680.アーネストside57
「おおぉぉっ!」
「フッ……!」
ネセルとアクエリアスの扱う漆黒の剣がぶつかり合う。
俺の連撃を防ぎ、払い、攻撃に転換する。
「『クリムゾン・ブラッドセイバー』」
「くっ! 当たるかよっ!」
蓮華の『地斬疾空牙』や、俺の『二刀疾空・連装牙』のような飛ぶ衝撃波の技だ。
黒い三日月のような形をした衝撃波は、消えずに空へと飛んで行った。
「闇の慟哭を聞くが良い……『クリムゾン・ネクロスフィア』」
「チィッ……!」
跳躍して避けた場所に、闇の海が覆う。
あのまま受けていたら、飲み込まれていたな。
アクエリアスは剣技と魔法のどちらも超高レベルで扱う。
俺は母さんの力を継いだとはいえ、まだ魔法は蓮華程扱えるわけじゃないし、扱うつもりもない。
「行くぜぇっ!『鳳凰天空牙』!」
「!!」
跳躍からのアクエリアスへ向けての突進技だ。
全身に炎の魔力を纏わせてそのまま突撃する!
「フ……!」
「っ! 連携技!」
「何っ!?」
「『緋凰絶炎翔』!」
「がぁぁっ!?」
上空からの一撃をアクエリアスは剣の向きを変えて避けたが、俺はそのまま地面を蹴りアクエリアスへと突っ込んだ。
アクエリアスも防御したものの、耐え切れずに吹き飛んだ。
「ふぅ、今のは効いただろっ!」
「ああ。痛かったぞ。お返しだ」
「何っ!?」
「深淵なる極限の闇よ『ファイナリティ・デッドエンド』」
「ぐああぁぁぁぁっ!!」
何をされたのか見えなかった。
いつの間にか後ろに居たアクエリアスからの凄まじい威力の一撃。
地面を転がった俺は、よろよろと立ち上がる。
「ハァッ……ハァッ……すげぇな、なんだ今のは。死ぬかと思ったぜ」
「フ……私の最強の一撃を受けても意識を失わなかったのは褒めてやろうアーネスト。死なぬよう加減したとはいえ、な」
強い。分かってた事だが、それでもそう思わずにはいられない。
だが、負けられない。
負ける事は許されない。
俺は、絶対に蓮華を裏切らない。
だから、必ず勝つ!
「!! どうやら、もう一度……今度は手加減をせずに放つしかなさそうだな」
「アクエリアス。これは俺の奥の手だ。まだ蓮華にも見せた事はねぇ。なんせ、覚えたのが少し前でな」
「……」
「お前は興味ねぇかもしんねぇが……俺はさ、少し前に本当の俺になれたんだよ」
「……」
「これがっ……俺の本気の力だっ……うおぉぉぉぉぉぉっ……!」
「!! 眩いな。その光、私の闇で消してやろう、アーネスト!」
「行くぜぇっ!」
「行くぞっ!」
ネセルから放たれる力は闇。
対して俺から放たれる力は光。
そしてそこに、純然たる魔力の塊である原初回廊に溜めていた力を融合させる。
ここまでであれば、蓮華も真似出来る。
だが、ここから俺の『オーラ』を更に組み合わせる。
『オーラ』と魔力はその性質から相性が悪い。
それを組み合わせるのは蓮華にすら扱う事の出来ない力だ。
俺という人間の魂と体に、母さんという神の体と魔力を組み合わせ、普段から慣らしていったからこそ可能な力。
「終わりだ、アーネストッ! 深淵なる極限の闇よ、光を閉ざせっ!『ファイナリティ・デッドエンド』!」
「これが俺の、全力だぁぁぁっ! 光よ、闇を打ち払えぇぇっ!『天魔神覇・極光閃』!!」
アクエリアスが放つ極限の闇を、極光で埋め尽くす。
「ば、馬鹿なっ……こんな、ことがっ!? がぁぁぁぁぁっ!!」
力のぶつかり合いを制したのは俺だった。
漆黒のドレスがボロボロになり、地面に横たわるアクエリアスを、息を整えながら見下ろす。
こいつは間違いなく強敵だった。
俺の本気の一撃でなければ、勝てなかっただろう。
ネセルを持つのすら重く感じる程に、力を使った。
「ぐっ……くっ……」
「!!」
地面に手をつきながら、剣を突き刺し、それを支えに立ち上がる。
「素晴らしい、力だ、アーネスト」
「お前もなアクエリアス。この力を使わないと勝てないと思った」
「フ……騎士に、二言は無い。我が身、我が忠義、お前に捧げよう、アーネスト」
そう言って剣を胸の前に掲げ、目を瞑るアクエリアス。
「あ、あー。その、なんだ。仲間ってのはそういう意味じゃなくてだな……」
「?」
「普通にダチってか……互いの為に力を貸し合える関係っつうの?」
「?」
ダメだ、きょとんとしているアクエリアスになんて説明したら分かって貰えるか分からねぇ。
「では、私の為に力を貸しても貰えるという事か?」
「!! そう、それだよ! 俺が力を貸して欲しい時にお前は力を貸してくれたら嬉しい。勿論強制じゃない。それに、お前が困ってるなら、俺も力を貸す。それが仲間ってもんだろ?」
「……。……そうか。ならばアーネスト。少し、私の話を聞いて貰えるだろうか?」
「ああ、勿論だぜ。俺も聞きたい事は沢山あるしな。でもそれより先にする事がある」
「なんだ?」
「このボロボロになった場所、直さねぇと」
「……分かった」
少し不服そうだったけど、素直に従ってくれるのがおかしくて笑ってしまった。
それを見たアクエリアスが、更に不服そうな顔になったけどな。