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694.アーネストside65

「いらっしゃいませー! 空いてるお席にどうぞー!」

「お、来たな! こっちこっち!」


 定員さんの元気な声を聞いた後、剛史が先に席に座っていたようで、手を振っているのを見つける。


「お、おいあれ麗華様じゃないか!?」

「ホントだ!? うわ、サインとか貰えないかな!?」

「ちょっと待て。配信は……してねぇな。って事はオフだから、絡んだらマズイ。ガチ勢に殺されるぞ」

「ひぇっ」

「あのイケメン二人誰!? 大会出場者なの!?」

「私今日王将来てよかった……」



 席に向かってる途中で色々と聞こえる。

 本人達は小さい声で言っているのだろうが、この身体に覚醒してから、やたらと声が拾えちまうんだよな。

 地獄耳ってこういう事を言うんじゃねぇかな。


「なぁ麗華、お前ってもしかしてSNSで配信とかしてんの?」


 席に座りながら、聞こえた事を尋ねて見ると、麗華はドヤ顔で言った。


「フフン、これを見て師匠」


 そう言いながらスマホの画面を見せてくる。

 画面には、麗華のアドレスらしきものと、フォロー数とフォロワー数が表示されていた。

 フォロー数は数十しかないのに対して、フォロワー数がいち、じゅう、ひゃく、せん……数千万だった。


「これでもSNS界隈で有名なのよ師匠。私が紹介した商品とか飛ぶように売れるから、企業から何件も案件くるもの」

「へぇ、すげぇんだな」

「むぅ、なんか師匠の反応が薄い」


 不満げな麗華に苦笑していると、シュウヤが笑いながら話しだした。


「はははっ! 仕方ねぇよ。アーネストはそのフォロワー数だっけか? それ億超えてるし、アーネスト自身がラースじゃ社長だしよ」

「んなっ!? み、見せて師匠!!」


 いきなり体を寄せてくる麗華に、しょうがなくスマホのTWITTERアカウントを起動して渡す。

 このアカウントはユグドラシル社の企業広告用として、俺以外もログイン出来るようにしたから、俺はほとんどログインしてなかった。

 久しぶりに見たら、フォロワー数がとんでもない事になっていた。


「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……7500億ぅ!? ……その、インフルエンサーとか調子にのってすいませんでした……」

「「「「ぶふっ」」」」


 お前らのその吹き出しはどっちに対するものなのか、深くは聞くまい。


「あー、そのな。これは俺個人のアカウントってわけじゃなくてな、ラースの全国に支部があるユグドラシル社の公式アカウントでもあんだよ。そもそも、神島とラースじゃ分母がちげぇから。神島には人間しか居ねぇだろ? 人種の差はあっても、全員人間なはずだ。けど、ラースは違うんだ。だから比較してもしょうがねぇんだよ」

「師匠……」

「おお、アーネストがフォローしてるぞミライ」

「珍しいねお兄ちゃん」


 この兄妹が!


「あの、ご注文宜しいですか……?」

「「「「「!!」」」」」


 店員さんが所在なさげに立っていた。

 完全に身内のノリだから、声を掛けずらかった事だろう、申し訳ねぇ。


「俺は王将ラーメンに餃子、後はチャーハンで」

「おお、王道だなアーネスト。俺はこってりラーメンと餃子、あと焼きそばのソースで!」

「俺もシュウヤと同じで良いかな」

「えーと、俺は王将ラーメン大盛りで」

「ん? 清田そんだけで良いのか? 育ち盛りなんだから、もっと食えって!」

「いつもラーメン一杯でお腹いっぱいになるんで……」

「そうなのか、小食だな……。兄貴は?」

「そうですね……では私は日替わり定食にしておきましょう」

「おお、兄貴手堅いな」

「フフ、本当はアーネストと同じでも良かったのですがね。アーネストはよく食べますし、足りなければ私の分をあげましょう」

「いやいや!? 飯屋なんだから追加するっての!」


 という感じで男連中の注文が終わったわけだが、その後で俺は絶句する事になった。


「それじゃ定員さん、私はにんにくゼロ生姜餃子と鶏の唐揚、海老の天ぷらと肉シューマイ。それから野菜たっぷり担々麺に、杏仁豆腐と完熟マンゴープリンで」

「「「「「!?」」」」」

「私も麗華さんと同じので!」

「「「「「同じの!?」」」」」

「か、畏まりました。復唱致しますね。王将ラーメンがお一つ、餃子が……」


 凄まじい量を頼む麗華に唖然としていたら、まさかのミライも同じ物を注文した。


「お、お前ら食べきれんのそれ……?」

「? 当たり前じゃない師匠。ねぇミライちゃん」

「はいっ! 楽しみだな~♪」


 その細い体のどこにそんだけ入るんだ?

 そう思って見ていたら、


「あら意外ね。師匠でも私の体に興味ある?」

「そういうんじゃねぇよ」

「そうよね。師匠からはなんていうか、男特有のそういう視線を感じないもの」

「なんだ、そういう視線って」


 いや、なんとなくは分かるけどよ。


「ほら、ナンパとかする男は、結局はその子といやらしい事したいからするわけじゃない?」

「そうかもな」


 俺はナンパなんてした事がねぇから、する奴の気持ちは想像しか出来ないが。


「別にナンパする男が悪いって言ってるわけじゃないのよ。お互いが良いなら良いわけだし。断ってるのにしつこい男は論外だけど、行動する点では行動しない男より評価できるもの。行動しない男って、結局は自分に自信が無いからしないんでしょうし。強さ、権力、見た目、何でも良いけれど、何かに自信があれば行動に出るでしょう」

「「「「「……」」」」」


 麗華の言葉を全員黙って聞く。定員まで復唱を止めて聞いてるんだが。


「その点、師匠はおかしいのよね。強さ、権力、お金、そして見た目に性格。どれを取っても超優良物件の女の子なんて選り取り見取り。多分師匠がナンパしたら99%成功するわよ。なのに、師匠からはいやらしい視線を感じないというか、性欲が一切感じられないのよね。それって、前言ってた……人間……に関係する?」


 ここには俺達だけじゃなく、定員までいる事に配慮したのか、言葉を濁す麗華に苦笑する。

 まぁ俺はこの世界は出ていく予定だし、聞かれても問題ない。


「そう、かもしれねぇな。……俺はさ、誰かと一緒になっても、絶対に後を看取る事になる」

「「「「「!!」」」」」

「それが、怖いんだよ。皆、俺より先に逝っちまうんだ。俺が誰かを愛したとして、そいつが亡くなる時……俺は笑って見送れる自信がねぇんだ。だから、かもな……要は、俺の精神が弱いってこった」

「「「「「……」」」」」


 皆が無言になる。しまったな、飯屋にきて何を重い話してんだ俺は。

 話を変えねぇとな、と思ったら、麗華が続けた言葉に……俺は心が晴れた気分になった。


「それは弱さじゃないわ。誰だってそうだもの。だから、子をすんじゃない」

「!?」

「自分と愛した人の子を育てれば良いじゃない。愛した人は、いつかは亡くなるかもしれない。だけど、その子がまた誰かと恋に落ちて、一緒になって、また子が生まれて……そうやって、人間は生きてきたのよ。師匠が死なないなら、子を見守れば良いじゃない。血は薄れていくかもしれないけれど、先祖返りだってあるんだし、自分の愛した人の面影が強い子だって生まれるかもしれない。だから師匠、愛する事を恐れないで欲しいわ。じゃないと、私にチャンスがない」

「お前、良い話だったんだよ途中まで!」

「ぶははっ! アーネスト、その悩みは俺達には理解してやれないかもしれねぇけど……きっと、俺達もお前より先に死んじまうしな。でもよ……今を生きてんだ俺達は。今を、大事にしたら良いじゃねぇか。そんでよ、時間が経ったふとした時によ、今日のような日の事を思い出してよ。感慨にふけるのも乙なもんだと思うぜ!」

「剛史……」

「フ……アーネスト、良い友人達を持ちましたね」

「兄貴……ああ。ちょっと恥ずかしいけどな」


 本当に、良い奴らに恵まれたと思う。


「そういえば、蓮華さんも同じなんですか?」

「あ、それは気になるな! そこんとこどうなんだよアーネスト!」


 ミライにシュウヤがここぞとばかりに聞いてくるが、答えられる事は決まっている。


「あー、あいつは誰とも付き合うつもり無いって公言してるからな」

「「そんなっ……」」


 シュウヤと剛史がこの世の終わりのような顔をしているが、あいつは誰かと付き合うつもりがあったとしても、お前達は絶対に選ばないと思うぞ。


「それはその、師匠のような理由で?」

「ああいや、あいつの場合は多分……自分の子が産めないから、だろうな」

「「「「「!!」」」」」


 本当は違う、端的に言えば心が男だからだと思うが、そんな事は言えないので、もっともらしい事を言ったら、皆の表情が滅茶苦茶暗くなった。


「ごめんなさい、師匠。気軽に聞いて良い内容じゃなかった……本当にごめんなさい……」

「ぐぅぅ……あの蓮華さんに、そんな辛い事実が……」

「あんなに完璧な人に、どうしてそんな……」


 ……なんだ、一瞬にしてお通夜みたいな雰囲気に変わったんだが。

 どうすりゃ良いんだよこれ。助けてくれ蓮華。


「あ、あの、復唱終わりますけど、以上でよろしいですか?」

「オッケーだ、なるはやで頼むわ!」

「は、はい! 畏まりました!」


 天の助けとばかりに定員に応対する。

 まったく復唱は聞いていなかったが。


 それから注文した飯が届くまでなんとも重い空気のままだったが、順次届く飯のお陰で、ようやく空気が和らいだ。

 

「うんまぁーい! やっぱ王将ラーメンはうめぇな!」

「おい剛史、餃子につけるタレ混ぜ過ぎじゃね?」

「これが美味いんだって! アーネストもたまにはタレつけて食って見ろって!」

「俺は素で良いんだよ」

「師匠、王将ラーメン少し小皿に頂戴。担々麵少しあげるから」

「あ、私も!」

「おい、そんなに担々麵はいらねぇんだよ。ミライは別のにしろ」

「それじゃ鶏の唐揚とかどうです? ちょっと齧ってますけど」

「なんで食いかけを寄こそうとするんだよ!」

「(すげぇなアーネスト、間接キッスとか考えもしねぇんだろうなシュウヤ)」

「(ああ、しかも女性陣から言ってるからな。剛史、俺達は清く生きようぜ)」

「(おう。あれ、目に塩水が)」


 シュウヤと剛史が阿呆な事を言っているのも丸聞こえなわけだが、間接キスねぇ。

 流石にもうなんとも思わねぇわ。

 こんなんだから蓮華に枯れてるって言われんだろうか。

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