693.アーネストside64
「ねぇあの人超ヤバくない?」
「ヤバすぎ。モデルさんかな? 芸能人、ではないよね?」
「見た事ない。あんなカッコイイ人居たら絶対忘れない」
「「「分かる」」」
一体なんの騒ぎだ?
そう思いながら清田と階段の方へ向かおうとすると、
「アーネスト!」
ザワッ
この声は兄貴か?
そう思って振り向いたら、案の定兄貴だった。
「兄貴、もしかして待っててくれたのか?」
「ええ。アーネストが居ないのに、部屋に居ても仕方がないですからね」
「「「「「ギャァァァァァッ!!」」」」」
兄貴がフッと笑ったら悲鳴が聞こえた。
周りを見渡すと、なんか気絶しそうになってる女の子がチラホラと居て、横の子にもたれかかっていた。
「グッ……ちょっと待って、あの人もすんごいイケメンじゃない……?」
「目が、目が癒される……なんなのあの空間、神聖すぎて近寄れない……」
「ここが桃源郷だったのね……」
「あ、今私を見たっ……ふぅっ……」
「ちょっ!? 危ないから気絶しないでっ……!」
……そうか、兄貴と、こんな事今までの俺ではなかったけど、俺に見られて意識を失う子が出ているようだ。
うそやんって思うが……実際に見た以上な……。
「フ……アーネストを見て気を失う者は中々に見所がある」
「「「「「ギャァァァァァッ!!」」」」」
「いや、兄貴を見ての方が多いからな確実に。何の騒ぎかと思ったじゃねぇか。それより、兄貴は飯食った? 昼前だしさ、飯に行かねぇ?」
「ええ、勿論良いですよ」
「あの、アーネスト先輩。俺、ここに居ても良いんですかね……」
「アホな事言ってんじゃねぇよ。ダチなんだから当たり前だろ。清田も腹減ったろ? なんか食いたいもんとかあるか?」
「あ、はいっ! 俺ラーメンが食いたいです!」
「おおラーメンか、それも良いな! なら昼はラーメンにすっか!」
ラーメンは俺も大好物だ。むしろ嫌いな奴なんて居るだろうか?
ただ、ここら辺の地理を俺は知らねぇんだよなぁ。
「この周辺だとあそことあそこね、皆、散るわよ」
「「「了解」」」
気のせいか、少し人が減ったか?
それはともかく、兄貴に清田と一緒にホテルの外へと出てすぐに、剛史とシュウヤに出会った。
「お、アーネストに清田! 帰って来たんだな!」
「ロキさんもこんにちは! 三人でどっか行くのかアーネスト?」
「ああ。丁度昼時だし、飯でも食いに行こうと思ってさ」
「おっ! なら俺らも行って良いか? コンビニで済ますかってシュウヤと話してたとこでよ」
「ラーメンにするつもりだけど、良いか?」
「「もちっ!」」
「ははっ。兄貴、は聞くまでも無いとして、清田も良いか?」
「勿論ですよ! 皆さんなら大歓迎というか、俺こそ場違いだと思ってるので……」
「「???」」
清田の言葉に、剛史とシュウヤは頭にクエッションマークを浮かべているのがよく分かる。
「おっしゃ! なら俺が案内するぜ!」
「おわっ!? 剛史先輩!?」
「午前中に周辺のマップを剛史と見てたからよ、大体で把握してんぜ!」
剛史が清田の肩に腕を回し、先頭を連れ歩く形になった。
シュウヤはそれに続き、清田の頭をわしわしと撫でる。
そうして移動していると、通行人が兄貴や俺を見て固まる。
「ああ、こういう事か清田……」
「今なら分かるわ、あのセリフの意味が……」
「ですよね……」
認識阻害の魔法を使う方が良かったかもしれないが、明日に全国放映される身だ。
前日に居たという証拠にもなるしと、使わなかったのが裏目に出たか。
「師匠に皆、どこに行くの?」
「お兄ちゃん! またアーネストに迷惑掛けてるんじゃないでしょうね!?」
「麗華にミライか、珍しい組み合わせだな? 俺達は飯にしようと思ってさ」
「彩香ちゃんは蓮二さんの所に行ったし、リオさんはアニメグッズを見に行きたいのでっ! って言って、一人で行っちゃって」
「はは、リオらしいな」
「師匠達、今ちょっとSNSで話題になってたわ。達というか、師匠とロキさんがだけど」
「超絶イケメン二人が降臨! って写真撮られてるよ?」
「誰だ勝手に人の写真上げてる奴は」
肖像権やプライバシー権どこいった。
この世界にあるのか知らんけど、俺の元居た世界基準で創られた世界なら、あるだろ。
「まぁ、有名税と思って諦めるしかないわね師匠。私も結構撮られてSNSに上げられるもの」
「麗華はしょうがねぇかもしれねぇけど、俺はこの世界では有名人でもなんでもねぇはずなんだけどな?」
ラースではともかく。ユグドラシル家の息子だから、そっちでは有名だけどさ。あと社長としてもか。
この神島では一部でしかまだなんもしてねぇ。
「その見た目じゃ仕方ないわ師匠。漫画やアニメの世界から飛び出して来たかのような見た目だもの。正直私も友人である事を自慢したいわ」
「その感覚は理解できるような、自分がいざその対象になるとめんどくせぇような、不思議な感覚だぜ」
「アーネスト、多分もうすぐそこだぜ? ほら、看板見えてるぜ!」
剛史が指さしたそこには、餃子の王将と書かれた看板がデカデカとあった。
懐かしいな。前の世界では仕事帰りとかに頻繁に通ってたぜ。
「あの看板見ると自然と腹減るわ」
「分かるぜ! はやく行こうぜ!」
「ああ! そんじゃ麗華、ミライ、また後でな!」
「待って待って。私達もご飯まだなの。ご一緒したらダメ?」
「お兄ちゃん、アーネスト。お兄ちゃんとアーネストは可愛い女の子二人を放って、ご飯に行くような薄情な人じゃないよね?」
「いや良いけどよ、ラーメンだぞ?」
女の子って、ラーメンとか嫌がるんじゃねぇの?
「女の子だってラーメン好きよ。ある程度親しくなるまでは、行かないだけで」
「そうそう。お兄ちゃんやアーネストに今更猫被っても仕方ないし」
「あの、俺達も居るんですけど」
「郷田君や春盛君に、よく見られたいって気持ちないもーん」
「右に同じ」
「「……」」
ショボーンとする二人に苦笑する。
安心しろ、俺やシュウヤも同じ意味だ。
「兄貴も居るぜ?」
なので意趣返しにそう聞いてやったが、
「ロキさんはもう次元が違うし、私達なんてその辺の雑草でしょ?」
「そうそう。ロキさんから見たら、私達の差なんてどうでも良いだろうし」
「フ……」
二人が言うのに、笑う兄貴。
明確に答えてないけど、もうその態度が答えだ。
「というわけで、数少ない私達が女の子で居なくても良い存在達なわけよ」
「気軽にラーメンも食べられるよー♪」
「分かった、分かったよ。結構な人数になったし、テーブルだと無理か? 座敷の方にするしかねぇな」
「よし剛史、先に走って行って順番取ってきて頂戴!」
「人使い荒ぇな麗華!? っても、この時間だと混んでそうだもんな。よし、ひとっ走り行ってくるわアーネスト!」
「なら俺の方が速いし、俺が……」
「お前に行かせるとか後がこえぇこと出来るかっ! 良いからゆっくり歩いてこいって! そんじゃ行ってくる!」
「あ、おい剛史!? 行っちまった」
シュウヤに清田が苦笑しながら歩き出したので、俺達もそれに倣う。
ラーメンか、久しぶりだな。
蓮華もしばらく食べてないはずだし、あいつともまた来たいなと考えながら、王将へと向かった。