ。見てて微笑ましいっつうか、なんていうか……」
「はい。とても穏やかな気持ちになれます」
なんて言ってくる。
いや、そんな事を言われても、なんて返したら良いんだ。
なんか顔に熱がこもるのを感じていたんだけど。
「あは、また蓮華さんが可愛くなってる」
「はは!蓮華、顔真っ赤だぞ!」
なんて二人がからかってくるので。
「ミアさん、イシスさん、ユリィ君、食べ終わったら一緒に周ろうか。この二人は置いて行って良いみたいだから」
と言ったら、慌てて謝ってくる二人が面白かった。
三人はまたも一瞬ポカーンとしたが、すぐに笑って了承してくれた。
うん、私にも友達ができたね。




