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686.蓮華side57

「で、ですから、この島はウチのペット達を放し飼いにしててですねっ……クヒヒッ……その、出来ればで良いんですけれど、お情けを頂けないかなぁ、なんて……クヒッ……」


 ピエロの恰好をしたサイサリスこと、サスちゃんは手をゴマゴマスリスリしながら、兄さんに言う。

 私が居ない間に、兄さんは何をしたら、あの最初の威厳たっぷりの強者感を出していたサスちゃんが、モブみたいになるのだろうか。


「どうしますか、蓮華?」

「え? えーと、サスちゃん」

「ハイッ!」


 兄さんにするように、再びビシッと敬礼するサスちゃんに苦笑する。



「ペットっていうのは、どういう?」

「クヒヒッ……ではご覧にいれましょう! カモーン! ベイビーズゥッ!」

「「「「「ワォォォォォォンッ!!」」」」」


 サスちゃんが指をパチンと鳴らすと、地響きが聞こえたと思ったら、凄まじい数の狼達がやってきた。


「よしよし、クヒヒッ。良い子にしてたかぁい?」

「「「「「クゥゥン♪」」」」」


 サスちゃんが頭を撫でると、凄い勢いで尻尾がビタンビタンと地面を叩く。

 これは凄い懐かれようだ。


「クヒッ。餌を持ってきたからねぇ、いつもの所に出しとくから、食べにいきな」

「「「「「ワォォォォォォンッ!!」」」」」


 サスちゃんが手を指した先に、山のように高く積まれた……魔物の死体だろうか。

 急に現れたその場所へ、狼達は駆けて行く。


「えっと、今のがペット?」

「ですですぅ。ウチの可愛いペットでして、この島で飼ってるんですよぅ。その、この島……他の生物とか居なくて……ウチが食べ物持ってこないと、こいつら死んじゃうし……」


 くっ……狼達の為に、サスちゃんは魔物を食料として……!

 サスちゃん、良い子じゃないか……!


「兄さん」

「なんです?」

「ここに、ユグドラシル領の動物達をある程度住ませたら、生きていけると思う?」

「そうですね……繁殖力の高い動物達をしばらく襲わせず、と仮定するなら、可能だとは思いますが」

「そっか! サスちゃん!」

「は、ハイッ!」

「この島、色んな動物達が生きれる環境にしても良い?」

「そ、それは願ったり叶ったりなんですけどぉ……その、無理だと思いますよぉ? ウチの狼達以外、絶滅してしまったんでぇ……」


 つまり、最初はこの狼達以外にも生物は居たって事か。

 でも、狼達以外はこの島に適応出来なくて、死んでしまったと。

 何が原因なんだろう? そう思って周りを見渡す。

 ……うん、明らかにこれだ。


「水が緑色なんだけど。紫とかならまだ毒だなーって気がするけど、緑色とは?」

「微生物が目に見えるサイズにまで大きくなり、変色しているようですね」

「こんな水飲んで平気なの、さっきの狼達」

「ウチの狼達は、全員『状態異常無効』スキル持ちですからぁ」


 成程、それで絶滅しなかったのか。

 私達もこの島を拠点に使うなら、まずは人間が住める環境を作らなければ。


「よし、まずはここを『地球』並みの環境にしよう。ディーネ! ……あれ? ディーネ?」


 おかしい。いつもならすぐに来てくれるディーネが、反応しない。


「蓮華、この世界は他の世界と隔離されているようです。他の世界からの影響を受けず、また影響させる事も出来ない、そんな世界のようですね」

「!!」

「クヒヒッ。だからこそ、ここを選んだのでぇ。数少ない、『零位』の世界なんですぅ」


 よく分からないけど、成程。だから『ラース』の世界に存在する大精霊達を呼べないと。

 試しにスマホを確認したら、電波マークが消えている。

 マナを受信している間は絶対に消えないマークなのに。

 つまり、この世界ではスマホも使えないのか。


「兄さん。この世界に居る間、他の世界と連絡が取れないって事だよね?」

「そうなりますね。ただ、それも一度この世界を認識させれば大丈夫でしょう」

「そっか、なら一安心かな。でもディーネの力を借りれないのは痛いなぁ……この水を正常にしてもらいたかったんだけど……」

「蓮華ならできるでしょう」

「え?」

「忘れましたか? 蓮華は今、精霊王なのですよ。精霊達の司る力、その全てを蓮華は自身のマナで扱う事が出来るのですよ」

「「!?」」


 何故かサスちゃんも驚いていたけど、驚いた。

 アリス姉さん、そういう大事な事はきちんと説明してくれませんか!


「使い方を私が教えてあげる事は出来ませんので、一度戻ってから大精霊に確認すると良いでしょう。ひとまず、環境を変えるのは後にして……拠点を作る事にしましょうか」

「そうだね。そうしよう!」


 兄さんの言葉に頷き、まずは拠点。

 私達が一時的にでも暮らせる場所を作る事にする。


「兄さん、ここに大きな家を創って貰っても良いかな?」

「蓮華。私が創るのは勿論構いませんが……今回は、蓮華が創ってみませんか?」

「え? 私が、創れるの?」

「ええ。大丈夫、失敗しても構いませんよ。何度でもやり直せばいい。私が都度、教えてあげましょう」

「兄さん……うん、なら私がやってみるよ!」


 兄さんはいつも、私が成長できるようにやんわりと導いてくれる。

 きっと、任せても兄さんはやってくれるけど。

 でも私が自分でやりたがる事を理解してくれてて、先に提案してくれる。

 優しい笑顔でこちらを見てくれる兄さんに照れながら、魔法で創る家を想像する。


 元の世界だと、拠点を作るなんてとても大変だ。

 まず材料が必要だし、知識や作業する技術、力だって要る。

 マンパワーというか、沢山の人達の力が必要になってくる。


 だけど魔法は、それらを全て一気に可能にしてくれる。

 まさしく『魔法』だ。


 異世界に来て、魔法で火を放ったり水を放ったりする事よりも、こういった元の世界でも出来た事を、簡単に魔法で完成させられる事にこそ、驚かされる。

 むしろ魔法がない世界を知っているからこそ、こういった事で喜んでしまうのだろうけれど。

 これが当たり前なら、何も感じないんだろうし。


 細部もイメージしながら、拠点を創造魔法で創る。

 とりあえず出来たそれは、拠点と呼ぶには少々……いや、控えめに言ってもダメなやつ。

 部屋を区切る壁が無いし、外の見た目は完璧なのに、中に入ると変な所に支柱があったり、色々と問題点が一目で分かる。


「どうやら作りたい所が多すぎて、イメージがごっちゃになっている印象ですね」

「うぐぅ……」


 がっくりと肩を落とす私の横で、サスちゃんは口をあんぐりと開けていた。


「そ、創造魔法……蓮華さん、いえ蓮華様は、創造神様でぇ?」

「え? いや違うけど……うん? 違わないのかな? ユグドラシルの化身だしなぁ」

「ケヒィッ!? ゆ、ユグドラシルって、あの!? う、ウチ、とんでもない方と敵対してたんじゃ?」

「安心しろ。お前は敵になる前に敗北しただろう」

「ははぁ! その通りでございますぅっ!」


 全力で土下座するサスちゃんに、ピエロの恰好のせいで笑ってしまう。

 けど、一つだけ確認しておかなくちゃいけない。


「ねぇサスちゃん」

「ハイッ! なんなりとお聞きください蓮華様!」

「サスちゃんは、ヴィシュヌが新たな命令を出してきたら、どうする?」

「……無視します」

「え」

「ヴィシュヌ様って基本放任主義ですしぃ。ウチらも創られたっスけどぉ、忠誠心とか特にないですしぃ。ウチの家族の……あ、いや、ペットの狼達を救ってくれそうな蓮華様の方が、ウチ好きですしぃ」


 よし、この子は完全に味方に引き入れよう、そうしよう。

 そう考えながら兄さんを見たら、微笑しながら頷いてくれた。

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