689.蓮華side60
「ホアァァァァッ!? れ、蓮華様マジパナイッ! ウチ、蓮華様マジリスペクトするしっ」
「うん、少し落ち着こうかサスちゃん。何を言ってるのか半分も理解できないからね」
拠点に着いたら、サスちゃんが狼達の毛並みを櫛で梳いてあげていたようで、狼達は犬のようにコロンとお腹を仰向けで寝転がっていた。
ゆっくりと近づいて、お腹を撫でると、
「あおん♪」
「オワッ!? れ、蓮華様ァッ!?」
狼達は匂いか何かで私の事に気が付いていたようだけど、サスちゃんは全く気付いていなかった。
それで良いのか魔神将。
と内心突っ込んでいて思い出したので、ついでなので聞いてみた。
「そいえばサスちゃん、サスちゃんは魔神将って言ってたよね?」
「アッ、ハイ。その、ヴィシュヌ様に特別な強化をしてもらって、その強化に耐えられた者はその位を授かったデス」
「へえ~……ちなみに、何人くらいいるの?」
「えっと……ウチが知る限りでは六神いますデス。あ、ウチ含めてなので、後五神デスね」
「成程……。つまり、サスちゃんより強いのが後残り五神と……」
「ち、違いマスよ!? ウチ、これでも魔神将の中で一、二を争う強さなんデスよ!?」
「あー、うんうん」
「絶対信じてないやつデスよね!? ウチこれでも本当に強いんデスよぉ……!」
滅茶苦茶涙目になってそう言うサスちゃんが可愛い。
いけない、私にSっ気はないはずなのに、何故かサスちゃんを虐めたくなってしまう。
被虐体質か何かだったりするのだろうかサスちゃん。
「うぅ……ウチ、強いから蓮華様の情報をアクエリアスから貰えたんですよぅ……」
「そういえば、アクエリアスってその魔神将って位じゃなかったよね?」
「デスね。アクエリアスは四聖天の位デス。四聖天はヴィシュヌ様直属というより、四聖天をまとめるリーダー、メシア様の部隊デスから。直属なのは変わらないデスけど、四聖天はメシア様の命令を重視する違いがあるデス」
「成程ね……。という事は、まだ見ぬ強敵があと八神はいるって事か」
「そうなりますケド……うーん、多分蓮華様の相手が出来るのは、ヴィシュヌ様かメシア様くらいだと思うデスよ」
「ヴィシュヌは分かるけど、メシアって神はそこまで強いの?」
「……ハイ。ウチの感じる力の差がどこまであるか分かりませんケド……ヴィシュヌ様とメシア様だと、やはりヴィシュヌ様の方が強いとは思うデス……」
ヴィシュヌの底知れない強さは、あの時感じた。
そしてその側近に、その強さに及ばないまでも、近い強さを持つ者が居る。
それはとても有益な情報だった。
「ありがとうサスちゃん」
「はぇっ?」
「サスちゃんにとって、言い方は悪いけど、仲間を売るような情報だったでしょ?」
「仲間……デスか。ウチ達は……仲間なんかじゃないデスよ」
「え?」
「仲間と呼べるのは多分、四聖天達だけだと思いますデス。ウチらは……互いに干渉しようとしませんから」
「……そっか。今後、私と居るって事は、その魔神将達を倒さなきゃならないと思う。だから、サスちゃんはここに居て良いからね」
「え?」
今度の「え?」は、サスちゃんから。
驚いた顔をするサスちゃんに、続ける。
「サスちゃんにとって、それでもやっぱり、言葉を交わした事のある知人でしょ? 私は、私達は……敵に容赦はしない。それがこちらの世界を侵食して、今を生きる皆を殺してしまうような奴らなら、なおさらね」
「……」
サスちゃんは俯いて黙ってしまった。
伝えないといけない事は伝えたし、返事は元より求めていない。
それから外に出て、ディーネから教えてもらった力を解放し、この世界の水を綺麗な水へと変えた。
そして冒頭に戻るというわけだ。
「それじゃミニディーネ、は長いね。うーん、ミーネにしよう。ミーネ、後はよろしくね」
「!!」
言葉は話せないようだけど、おでこに手をやって敬礼するミーネが可愛い。
そのまま川の中に入って行った。
「凄い、凄いデス。水が透き通ってるデス! の、飲んでみても良いデスか!?」
「あはは。うん、どうぞ」
本来、川の水は直接飲むのは危険だけど。
今の川の水は真の意味でとても綺麗なので。
「ンクッンクッ……プハァッ! おいしい、蓮華様、これ滅茶苦茶おいしいれす……!」
「そっか、良かったねサスちゃん」
「ハイッ! ベイビー達、おいでっ!」
「「「「「ワゥン!!」」」」」
もはや犬と言われても納得の(大きさは比較にならないけど)狼達が、サスちゃんの前で全員伏せをする。
「この水、飲んでごらん?」
「「「「「わふん?(水?)」」」」」
あれ、気のせいじゃなければ、鳴き声の中身が聞こえた気がした。
これが水? って感じの。
「そうだよ。これが本当の水なんだ。ほら、飲んでベイビー達。美味しいよ」
そうして、またサスちゃんが飲むのを見た狼達は、川の中へと口を近づけ、舌を出して飲み始める。
「「「「「わふーん!!」」」」」
「ふふ、美味しいよね。ウチらが今まで飲んでた水と全然違うよね。これはね、この蓮華様が変えてくれたんだよベイビー達」
「「「「「わふん!」」」」」
おおう、狼達が全員、私に対して伏せをした。
なんというか、この狼達はサスちゃんの言葉を全て理解していると思う。
「それじゃサスちゃん、次は動物達を少しこの場所に移そうと思うんだけど……狼達に、これから連れてくる動物達を襲わないように注意できたり、できるかな?」
「大丈夫デス。ウチの狼達は、ウチが取ってきた食料以外食べないデス」
「そっか」
それはそれで大丈夫なんだろうかと思わなくもないけれど。
その、野性的に。
まぁペットも飼い主がずっと餌をあげるし、そんなものかな?
「それじゃサスちゃん、ユグドラシル領に居る動植物を一部に移すから、手伝ってくれる?」
「勿論デス! 何でも言ってくださいデス!」
そうして私はまたラースへと『ポータル』を繋ぐ。
繋いだ先は、紫色の世界だったが。
「ここは……」
「気を付けてくだサイ、蓮華様。ここは、『ワイドランド』デス」
「!!」
兄さんにあまり使わないようにとは言われていたけれど、まさか世界間移動の『ポータル』にまで介入してくるとは思わなかった。
「ヴィシュヌかっ!」
問うも、返事はない。
周りを見渡しても、生物が生きているような環境ではない。
何故なら地面は灼熱で、マグマが覆いつくしている。
空は紫色で、太陽の光なんてものはない。
さて、どうしたものかな。