697.蓮華side62
「ほーら羊さん達、アタクシの方に来るのですわー! ってコラァ!? スカートを食うんじゃねぇですわよ!?」
「あひゃひゃひゃっ! こしょばい、こしょばいデス!? フンフン息を吹きかけるなデス!?」
ユグドラシル領の動物達に『ポータル』を自分から通るように誘導しているところなんだけど……この二人、異様に動物達に好かれてるんだよね。
今も羊のような、ヤギのような白いモコモコした動物に、囲まれてしまっている。
サスちゃんは狼達にも好かれていたし、さもありなん。
しかしアデルもそうだとは予想外。
「二人なら物理的に剥がせるんじゃ……?」
「それは、そうなんですけれど……その、アタクシの力で触ったら、見るも無残な姿にしてしまいそうで……」
「ウチも、そんな感じデス……」
そう言って、自分から触れないように震えていた。
なんだこの二人、優しすぎか。
というかサスちゃんは狼達を普通にブラッシングまでしてたでしょうに。
あれか、アリス姉さんのような感じなんだろうか。
アリス姉さんも最初は私にしか手加減出来なかったんだよね。
「だからスカートの先を食うんじゃねぇですわよー!?」
「ギャー! ウチの服が食われるデスー!?」
「……」
絶対的強者の二人が、爪もないようなペンギンに襲われているかのような不思議空間に迷い込んだ気分に。
「ほらほら皆、あっちへ行こうね。あの青い光がある場所へ、ね?」
「「「「「メェー」」」」」
ぽんぽんと背中を叩いてあげたら、二人から離れて歩みを再会してくれた。
「た、助かりましたわ蓮華様……」
「助かったデス蓮華様。普通の動物って、弱そうで触れないんデスよ……」
しゃがみ込みながらそう言う二人に、クスッと笑ってしまったのを許して欲しい。
ユグドラシル領に住んでいる動物達は、普通の動物達と比べてかなり強靭な肉体してるけど、そういう事じゃないんだよね。
二人が動物達の事を気遣ってくれている事が嬉しかった。
この二人との関係はまだ浅いけれど、十分にその人柄を知る事が出来た気がする。
「どうかされましたか蓮華様?」
「ウチら、何かしてしまったデスか!?」
「あはは。ううん、二人は良い子だなって思って」
「「!?」」
本気で驚いた顔をする二人に、また笑ってしまった。
魔神将って位についてる二人の力は、多分私が想像するよりも大きな力を有しているんだろうし。
そしてふと、思い出した。
確か、ミレニアのお父さん……アンジェラス=トリスティア=リーニュムジュータス、通称アンジェさんは……魔神将と呼ばれていなかっただろうか。
魔界での爵位は地上とほぼ変わらなかったはずで、力の強い魔族ほど爵位が上だったはずで、大公爵位が確かベリアルという方だったらしいけど、大戦で居なくなり、唯一魔王であるリンスレットさんを除けば公爵位が最高だったはず。
そこに、魔神将なんて位は存在しない。
だというのに、アンジェさんは爵位ではなく、魔神将と呼ばれていた。
そこが気になったので、聞いてみる事にした。
「えっと……二人に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「あら、蓮華様なら何でもお聞きになってくださいまし!」
「ウチも、知ってる事ならなんでも話しますデス」
「ありがとう。二人が魔神将っていう特別な位についてる事は聞いたけれど、その中でアンジェラスって名前は聞いた事ある……?」
「ああ、あの時の番人ですわね」
「あー」
二人はアンジェさんの事を知ってる!?
「サイサリスやアタクシの次くらいには強かったのではなくて?」
「クヒヒッ……最初に殺りあった時は、そうだったかな」
あのアンジェさんより、この二人の方が強いんだ!?
私はアンジェさんを兄さん程とまでは言わないけれど、それくらい強者枠だと認識していた。
あのミレニアのお父さんでもあるわけだし。
いや、この考え方がおかしいのであって、そもそもが……
「あれ、もしかして二人って滅茶苦茶強かったりする……?」
「「……」」
二人が一瞬、ポカーンとした表情をした後、
「「あははははっ!!」」
物凄い笑い出した。心底おかしそうに。
「あははっ。もう、蓮華様もおかしなことを仰るのですね。このアタクシやサイサリスの力でしたら、並みの神族程度デコピン一発で殺せましてよ」
「ウチら、圧倒的な力を持つ種族、魔神と呼ばれる者達の将デスから。弱者に、この位は授けられないデス」
成程……この感覚に陥っている全ての原因は兄さんとサスちゃんのせいだと思うのだけれど、ここは黙っておく事にしよう。
気持ちを切り替えていこう。
「それじゃ、引き続きサスちゃんの世界へ移住させよっか。あ、そうだ。ドライアドー」
「はぁーい、れんげちゃん、来たよぉ」
「「!?」」
「ありがとドライアド。えっとね、別の世界に木々を植えたいんだけど……ドライアドの力を貸してもらっても良いかな?」
「もちろんー。れんげちゃんの頼みなら良いよー。ウンディーネのように、私も子を創るねー? ほいー」
「ポー!」
「「「!!」」」
地面から、サボテンと埴輪を足して2で割ったような、そんな精霊が生えてきた。
「この子を、その世界に連れてってあげてねー。後はこの子が増やしていってくれるよー」
「ポー!」
「そっか、ありがとうドライアド。えっと、この子もどうせなら名前を付けてあげよっか。ミニディーネはミーネにしたし、ドライアドだからドドにしよっか」
「ポー!」
同じ声だけど、ちょっと嬉しそうに聞こえた。
「ふふ、この子も喜んでるよーれんげちゃん。でも、ウンディーネの子がミーネなら、私の子はミードじゃないのー?」
「それもちょっと考えたけど、なんか肉みたいで嫌じゃない?」
「「ブフッ……」」
アデルとサスちゃんが口元を抑えながら横を向いている。
そんな吹くような事じゃないでしょ!
「相変わらずれんげちゃんは独特な感性してるねー。私もウンディーネみたいに愛称で呼ばれたいなー」
「うーん、ドライアドはドライアドがすでに愛称みたいな呼び名だと思ってるんだよね」
「そっかー。れんげちゃんがそう思ってくれてるなら、それで良いかなー」
なんというか、ドライアドの話し方と優しい声が、心を本当に落ち着けてくれて……木の精霊なんだなぁって感じる。
いや大精霊なんだけれども。
そうしてサスちゃんの世界へ動物達を移住させ、ドライアドから貰った植物の種を植えてドドちゃんに広げて貰った。
「ふあぁ……ウチの世界じゃないみたい……」
「綺麗ですわー」
サスちゃんは目をウルウルさせているし、アデルも感心しているようだ。
「それじゃ、次はアデルの世界だね。アデルの世界も、サスちゃんと同じような世界なら良いの?」
「その、アタクシは……文明が欲しいですわ」
「つまり、人が生活してる世界が良いって事?」
「そう、ですわね。けれど、人に限定しなくても構いませんわ」
「人に限定しなくても良い、か。……それなら、当てがあるよ?」
「「え?」」
そう、ニガキ君は魔物との共存に命を賭けていた。
魔者という魔物とは似て非なる存在を創り上げた第一人者。
彼に協力を頼もうと思う。