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678.アーネストside56

 今日は大会の決勝戦が行われる。

 会場は満員で観客席に居る人達は今か今かと待ちわびている様子だ。

 ……来たな。

 俺はテレビのリモコンを掴み、この島を映すチャンネルである十八をつけて見ていたのを切る。

 シュウヤ達は会場に直接応援に行かせた為、この場には俺だけが残っている。


 ある種の予感がしたから、ではない。

 俺に直接手紙が届いたからだ。


「よぉ、来たかアクエリアス」

「フ……力の差を知りながら、逃げなかったのは褒めてやろうアーネスト」


 漆黒の鎧を身に纏った黒騎士が、静かに歩いてくる。

 時間にしてこいつからしたら一日も経っていないわけだが、手紙の内容は俺との誰にも邪魔されない一騎打ちを望むとあった。


「人間達も戦いが好きなのだな?」


 アクエリアスはもう映っていないテレビの画面をチラリと見て、そう言う。

 恐らく今日がどういう日なのか把握しているんだろう。


「ああ、お祭りが好きなんだよ。戦いに限った話じゃねぇさ」

「そうか。しかし、それも今日で終わりだ」

「終わらねぇさ。俺がお前を倒すからな」

「ククッ……その意気や良し」


 会話をしながら、気になった事がある。

 こいつは、俺の姿を見ても何の反応も見せなかった。

 これだけ見た目が変わっているのに、だ。


「一つ聞きたい事があるアクエリアス」

「なんだ? 戦いの前に無粋だが……良いだろう、答えられる事であれば答えよう」

「お前、目が見えてないのか?」

「は? ……どうしてそう思う?」

「いや……自分で言うのもなんだけどさ。顔が大分変わってるだろ、体つきもだけどさ」


 本当に自分で言うのもなんなんだけどな。けど、今の姿は元の蓮二、いやアーネストの姿とは似ても似つかない、別人レベルなんだ。

 それなのに、アクエリアスは驚きもしなかったのが気になった。


「成程。ならばお前に問おう。道端の石ころが少し変わった事をお前は気にするのか?」

「……そーかい。つまらない事を聞いて悪かったな」


 そう言って、俺はネセルを構える。

 要は、こいつにとって姿形などその程度の事でしかないって事。

 変な話だが、俺は少しこいつの好感度が上がってしまった。


「フ……私が興味のあるのは強者だ、アーネスト。お前の腕が上がった事は肌で感じている。楽しみだぞ!」


 アクエリアスの全身から、漆黒の闇が迸る。


「ちょい待った。外でやろうぜ、家の中がグチャグチャになるのは勘弁だ」

「フ……お前は二度と……まぁ良い。それを気にして力が出せないのも本末転倒だからな」


 俺に背を向けて、外へと歩いていくアクエリアス。

 隙は無い。けれどそこまで簡単に背を向ける事に驚いた。

 それほどまでに自身の力に自信があるって事か?


「どうした?」


 そんな事を考えていたら、立ち止まって後ろを振り返るアクエリアス。

 俺は自然と口に出していた。


「なんでそんな簡単に背を向けられる? 俺は敵なんだぜ?」

「そんな事か。そういう対応をする奴には私もそういう対応で返すだけだ。だが、お前はしない。それくらいは分かる」

「!!」

「フ……速く出ろ。私はお前と戦いたいのだ」


 そう言って歩き出すアクエリアスを見て、俺は笑ってしまった。

 こいつが『ワイドランド』の幹部で、敵でさえなけりゃ……良いダチになれただろうにな。

 そう思うくらいに、俺はアクエリアスが気に入ってしまった。


「さて……では始めようか」

「……ああ。その前に、一つ賭けをしたい」

「何?」


 アクエリアスと向き合い、戦う前に……ある提案をする事にした。


「俺がこの戦いに勝ったら、お前は俺の仲間になれ」

「……。……何を言っている?」

「しゃーねぇだろ! お前の騎士道精神、俺は気に入っちまったんだよ! それに、お前は俺を見た目で判断しなかった! 中身を見て話してくれてた。俺はそれが嬉しかったんだよ!」

「……」

「お前はあの時、勝てたのに俺にとどめを刺さなかった。そりゃ蓮華が居たってのもあるだろうが……それでもお前は、他の皆にも手を出さなかった。敵なのは知ってるけど、お前自身が悪い奴とはどうしても思えねぇ」

「……ならば、逆に問おう。お前は、私が勝ったら私の仲間になると言えるのか?」

「分かった。もし俺が負けたら、俺はお前の仲間になる」

「なっ……!?」


 この返答には流石にアクエリアスも驚いたようだ。

 けど、それは当たり前の話だ。

 俺はアクエリアスに仲間を裏切れと言っているのと変わらない。

 それなのに、俺だけが裏切れないとは言えない。

 それじゃ気持ちの天秤が動くわけが無い。

 仲間にしたい気持ちは本気だ。

 本気だからこそ、覚悟を見せなければならないと俺は思う。


「……本気、のようだな。お前からは真実の声しか聞こえん」

「ったりめぇだ。お前に仲間を裏切れって言ってんだぜ? なら、俺も同じモンを賭けるべきだ。それぐらいお前を仲間にする価値があると思ってる」

「……。……私は『ヴィシュヌ』様直属の四聖天が一人、アクエリアス。しかしそれ以前に、一人の騎士でもある。良かろう、お前の提案飲んでやる」

「!!」

「楽しみだ、私の元で共に戦うお前を見るのがな」

「へへっ、俺も楽しみだぜ。お前が俺の仲間になってくれるのがよっ!」


 『オーラ』と『オーバーブースト』を同時に開放する。

 今の俺の体は、身体能力が数十倍になる『オーバーブースト』を重ね掛けをしても回路が焼ききれる事はない。

 身体への負担も本当に微々たるもの。

 これが神の肉体。母さんの力の恩恵。


「!! これ程か。フ……楽しみだ!」

「行くぜぇ、アクエリアスッ!」


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