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679.EXside5

 私はヴィシュヌ様によって創られた、ヴィシュヌ様直属の軍団長の一人、四聖天アクエリアス。

 ヴィシュヌ様曰く、私はある世界のある人物の主人格をベースに創造したのだそうだ。

 その為、生まれた時から持っていた価値観が他の者と違った。

 他の四聖天のうち、二人は私と同じように創られたと聞いている。


 四聖天の長、メシアを除いて。


「ふふ、私の事が気になりますかアクエリアス」

「それは、な。私のベースとなった人格故かは分からないが」


 以前、一度聞いた事がある。四聖天は全員家族であり、姉妹でもある。

 だが、メシアだけは創造で創られた存在ではなく、ヴィシュヌ様の腹心として力を貸す存在だと。


「四聖天としての私ではなく……妹として、姉さんの事が聞きたくなった」

「……そうですか。結界を……これで、例え誰であろうと盗み聞きは出来ません。アクエリアス、私は、ヴィシュヌ様に……ヴィシュヌに人質を取られています」

「!?」

「ヴィシュヌを(そそのか)し、貴女達という存在を創って頂きました。来たるべき時の為に」

「分かった。私は妹として、姉さんに力を貸す」

「詳しく聞かないのですか?」

「関係ない。創造主であるヴィシュヌ様には騎士として忠誠を誓ってはいる。だが、私のベースの人格がな、騎士道よりも人道を優先しろと言うんだ」

「ふふ、そうですか。他の姉妹にも、いずれ話はするつもりでした。ですが、時が来るまでは一切そんな素振りを見せてはいけませんよ。ヴィシュヌは大胆不敵ですが、些細な事も見逃さない機微も併せ持っています。捕らわれたデュナミス様を解放する為には……力が必要なのです」


 デュナミス、それが姉さんの敬愛する存在である事はすぐに分かった。

 あのいつも冷徹な表情をしている姉さんの顔が、優しい表情に変わったからだ。


「では、私は世界を『ワイドランド』が飲み込む際に、有能な存在がいれば引き入れる事にしよう」

「!! 危険な役割ですが、任せても構いませんか? 私はあまり動く事が出来ませんし、そういった事はあの二人には無理でしょうからね」

「構わない。意志が強く、心に芯のある者。そして強者である事。また、圧倒的な善性を持つ者。それらを満たした者を誘おう」

「お願いしますね、アクエリアス。けれど、無理はしなくて構いません。どの道、時間は掛かると思っていますからね」

「分かった、約束する」


 その会話をしてから、どれ程の時が経っただろう。

 『ワイドランド』の他の世界の侵食は留まる所を知らず、次々と融合していく。

 中には有能な者も居た。

 強者と呼べる者も居た。

 善性を持つ者も数多く居た。


 だが、どれもハズレだった。私が魅力を感じる程の者は居なかった。

 どいつもこいつも、何かが足りない者達ばかりだった。

 時が経ち、姉さんとの約束も遠い昔になってきた頃。

 出会った。

 一目見て感じた光。

 魂の輝きを見た。


「ここが神島か。取り込むにはやや小さな世界だが……」


 ヴィシュヌの命により、今度はこの世界と融合させに来た。

 一目見て感じた。こいつだ、と。


「お前達がこの神島の神々だな。私はヴィシュヌ様配下、《ゲート・オブ・ヘヴン》四聖天が一人、アクエリアスだ」


 私が名乗りを上げると、即座に返事が返って来た。

 どうやらこちらの事を知っているようだ。


「ヴィシュヌ……お前が『ワイドランド』の幹部って事か!」


 この女から凄まじい神聖を感じる。だが……違う。

 こいつは神だ。

 だが、私が感じたのはこの女ではない。


「そうだ。此度は様子見のつもりだったが……強いな、貴様。私と戦え」


 そう言って手にした剣を向ける。


「良いぜ、相手してやるよ」

「アーネスト!?」

「手を出すなよ蓮華。こいつのお眼鏡に叶ったのは俺みてぇだからな」


 ふむ、アーネストと言うのか。良い名だ。

 騎士に相応しい。私はそう感じた。

 いかんな。初めて会ったというのに、私はすでにこいつに惹かれている。


「フフ、感謝するぞ。今一度名乗ろう、私はヴィシュヌ様配下、《ゲート・オブ・ヘヴン》四聖天が一人、アクエリアス」

「俺はアーネスト。アーネスト=フォン=ユグドラシルだ」

「ではアーネスト、勝負だ!」


 それから『ゲート』は使わずに戦ってみたが……合格だった。

 この強さ、間違いなく私達四聖天に並ぶ。

 ならばもう一段階上、真の神の領域での戦いを仕掛けてみようと思った。

 だが結果は……残念だった。


「どうやらアーネスト、お前はまだそこに至っていないようだな。それでは、私には勝てない」

「!! ぐぁぁぁっ!」


 アーネストは『ゲート』を使えない。

 それが分かった。

 ならば……少し指導してやるか、と思った。

 これほどの者だ、少し時間を掛ければ身につけるかもしれない。

 それから少し手解きをしてから、『ワイドランド』へと帰ってきた。


 城の通路を歩いていると、姉さんと出会った。

 珍しい事だ。

 軽く会釈をして通り過ごそうとしたのだが……


「アクエリアス、今浸食を進めている世界に……約束を」

「!?」


 そう言って何事も無かったかのように通り過ぎる姉さん。

 姉さんの一言。

 それを私は正面から受け取る事にした。

 その夜、手紙を送る。

 私はあいつを仲間に引き入れる事に決めた。

 なに、『ゲート』が使えない事など些細な事だ。

 あいつならば身につけられる、そんな直感が働いた。


 そうして翌日、同じ世界へと足を運んだ。

 柄にもなく心臓の鼓動が聞こえる程に緊張しているのがおかしかった。


 もう一度出会ったアーネストは、全てが変わっていた。

 あれから短時間しか経っていないというのに、魂の輝きがより強くなっていた。

 素晴らしい。

 これほどまでに自身を変えられる者が居るとは。

 仲間に引き入れたい気持ちは強く、そして強者であるアーネストとの戦いをより強く望んでしまう。

 これは私のベースとなった人格のせいだろうか。

 そんな事を考えていたのだが、アーネストから突拍子もない事を言われ、虚をつかれた形となった。


「俺がこの戦いに勝ったら、お前は俺の仲間になれ」

「……。……何を言っている?」


 それは、こちらから言おうと思っていた事だった。

 それをアーネストから言われるなど思ってもいなかった。

 故に、返事が遅れた。


「……ならば、逆に問おう。お前は、私が勝ったら私の仲間になると言えるのか?」

「分かった。もし俺が負けたら、俺はお前の仲間になる」

「なっ……!?」


 この男は、上辺だけの嘘で言っているのではない。

 それが私には分かる。

 騎士である私に虚言は通用しない。

 故に、アーネストが本気で言っている事が理解出来てしまう。


「……本気、のようだな。お前からは真実の声しか聞こえん」

「ったりめぇだ。お前に仲間を裏切れって言ってんだぜ? なら、俺も同じモンを賭けるべきだ。それぐらいお前を仲間にする価値があると思ってる」


 そうか。こいつは本気で私を欲しいと言っているのか。

 ならば、それに応えないのは騎士として、そしてなにより女として不義理であろう。


「……。……私は『ヴィシュヌ』様直属の四聖天が一人、アクエリアス。しかしそれ以前に、一人の騎士でもある。良かろう、お前の提案飲んでやる」

「!!」

「楽しみだ、私の元で共に戦うお前を見るのがな」

「へへっ、俺も楽しみだぜ。お前が俺の仲間になってくれるのがよっ!」


 アーネスト、お前を私の仲間にしてやろう!

 そして、姉さんの大切な方を取り戻す為に力を貸してもらうぞ!

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