677.アーネストside55
あけましておめでとうございます。
「モブ顔でもさ、主人公がイケメンじゃなくてもさ、なんでか女の子達に好かれてハーレムになってる話、沢山あるじゃん?」
「あ、ああ、そうだな。でもそれは主人公が頑張ってるからじゃねぇの?」
「それは勿論ある! けどな、男は結局顔なんだよ。性格がクズじゃねぇだけで、女の子からしたら良いわけだ。性格がクズじゃなければ」
「お、おお、そうか」
まぁ確かに、主人公に絡んでくるイケメンは大抵性格が悪い。それはそうしないと主人公の良さが出ないからだと俺は思いながら読んでたけど。というかなんで俺はそんな話を聞かされているのか。
「なのに! 顔までイケメンになるとかどうなってんだよアーネスト!?」
「そこで俺の話に繋がんの!?」
「当たり前だろ!? お前、顔が普通なのが俺達の希望だったのに、なんで顔までイケメンになってんだよ!? 不公平だろ!?」
「そうだ! そうだ!」
「何を阿呆な事言ってるのお兄ちゃん、剛史さん……」
熱く語るシュウヤに剛史が悪ノリしてる所へ、ミライがやってきてツッコミを入れた。
良いぞ、もっと言ってやってくれ。
「男は顔! 財産! 最後に性格に決まってるでしょ!」
「未来ちゃんの言う通り。顔が良ければ周りの皆に紹介する時にマウントが取れるし、財産があれば将来を憂う必要がなくなるし、好きな事が出来て好きな物が買える。最後に性格が優しければ言う事なし!」
「「「……」」」
俺達は一斉に黙るしかなかった。あまりにもシビアな考えすぎて。
「それに男だって、女の子を顔やスタイルで最初に選ぶじゃない。性格とか後付けでしょ?」
「そうそう。まず可愛いかどうかで判断して、それから性格も良ければ尚ヨシって感じなんでしょ?」
「「「……」」」
少なくとも俺はそうじゃないけど、大抵の男はそうかもしれないので、何も言い返せない。
シュウヤに剛史も俺寄りだと思うけど、今の俺と同じ考えに至ったのか、反論しない。
「というわけで師匠。今まで普通だった顔がクリアされたので、財産あり、性格良し、おまけにとんでもなく強い師匠は超優良物件なわけです。これから凄まじい縁談が……」
「あ、それはないよ麗華ちゃん。アーネストって特別公爵家の長男、ではないんだっけ? でも特別公爵家の息子だから、縁談とか王家や公爵家でも申し込めないんだよ。特別公爵家当主のマーガリン様がまず一考すらしないらしいよ」
あー、母さんは俺が気に入った人なら構わないって言ってたけど、俺に無理やり誰かとひっつける気は全くないって言ってたからな。
国にも公言してると聞いている。それは蓮華も同じだ。
「つまり、師匠と結婚するには、周りの援助なしで好きになって貰わなければならないという事ね?」
「そうなるね。で、その時点でこの恋愛に全く興味の無いアーネスト相手だから、時間を掛けるしかないと思うんだ」
「成程……特別公爵家について、教えてもらっても良いかしら未来ちゃん」
「うん! まずはね、特別公爵家は全ての国で……」
なんかミライと麗華が勉強に入ったので、俺達はその場から離れる。
というか麗華はこの世界から多分出れないんだけどな。
最後のオチが見えているというか。
「はぁ、アーネストは良いよなぁ。嫁さん見つけるの楽で」
「シュウヤだって簡単だろ。お前はミライを守ってきただろ? それだけでも責任感があるし、家族想いだ。おまけに気さくで仲間想いのお前の魅力に気付く女の子は必ずいるって」
「アーネストッ……お前ってやつは……くぅぅっ……!」
これは俺の本心だ。そんなシュウヤだからこそ、俺は仲間に加えたいと思ったんだからな。
「アーネスト! 俺は! 俺はっ!?」
「剛史は、まぁなんだ。大丈夫だ、きっと」
「俺の扱いが雑なんだけどぉ!?」
お前が良い奴なのは知ってるし、言うのは簡単なんだが……なんかこう、友達の良い所を褒めるって実は滅茶苦茶恥ずかしいよな、これ。
シュウヤでいっぱいいっぱいになったので、話題を逸らす事にした。
「あれだ、彩香ちゃんとか好きじゃないのか?」
「え? いやー、そりゃ好きか嫌いかで言えば好きだけどよ。なんつーか、色恋じゃねぇんだよなぁ。それに、彩香ちゃんは蓮二の事が好きだろ」
「え?」
「え?」
「そうなのか?」
「ああ、そうか。お前も元は蓮二だったっけ。で、気付いてないって事は本当の蓮二も気付いてないって事だよな。マジか……あの朴念仁が……」
彩香ちゃんが俺の事を好きだった? そりゃ懐かれてる気はしてたけど、兄妹のソレだと勝手に思っていた。
そうか……俺も恋愛もののお話を読んでいて、主人公の鈍感さに呆れてる事が多々あったけど……自分の立場になって初めて気付いた。
当たり前になっていると、気付けないものなんだな、と。
「そうか……彩香ちゃんに悪い事してたんだな。ま、この世界の蓮二に頑張ってもらおう。この世界の蓮二にはお前が居るんだ。大丈夫だろ」
「へへっ……ああ、任せろよ。俺のダチだからな!」
良い笑顔でそう言う剛史に、俺も笑う。
俺の元の世界では、剛史は居ない。まぁ、俺も居ないわけだけど……それでも、剛史が生きていてくれたら、と何度考えたか分からない。
この世界では、元の俺に剛史が友達として居てくれる。それがとても嬉しい。
「はぁっ……はぁっ……みんなして、なんのはなしを、してるん、ですか……」
走り込みをしていた彩香ちゃんが戻って来た。
腕と足に重りをつけて全力で走っていた為、全身汗まみれだ。
「彩香ちゃん、今回復してやるよ」
「アーネストさん、助かります……ふぅぅ~これすっごく気持ち良い~」
筋力に負荷を掛けた後に、一気に肉体疲労を回復する。
そうする事で筋力をすぐに上げる事が出来る。
時間が無い為、掛け足の強化をしているんだ。
「おっと、私も付き合おう。明日は私と対戦だしな彩香」
「うぇー、明日の対戦相手と訓練とか普通します?」
「どちらが勝っても師匠の目的は果たせるんだから、良いだろう? 負けるつもりはないけどな」
「カチーン! 私だって負けませんよー!」
二人は元気よく走り出した。まぁすぐにバテてここに来るだろうし、待ってるとするか。
「よっし、シュウヤ! 特訓再開しようぜ!」
「おお! やる気じゃねぇか剛史! 良いぜ、来いよ!」
シュウヤに剛史も、特訓を再開した。
それを横目に眺めていたら、ミライが傍にやって来た。
「どうしたミライ?」
「ん。アーネスト、蓮華さんは大丈夫って言ってたけど、勝てるの? あのアクエリアスっていう人? に……」
俺は一度アクエリアスに手も足も出せずに負けた。
それを見ているからこそ、不安なんだろう。
「ああ、大丈夫だ。今の俺は、もう以前の俺とは別人と思ってくれていい」
「!!」
「氷の魔女、原初の魔神や大魔導師と呼ばれてる俺や蓮華の母さん。その力を、全て受け継いだんだ」
「!?」
「そんな俺が、負けると思うか?」
自信満々に、不安そうなミライへと話しかける。
そんな不安を消し飛ばせるように。
「そっか、あのマーガリン様が手伝ってくれるようなものなんだね。ふふ、それは安心だね」
そこでようやく、ミライは笑ってくれた。
シュウヤにミライはリヴァルさんの未来で、共に戦った。
その時に敵としての母さんと、味方としての母さんを両方見ている。
凄まじい魔力で世界全てを破壊するような力を見せつける母さんの力を。
その力を受け継いだと言ったのだから。
「よーし、私も色々と魔道具作っておこう! アーネスト、手伝って!」
「俺は蓮華と違ってそういうの苦手なんだけどなぁ……しゃぁねぇな……」
その場に座り込んで色々な小道具を広げるミライに苦笑しながら、魔道具作りを手伝う事にする。
定期的に回復しにくる彩香ちゃんと麗華に、時々こっちに衝撃波を飛ばしてきてミライに怒られているシュウヤと剛史に笑う。
そうして、大会の決勝戦当日がやってきた。