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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第一章 オーブ編

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6.VS厄災の獣

 目が覚める。

 今日は運命の日だ。


「アーネスト、起きてる?」


「ああ。蓮華も起きたか」


 少し離れたベッドだが、お互いに目線を合わせる。


「今日を、マーリン師匠にロキさんとの最後の日になんてしない。勝とうぜ、蓮華」


「ふふ、私のセリフだ。アーネスト、力、貸してくれ」


「おぅ、任せろ親友」


 二人笑いあい、1階へ降りる。

 すると、トントントンと、小気味良い包丁の音がする。



「「マーリン師匠、おはようございます」」


「あ、二人ともおはよう。今日は修行の日じゃないのに、早起きだね。ご飯、もう少しでできるからね」


 こんな日だというのに、マーリン師匠はいつも通りだ。

 いや、いつも通りにしようとしてくれているんだ。

 よく見れば、手が少し震えているのが見える。


「アーネスト」


「分かってる。蓮華、それでも……始まるギリギリまでは……」


「……うん」


 二人して、頷きあう。

 そう、始まるその時まで、いつもの毎日を繰り返す。

 そうして終わった後に、またいつも通りの明日を始める為に。


「おはようございますマーガリン師匠。それに二人も、おはよう」


「「おはようございますロキさん!」」


「私はマーリンだってばぁ……」


 相変わらず涙目のマーリン師匠に笑いが起こる。


「俺、相変わらず蓮華の事はなんとも思わないんだけどさ、時々マーリン師匠がすっげぇ可愛くて困るんだよな。間違っても手は出さないけどさ」


「当たり前だ。そんな事したら、私がいの一番にぶっ飛ばすからなアーネスト。あと私にものすっごい失礼だからな!」


 弟子二人の言葉に苦笑するマーガリンとロキであった。




「「「「ごちそうさまでした」」」」


 食事が終わる。

 楽しい時間だった。

 マーリン師匠と、ロキさんと、アーネストとの何気ない雑談。

 本当に楽しい時間だった。

 絶対に、明日も続けてみせる。

 そして、場所を移す。


「さて……アーちゃん、レンちゃん。覚悟は良いかな?」


「「……はいっ!」」


「良い返事だよ。ロキ、結界をお願いね」


「ええ。我が身命を賭して」


「「!!」」


 その言葉に、驚きを隠せない。

 ロキさんが言葉を続ける。


「アーネスト、蓮華。私の結界は、この事を外に知らせない為の結界です。それが何を意味するか、分かりますか?」


「「……」」


「例え貴方達が厄災の獣を倒しても、外の存在はそれを感知できません。まぁ出現も感知できないのですから、当たり前ですが」


「ごめんね、二人とも。厄災の獣を倒すなんて偉業、知られれば英雄だと言うのに……」


「そんな事どうでも良いですよ」


「アーネストに同じくです。名声なんていらない。ただ、大切な二人が生きられるなら、それ以上のものはいりません」


 そう、はっきり言いきる。

 二人は嬉しそうに顔を綻ばせる。


「この戦いが終わったら、一緒に街に買い物に行きましょうね」


「今回は私も付き合いますよマーガリン師匠」


「まぁ。人混み何て嫌いだって、いつも行ってくれないロキが、どういう風の吹き回し?」


「マーガリン師匠の為だけなら行く気もしませんが、可愛い二人の為なら構いませんよ」


「アーちゃん、レンちゃん、うちの一番弟子が酷いんだけど……」


「「あ、あはは……」」


 この二人の仲の良さはきっと私達以上だと思う。

 でも、ロキさんの気遣いを嬉しく思う。


「ロキさん、約束ですよ?破ったら私、嘘泣きでもなんでもして困らせますからね?」


「それは困りましたね。蓮華の泣き顔は少し見たい気もしますが、その後が怖すぎるので、破らない事を誓いますよ」


 と優しく微笑んでくれる。


「ふふ、素直じゃないんだからロキは。アーちゃん、レンちゃん、約束……守ってね」


 マーリン師匠も、悲しげながら、微笑んでくれる。

 この優しい二人を……絶対に死なせるものか。


「「はいっ!!」」


 覚悟を決めて、返事をする。

 すると突然。


 ドクンッ……ドクンッ……!


 まるで、心臓が間近にあるような鼓動が聞こえる。

 それも、すぐ傍から……。


ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!


 鼓動が早くなる。

 この音は、聞き間違いでなければ、マーリン師匠からっ……!

 近くにいたはずのロキさんは、いつのまにかいなくなっていた。

 きっと結界を張りに離れたのだろう。

 意識をマーリン師匠に向ける。


「くっ……ぁぁ……ぁぁぁっ……!」


 マーリン師匠がとても苦しそうに嘆く。


「「マーリン師匠!!」」


 思わず叫ぶ。

 叫んでしまう……。

 無駄だと思っても、叫び続ける。

 この声が、少しでもマーリン師匠の支えになればと願い。

 しかし、無情にも“ソレ”は、どす黒い闇となって零れ出す。


 ドサッ!


 マーリン師匠が地に伏せる。


「アーネスト!」


「分かってる!ここで戦ったらマーリン師匠が巻き込まれちまう、移動するぞ!」


 凄まじい速度で移動を開始する。

 だんだんと形どっていく大きな闇から、紫に光る眼が光る。

 その眼光は、しっかりと私を捉えていた。

 その姿は、巨大ではあるが、まるで狼のようだった。


「敵と認識された、かな。こうもはっきり殺意をぶつけられるとは思わなかったけど、場所を変えるって意味では好都合……ッ!」


 ドゴォォォン!


 自分の走る少し後ろに、巨大なクレーターが出来ていた。

 あと数秒遅ければ、直撃していただろうソレは、次も明確な殺意を持ってこちらを狙っている。

 厄災の獣の口が開く。

 その刹那。


 ドゴォォォン!


 また、巨大なクレーターが出来た。

 口が開いてから届くまでの時間が秒すらない。

 ありえない一撃に唖然とする。


「これが、厄災の獣か……確かに、とんでもない化け物だ。けど……」


「おおぉぉぉぉっ!!」


 ズバァッ!!


 アーネストの剣閃が、厄災の獣の体を断ち斬る。

 普通の長さの剣では厚い毛皮に覆われ届かないであろうその体も、アーネストの長剣であれば届いたのだ。


「敵は一人じゃないんだよ、獣さん」


 余裕そうに笑みを持って挑発する。

 私を狙うように。

 だが……突然厄災の獣が口を大きく開く。


「グルァァァァァッ!!」


 ビリビリビリビリッ……!!


 凄まじい咆哮に、空気が振動する。

 アーネストに斬られた体は、闇から現れた霧のようなものが覆い尽くし、その傷は消えていた。

 厄災の獣は、凄まじい速さでアーネストを叩き付けようと両手を振り回し、牙で噛み切ろうとする。


「チィッ……速いっ……!」


 その凄まじい速さの攻撃を、アーネストは避ける。

 魔術での身体強化をしているのであろうが、それでも振り回された手から風をきるような衝撃までは完全に避けられず、傷を積み重ねている。


「アーネスト!連携で行くぞ!」


「分かったっ!蓮華も遅れるなよっ!」


 動き回りながら、厄災の獣を斬りまくる。

 しかし、傷をつけた傍から黒い霧が覆い、治していく。


「なら、これならどうだ」


 刀を鞘にしまい、風の魔力を纏わせていく。


「喰らえっ!『地斬疾空牙』!』


 抜刀し、そこから生まれた凄まじい速度の風の刃が、魔力を圧縮して横一文字に飛んでいく。


 ザシュゥッ!!


「グルゥ!?」


 その風の刃は厄災の獣を通過点のように斬り、そのまま彼方へと飛んでいく。

 厄災の獣の体が上下二つに離れるが、すぐに黒い霧が覆い、体を繋ぎ合わせてしまう。


「うっそぉ……体が真っ二つになっても引っ付くとか……」


「あの霧をなんとかしないと、こっちの攻撃が通らないな。蓮華!少し離れて魔法を当ててくれ!」


「分かった!」


 言って離れる。

 厄災の獣が私を追おうとする。


「蓮華には近づけさせねぇよ!」


 とアーネストが防ぐ。


 十分に離れた私が魔法を繰り出すが……。


「『フレイムバレット』!『アイシクルジャベリン』!!」


 無詠唱で唱え、直撃させるが、傷はすぐに治癒される。

 黒い霧が多少薄くなったように見える。

 魔法は効いているのだろうと予測する。


 だが、それもすぐに元に戻る。

 この程度の魔法では効果が薄いのか。

 アーネストへの攻撃も激しさを増すばかりだ。

 もっと強力な魔法を撃てれば……でも、それを撃つには時間がかかる。

 アーネスト一人に任せるのか?その間に大きな傷を受けてしまったら……と焦りが生まれる。

 そんな事を考えていると……。


「蓮華!焦るな!俺なら大丈夫だ、でかいのをかましてやれ!!」


 アーネストからの言葉が届いた。

 そうだ、アーネストなら、耐えられる。

 私が信じなくて、誰が信じるのだ。

 今も懸命に攻撃を凌いでくれている親友に、心の中で礼を言う。


「アーネスト!3分だ!3分耐えてくれ!私の中にある全魔力、それを全てぶつけてやる!」


「了解だ!耐えてみせる、任せろ蓮華!!」


 そんな、頼もしいセリフを聞いた。

 悩む必要もない。

 私は全魔力回路を開く。

 両手を空へ。

 掌へ魔力を集中させていく。


 ギュゥゥゥゥゥン……!!


 魔力が収束していく。

 私の体の中に巡っている全ての魔力が、掲げた掌へ集まっていく。

 もっと、もっと、もっと!

 どんどん集め、収束していく。


「グ、グル!?」


 厄災の獣が、そのあまりの莫大な魔力に気が付いた。

 目の前のアーネストを無視し、私のもとへ来ようとする。

 だが、そんな事は不可能だ。

 私は信じて疑わない。

 そう、あいつが、アーネストが、任せろと言ったのだから。


「行かせるかよ犬コロがぁぁぁぁぁっ!!」


 ズババババババババッ!!


 凄まじい速度で斬り刻む。

 もはや私ではアーネストの動きが目で追えなかった。

 あれは、あの力はきっと、自身の限界を超えて引き出している力だ。

 魔術の使用回数を重ね掛けする事で、効果を数倍に高める事ができると聞いた。

 伝導率が最高レベルのアーネストは、使用回数の限度が凄く多いらしい。


 そんなアーネストだからこそできる、重ね掛け。

 それを限界まで使用しているんだろう。

 例え自身の魔力を使う行為でなくても、自身の体へマナを繋ぐ以上、どうしても負担はかかる。

 それを重ね掛けだ、その負担は尋常じゃないはずだ。


 そんなの、すぐに分かる。

 傷を受けていないはずの場所から、血が出ているのだから。

 そして、そうまでして、私を助けようとしてくれている。

 いや、私だけじゃない、マーリン師匠とロキさんを、助けようとしているのだ。

 己の限界を超えて。

 そんな姿を見て、力が入らないわけがない。


「集まれ、集まれ……!私の、世界樹の魔力よ!その全ての魔力を、今この時に!」


 凄まじい魔力が収束していく。


 ゴヂゴヂゴヂゴヂッ……!


 空間が軋み、悲鳴をあげている。

 この圧倒的な魔力量に、力場が歪んでいる。

 厄災の獣が、一瞬怯んだのを私は見逃さなかった。


「いっけぇぇぇ!『ヘル・カタストロフィ』!!」


 ドオオオオオオオオオオッ!!


「ギャァァオオオオオオンッ!!」


 凄まじい魔力の渦が厄災の獣を包む。

 その炎は、厄災の獣を包んでいた闇を全て燃やし尽くし、炎は留まる事を知らず、その体をも焼き尽くす。

 その姿を目に焼き付けていた。

 気が付けば、アーネストが隣に居た。


「やったな、蓮華」


 その言葉に、安堵した表情で答える。


「だな。体中の魔力を使い切ったから、戦闘時間は大した事ないのに、クタクタだよ」


「ハハ、それは俺のセリフだっての。もう腕が上がらねぇもん。今日は飯食えねぇよこれ……」


 お互いに笑いあう。

 そう、厄災の獣を、倒せたのだ。


 ……炎が消えた先に、3つの丸い球が転がっているのを発見した。


「なんだこれ?」


 アーネストが手に取る。

 私も触れてみる。

 すると突然。


 フワァァァァ……!


「「!?」」


 いきなり輝きだした。


「な、何これ!?」


 タッ


 振り向けば、ロキさんが立っていた。

 その瞳には、初めて見る涙を浮かべていた。


「ロキ、さん?」


 口元を震わせ、ロキさんが言う。


「まったく、貴方達は自分のした事の凄さを、本当に理解していないんでしょうね……」


 そう言った後、私達二人を抱きしめた。


「「!?」」


 突然の事に驚き立ち竦む私達に。


「ありがとう……ありがとう。私は、これでようやく……」


 後半は何を言っているのか聞き取れなかったけれど、ロキさんが喜んでいるようだから、良しとした。

 そして、マーリン師匠をロキさんと一緒に家へ運び、今日はそのまま寝る事になった。

 さっきの球の事も、明日マーリン師匠に聞く事にした。

 ロキさんは知っているようだったけれど、


「明日マーガリン師匠から聞くと良いでしょう、今日は休みなさい」


 と言われては、無理強いもできなかった。

 そして、夜が明ける。

 終わってみればすぐだったけれど、初の強敵との戦いを終えた高揚感が私を包んでいた。

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― 新着の感想 ―
アーネスト、蓮華よくやったでござるな! ロキ殿良かったでござる…(´;ω;`) マーリン師匠ーーー!!!
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