692.アーネストside63
全国ランキング戦の開始前日に俺と清田はユグドラシル領に戻ってきた。
神島は47の島国であり、各島は海で離れている。
通行は橋と船があるが、『ワイドランド』から魔物が流れ込んできたら、恐らく各島は孤立する。
まず橋はすぐに落とされるだろうし、海に特化した魔物が海を占領するだろう。
スキルの中には海の中や海の上で戦えるものもあるだろうが、各島のランキング上位勢の実力がなければ焼け石に水だろう。
突出した力を持つ者に対しては、数はあまり意味を為さないが……実力にそこまでの差がないのなら、数は力だ。
孤立した島の中でも、優勢になる島とそうでない島は必ず出てくる。
劣勢になった島を救援に行ける人が必要だ。
そう考えた俺は、清田のスキルに目をつけた。
レベルが上がるまでは6体しか召喚できなかった清田だが、今では数百体まで召喚出来るようになっている。
その多くがユグドラシル領で長い年月を過ごした特殊個体達で、並みの人間では歯がたたない実力を持っている。
蓮華に懐いていた恐竜がいたが、そいつの仲間も数体召喚出来るようになったしな。
そして今回清田のスキルで召喚出来るようにするのはドラゴンだ。
空を飛ぶ種族は限られる。
それに強さまで求めるなら、やはりドラゴンが一番だろう。
幸い、俺には龍の知り合いが居た。
何を隠そう、ヴィクトリアス学園の学園長だ。
ドラゴンを数体欲しいって言ったら、複製してくれるならいくらでもと言われたんだよな。
複製、つまりドラゴンの本体ではなく、コピーした存在を捕獲するって事になる。
人間で言ったらクローンとか、ホムンクルスみたいなもんだろうか?
まぁ複製の魔法も物なら簡単なんだが、生物に対しての場合は本人の意思が重要だったりする。
本人が嫌がれば複製は失敗する。
そんなわけで、学園長に生息地域を聞いた俺は、清田と共にそこへと向かった。
でかい図体のドラゴンがどうやって暮らしているのかと思ったら、そこには普通の人達が暮らしていて驚いた。
ドラゴニュートと言って、人型を取れるドラゴンなのだとか。
普段は人の姿で生きているが、戦いとなればドラゴンの姿へと戻って戦うのだそうだ。
「おお、貴方がシオン様の仰っていたアーネスト様ですね。お話は伺っております。我々ドラゴニュート一同、力になれるのでしたら喜んで」
そう言って跪く彼らに、清田はオロオロしていたが、仲間にするのにそれは良くねぇよな。
つーわけで、背中をバシッと叩いて気合を入れた。
それから腕利きのドラゴニュート47名の複製の許可を取り、清田の召喚獣として登録をさせてもらった。
「あの、アーネスト先輩」
「どうした清田?」
おずおずと、申し訳なさそうな顔をして声を掛けてくる。
「その……正直、龍人族の方々を俺のスキルで、複製した存在とはいえ召喚するのは気が引けて……」
「ああ、気にすんなって言っても、気にするよな。なら、この戦いまでだ」
「え?」
「こいつらに力を貸してもらうのは、この神島を守る為の戦いの間だけ。召喚ってのは、その場に居なくても手伝ってもらえる凄い力だ。その力を神島を守る為に使う。今回だけの特別な力。それでどうだ?」
「あ……。はいっ!」
清田の顔が笑顔になった。
そうだよな。単純なドラゴンじゃなく、人の姿をしている事もあるし……抵抗がやはりあるんだろう。
それでなくても清田はまだ中学生だ。
まだまだ子供なのに、大人の勝手な理由で利用しようとしているんだ。
これは俺が悪いな。
「すまねぇな清田。お前の心情を慮ってやれてなかった」
そう言って頭を下げると、清田は慌てて言った。
「!! ち、違いますよ! アーネスト先輩は何も悪くないですっ! 俺だって、ヤマトを守る為の力があるのなら、力になりたいんです! そ、それに、上手くいけば玉田さんが惚れ直してくれるかもしれないし……」
「ははっ……!」
思わず笑ってしまった。
清田の純粋な皆を守りたいという気持ちと、誰にでもあるちょっとした下心を聞いて、少し俺の心も軽くなった。
「とりあえず、大会はそのまま見ていて大丈夫だ。『ワイドランド』もまだ動きが無いってブリランテも言ってたしな」
大会終了の一週間後に、攻めてくる事は決まっているが、それを言うわけにはいかねぇからな。
「分かりました! 今年は出場者に知り合いも居ますし、何より前大会の優勝者や上位の人達と知り合いになれて、不謹慎かもしれないですけど、めっちゃ興奮してます!」
「はは、良いんじゃねぇか。祭りは祭りで楽しまねぇとな?」
「はいっ!」
午前はこうして過ぎていき、午後になる前にホテルへと戻った。
なにやらホテルのフロント付近がざわざわとしているが、何かあったんだろうか?