698.蓮華side63
「蓮華様、まずは感謝を。魔物の共存できる世界……このラースでも諦めはしませんが、人間や他種族に無条件で襲われる事のない世界への移住を、俺の代で叶うなんて……本当に、ありがとうございます……」
目に涙を浮かべ、それでも私の目を見て、感謝を伝えるニガキ君。
ニガキ君には、この世界に来てお世話になった魔物達が居ると聞いている。
その方達の元へ、話をしに行きたいとの事だ。
私が行くと話が大きくなるだろうし、ここはドライアドに一緒についていってもらう事にしよう。
その魔物達はドライアドを信仰していると聞いたからね。
受け入れやすくなるだろう。勿論、強制はしないように伝えてある。
待つ事少し、嬉しそうなニガキ君の表情から、上手くいったんだと察した。
それから意思ある魔物達だけでなく、魔者達についても話し合い、望む者はその世界で暮らす事になった。
ただ、魔者達については全員行くとはならなかった。
というのも、ニガキ君はラースに残る。
ニガキ君に懐いている魔者達は、ニガキ君の元に残る事を選んだ者が多かった。
これにはニガキ君自身も驚いていたけれど、笑顔でありがとうと言っていた。
ちなみにサスちゃんは人とあまり会いたくないそうで、自分の世界へと戻っていて、私の傍にはアデルが居る。
ニガキ君とも普通に話せたし、これからの相互間での支援も約束した。
アデルの世界にあったマグマ地帯は完全には無くさず、一部の箇所でそのままにしておいた。
というのも、高熱地帯での生存を好む魔物だって居ると思ったからだ。
その想像は当たっていて、アーネストがレッドと名付けたレッドドラゴン等、マグマ帯の近くを好んで居ついたから。
アデルの世界を大きく分けて3つに区分し、氷河地帯と灼熱地帯、そして恒温地帯とそれぞれの魔物達が住みやすい環境で整える事にした。
対比としては1対1対2の大きさで。
流石に一番多く住むであろう恒温地帯が狭いのではないかと思ったけれど、その恒温地帯が尋常じゃない広さなので問題ないと思う。
恒温地帯だけで、ラースの地上くらいの広さなので。
魔物や魔者達の楽園の世界になるだろうと思う。
そしてこの世界に住む魔物や魔者達は、言葉を話せる。
なら、人間とそう変わらない文化圏を築く事が出来るんじゃないかと思う。
それが何年かかるかは、分からないけれど。
「ありがとう存じます、蓮華様」
「アデル」
「このアタクシの願いを聞き届けてくれた事、忘れませんわ。そして……これはオフレコで頼みたいのですが、あのサイサリスを助けて頂けた事も、友として感謝しております」
そう頭を下げるアデルに、私は苦笑する。
良い友達じゃないか、サスちゃん。
「アデル、私はヴィシュヌを倒すつもりなんだ。だから……」
「では、協力致しますわ」
「え?」
「ヴィシュヌには魔神将の他に、四聖天と呼ばれる強力なガーディアンが居ますの。その相手を、アタクシとサイサリスで受け持ちましょう。正直に言えば、魔神将の中でも一、二を争う強さを持つアタクシとサイサリスとはいえ、全員を抑える事は厳しいですが……」
「アデル……。良いの? とは聞かないよ。なら、この『アンブロシアの実』を食べておいて。これを食べれば、ヴィシュヌに身体を乗っ取られる事がなくなるから」
「!! 成程……時々、意識を失う時がありましたが、そう言う事ですか……ありがとう存じまず蓮華様。このアタクシ、魔神将アーデルハイト。蓮華様の為ならば全ての力をお貸し致しますわ」
奇麗なカーテシーを見せるアデルは、貴族令嬢みたいだなって思う。
ひょんな事から、強力な仲間を得たのかもしれないね。
「そうだ、サスちゃんの世界に、まずは二人、呼びたいと思ってるんだ」
「あのサイサリスの世界に、ですか? サイサリスは嫌がりそうですが……」
「あはは、うん。サスちゃんもそう言っていたけど、少ないのなら大丈夫って言ってくれて」
「あのサイサリスが……流石は蓮華様ですわね」
「そこでそんな言葉が出るって事は、筋金入りの人見知りみたいだね……」
「はい……敵対している相手とは、仮面を被ってもう一つの人格を作って話していると言っておりましたわ」
「あー……」
思い当たる節はある。
最初に出会った時、何かこう、借りものめいた話し方だったから。
「私はこのまま、連れてこようと思うんだ。だからアデルは、サスちゃんの方に行って、伝えておいてくれる?」
「畏まりましたわ。それでは蓮華様、お先に失礼致しますわね」
そう言って、アデルは消えた。
うーん、力の底が全然見えないし、アデルは滅茶苦茶強そうだ。
とりあえず、行くとしよう。
あの最強の姉妹の力を借りに、ね。