676.蓮華side54
神島から『ポータル』を使いユグドラシル領の自宅へと戻った後は、『フラート』を使い空を飛んで天上界へと向かう。
"主、空に異質な者が多数出現しました"
「!!」
ソウルの声で周りを見渡すと、先程までは確かに居なかった場所に、魔物、だろうか?
翼を背中に生やした何かが居た。
「「「ギギギギ……」」」
人の言葉ではない、不協和音のようなノイズが聞こえる。
「ギギィー!!」
「!! はっ!」
「ギィヤァァァッ!?」
「「「!!」」」
一匹が襲い掛かって来たので、そのまま斬り捨てる。
すると、身体が消えて何かに変わり、落ちていく。
私は『ワープ』を使いそれを受け取り、確認した。
「なんだこれ、宝石……?」
とても小さな、だけど宝石のように綺麗な石だった。
「とりあえず、全部倒すか。ソウル!」
"はい、我が主! 存分に我をお使いください!"
殺る気満々のソウルを振るい、一匹、また一匹と倒していく。
ちゃんと宝石のような石を回収しておくのも忘れない。
私には分からないけれど、母さん達なら分かるかもしれないからね。
「ギィアァァァッ!」
そうして最後の一匹を倒した所で、少し離れた場所に紫色の丸い穴が突然出現した。
「なっ……」
そこから大きな手が穴の端を掴むように出てきた。
「ココガ、アラタナセカイ、カ……」
「!!」
言葉を話した!? 穴から出てきた巨大な、まず間違いなく人間ではないその存在は、魔物でもない気がする。
「ウマソウナ、ニンゲン……クウ……!」
会話が出来るかと期待したけれど、どうやら初手で人を食べようとするような感性のようだから、こちらも正当防衛させて貰おう。
「ガッ……バカ、ナ……!?」
ソウルで体を真っ二つにされたこいつは、信じられないという表情をした後……先程の奴らと同じように宝石のような石に変わった。
少しだけ他のより大きいような?
よく分からないけれど、これも袋に入れておこう。
「ソウル、知ってたりする?」
"いえ、申し訳ありません我が主。我もこのような存在は知りません"
ソウルでも知らないなら、これ以上考えるのも無駄だね。
さっさと天上界へ行……
「「「ギギギギ……」」」
「いやこれ、どうなってるの……」
倒したばかりだというのに、また先程の奴らが突然現れた。
「しょうがない、全部斬り倒すまでだっ!」
倒しても倒しても現れるこいつらだったけど、一時間程戦ったら出現しなくなった。
結構綺麗な石が沢山集まってしまった。
この石自体に特別な魔力は感じない。
「さて、ちょっと時間経ってしまったけど、急ごう」
それから天上界へと飛び、天上界の近くへ辿り着いたら……一目で異変が起こっているのが分かった。
先程倒した奴らが、うようよ飛んでいる。
ただ、天上界へは結界で入れていないようだけど……。
「魔法で一気に倒しても良いんだけど……天上界の下って地上か魔界だよね? 石が大量に雨みたいに降って来たら驚くよね?」
"主、気にする所はそこですか……"
なんかソウルに呆れられたけど、普通気にするじゃない?
超高熱の火や炎系の魔法なら、石ごと溶かせるだろうか。
立ち止まってそんな事を考えていたら、一筋の光が差したと思ったら、周りにいた奴らが全て消えた。
この力は間違いない。
「蓮華、来ましたか」
「兄さん!」
バチバチと光を纏った兄さんが、そこに居た!
私は兄さんの元へとすぐに飛ぶ。
「迎えに来てくれたの?」
「ええ。それと、この魔物達についても説明しなければと思いましてね」
「やっぱり兄さんなら知ってるんだね。途中で倒したんだけど、宝石みたいな石になったんだ。一応集めておいたけど……」
そう言って兄さんに袋ごと渡す。
受け取った兄さんは、私にそれを返した。
「それは持っておくと良いですよ蓮華。宝石で間違いありませんから、売って換金すると良いでしょう」
「やっぱり宝石なのこれ?」
「ええ。『ワイドランド』の一部の魔物は、別名宝石モンスターと呼ばれています。元が宝石であり、倒せば戻るのです」
「『ワイドランド』の魔物だったの!?」
道理で、突然現れるわけだ。
次元を繋げて送り込んできたって事か。
「魔界はすでにリンスレットが戻り、結界を張っています。天上界はユグドラシルが張りました。後は地上ですが……それは蓮華が張ると良いでしょう」
「え、私が?」
「ええ。マーガリンから蓮華が自身の力に目覚めた話は聞いています。そして、ユグドラシルも蓮華に任せると」
母さんと、ユグドラシルが……。
「分かった! それじゃ、すぐに地上に行くよ!」
「ああ、待ちなさい蓮華。今回は私も共に行きましょう」
「兄さんも?」
「勿論蓮華を信用していないわけではありませんよ?」
「あはは! そんなの分かってるよ!」
少し慌ててそう言う兄さんに笑ってしまう。
兄さんはいつも、私達の事を信じてくれている。
そんな事を今更疑う必要も無い。
「それじゃ行こっか兄さん!」
「ええ、蓮華。ただ、これから『ポータル』の使用は極力控えなさい」
「『ポータル』を? なんで……ってそうか、次元を繋げられるなら、『ポータル』に介入できるかもしれないのか」
天界で一度やられたように。
まぁあれは魔法陣に組み込まれた形だったけれど……。
「そういう事です。ヴィシュヌの件が解決するまでは、多用しない方が良いでしょう」
「分かったよ兄さん。それじゃ時間はちょっと掛かるけど、飛んで行こう!」
「地上にもすでに入り込んでいるでしょう。騎士団が対処しているとは思いますが」
そんなに強いとは思わなかったけど、それはあくまで今の私の力からしたら、だ。
急ごう……!